ERC第4戦:復帰参戦のアンドレアス・ミケルセンが快勝。オリバー・ソルベルグは4位

 2020年ERCヨーロッパ・ラリー選手権第4戦、11月6~8日開催の『ラリー・ハンガリー』は、シリーズ卒業生としてWRC世界ラリー選手権でも3勝を挙げているアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)が、全16SS中7ステージを制して完勝。

 2018年ERC王者アレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3 R5)や、MRFタイヤの開発を担うクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20 R5)、そして第2戦勝者で急遽シュコダ・ファビアR5 エボ2をドライブした19歳のオリバー・ソルベルグらを降し、貫禄の走りを披露した。

 ハンガリー北東部ニーレジュハーザ近郊のツイスティなターマックを舞台に開催されたラリーは、このイベントから来季を見据えて本格チャレンジを開始した、地元のトップ・カーズ・ラリーチームが投入するシュコダ・ファビア・ラリー2エボが躍動。

 ステアリングを託された元WRCファクトリー契約ドライバーのミケルセンは、これが今季初の本格的ラリー参戦にも関わらず、金曜オープニングのスーパースペシャルから2番手タイムを記録すると、土曜のSS2では“ロシアン・ロケット”ルカヤナクに次いでセカンドベストをマーク。

 さらにSS3ではスピンを喫しながらも初のベストを奪取すると、その後もSS5まで最速として、レグ1の全9ステージ中5つでステージウイナーを獲得する圧巻の速さを見せた。

「今日はとても良い1日だった。僕らはまだ制限内のスピードで、すべてを手の内に置いてリスクを避けているが、明日に向け充分なギャップを築くことができた。ピレリタイヤをテストすることが目的のひとつだし、これ以上を望んではいけないね」と、余裕すら感じさせる言葉を残したミケルセン。

 そんなノルウェー出身のWRC経験者にお株を奪われた感のある“ロシアン・ロケット”は、SS6でまさかのアーリーチェックインを犯してタイムペナルティ。5分間のビハインドは如何ともし難く「明日のステージを走るかどうか……今晩じっくりと決めたい」と、さすがに落胆を隠せず。予想外の形で優勝戦線から脱落することとなった。

 一方、ミケルセンの対抗馬として初日23.6秒差の2位につけたアイルランド出身のブリーンは、ジャンクションのオーバーシュートからスピンを喫しつつ、SS6、SS8でベストタイムを記録し、前回の第3戦で初のステージウインを勝ち獲ったインド製MRFタイヤに「手応えを感じている」と、その進化を強調した。

 その背後には、前戦をクラッシュとターボトラブルで落としたソルベルグが続いていたが、フォルクスワーゲン・ポロGTI R5に代わってステアリングを握った彼のシュコダは、SS7で右フロントを、SS9で左リヤと、相次いでパンクに見舞われ9番手に後退。同じくSS8まで4番手につけていたチームMRFタイヤのエミール・リンドホルム(シュコダ・ファビアR5 エボ2)も、SS9でコースオフしスタックしてしまう。

 この結果、前戦でERC1ジュニア初優勝を果たしたグレゴール・ミュンスター(ヒュンダイi20 R5)が3番手に浮上して夜を越すこととなった。

第2戦勝者で急遽シュコダ・ファビアR5 エボ2をドライブした19歳のオリバー・ソルベルグは、初日2回のパンクに泣く
SS6でまさかのアーリーチェックインとなった2018年ERC王者アレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3 R5)
MRFタイヤの開発を担うクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20 R5)は、SSベストを記録しながら2番手に着けたが……

■レグ2で2番手ブリーンのマシンにトラブル発生

 続くレグ2は優勝争いの2台がくっきり明暗の分かれる展開となり、朝のSS10からベストを記録した首位ミケルセンは、SS13ニーレジュハーザのスーパーSSのみ最速タイムでアピールすると、そのほかのステージはタイヤ評価に集中する余裕でフィニッシュランプへ。「これで2020年は今のところ無敗だね(笑)」と、今季初ラリーで最高の結果を手にし、ターマックでの速さとそのドライビングの才能がまったく色褪せていないことを満天下に示した。

 一方、チームMRFタイヤ初の表彰台を確実なものにするため、慎重なドライブを続けていた2番手ブリーンは、SS12で突如ヒュンダイi20 R5のエンジンが息絶え、すべての努力が水泡と帰す絶望の結末となってしまった。

「残念ながらループの第3ステージ終わりから数km離れたところで、エンジンが故障した。こういうとき指をさして誰かを責める意味はないよ。警告はほとんどなく、警告が出たときにはすでに被害が出ていたと思う」と肩を落としたブリーン。

「正直に言って、今日の課題はクルマをフィニッシュまで運ぶことだけで、それはイージーなことだったはずだ。ステージ上ではとても快適にドライビングできたし、皆の努力を思うと本当に残念だ。でも、MRFタイヤの進歩は間違いなく印象的で、今後も機会が訪れるよう努力を続けていく」

 ブリーン脱落で2番手に上がった2戦連続ERC1勝者ミュンスターの背後、地元で3位表彰台が期待されたノルベルト・ヘルツェグ(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)は、残り2ステージでパンクに見舞われ万事休す。6位に沈んだ4度のハンガリー王者に代わり、ヘルツェグ同様「道の真ん中を走ったのに原因がわからない」とこぼしつつ、前日のパンクから復帰したソルベルグがSS12、16でベストを記録して4位に。スペインのエフレン・ヤレーナ(シトロエンC3 R5)が、その4.5秒前方で最後のポディウムを獲得した。

 そしてもうひとり。前日のペナルティで総合18番手に沈んでいた失意の元チャンピオン、ルカヤナクはレグ2への出走を決意すると、ミスをしたコドライバーのドミトリー・エレミエフをフォローするかのように、4ステージを奪う速さでロシアン・ロケット健在をアピール。チャンピオンらしさを証明し、13位までポジションを回復して競技を終えている。

「この日の最速を勝ち獲ったという点で、今日のミッションは完了だ。リスク管理を学び、スピードと一貫性に集中した。本当に気持ちよかったね(笑)」と、自身のパフォーマンスに満足げなルカヤナク。

 続く2020年ERC第5戦は、スペインの大西洋沿岸に浮かぶ火山帯の一大観光地を舞台とした『ラリー・イソラス・カナリアス』が11月26~28日に開催予定。グラン・カナリア島の起伏に富んだワインディングは、アップダウンを繰り返しながらも火山岩の迫るコーナーを正確にクリアするべく、速度とラインに細心の注意を払い、適切なセットアップとペースノートの精度確保が求められる。

「多くの人々が僕のターマックでのパフォーマンスに懐疑的だったと思うが、それを覆せて良かった」とアンドレアス・ミケルセン
ノートラブルの堅実なラリー運びで、ERC1ジュニア連勝を飾ったグレゴール・ミュンスター(ヒュンダイi20 R5)
「シュコダは2017年にも試したが、その当時より格段に速さも信頼性も増している」と、シュコダ・ファビア・ラリー2エボに太鼓判のミケルセン

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