【北朝鮮国民インタビュー】「いっそ戦争になれば」バイデン氏当選で広がる懸念

今月3日に行われた米国大統領選挙では、民主党のジョー・バイデン候補が、共和党候補のドナルド・トランプ大統領を下した。まだ、選挙人による投票という手続きが残っているものの、来年1月に、第46代のアメリカ合衆国大統領にバイデン氏が就任することは確実だ。

トランプ氏は、2018年6月と2019年6月の2回にわたって金正恩党委員長と会談を行ったこともあり、北朝鮮国民も今回の米大統領選には並々ならぬ関心を持っていたようだ。

そこでデイリーNKは、首都・平壌と、中国と国境を接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住む2人の北朝鮮国民と、米大統領選についてのインタビューを行った。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞など北朝鮮の国営メディアは、12日の時点でも、選挙やバイデン氏勝利について一切報じていないが、すでに情報は広がっているようで、多くの人が結果について知っていることがわかった。

どちらかと言うとトランプ氏の再選を願う声が多かったが、バイデン氏の当選で、今後の米朝関係の行く先が読めなくなったことに対する不安の声も多いようだ。意外なところでは、女性として初の副大統領に当選したカマラ・ハリス氏への、女性からの期待の声が上がった。

同じ北朝鮮の人でも、住む地域、職業や地位などによって、意見は様々で、この2人の意見が北朝鮮国民を代表するわけではないが、今回のインタビューは、その地域の大体の空気を掴むのに、参考となるだろう。

―最近行われた米国の大統領選挙について知っているか?

平壌在住Aさん:知っている。

咸鏡北道在住Bさん:市場にいる人々の間でも米大統領選についての話が交わされていて、(国際情勢にそれなりの知識を持つ人なら)ほとんど知っていると思う。

―国内では米大統領選についてどんな話が交わされているか?

Aさん:民主主義というのは、泥仕合をするものなのか、自分の支持する側のためなら相手候補をけなすものなのか、腐った米国式民主主義の社会と真の姿を目の当たりにしたと言っている。

Bさん:トランプが勝つと思っていたが、バイデンが勝ったとの知らせを耳にして、やはり米国の選挙は最後まで見なければ(結果が)わからないと言う人が最も多い。依然として確実な当選者が決まっていないとはいうが、米朝首脳会談を通じて名前が知られたトランプの再選を願う空気だった。

―バイデン候補の当選が決まり、米国に新たな政権が誕生することになったことについての反応は?

Aさん:誰が大統領になろうとも、米国の本性は変わらないから関係ないという反応だ。民主党でも共和党でも、米国人であることには変わらない。ただし、またゼロから始めなければならない、原点に戻ってしまったと考える幹部もそれなりにいると聞いている。

Bさん:トランプを利用できるいい機会を逃したという反応が多い。バイデンが新大統領になり、米朝関係、特に元帥様(金正恩氏)に不利な環境になるのではないかと懸念があり、今のうちから倹約しておかなければという声も聞こえる。

―バイデン氏に対する住民の反応は?

Aさん:バイデンは年寄りで、わが国(北朝鮮)を軽蔑していると言っている。しかし、無謀な戦争を起こす頭のおかしい人ではないとの認識もある。

Bさん:バイデンが良い悪いという評価ではなく、今後わが国に対して、とくに一般国民のために、いかなる政策を行うかに関心が多い。バイデンがどんな朝鮮半島政策を繰り出してくるかによって、評価が変わるだろう。

―副大統領に当選したカマラ・ハリス候補も話題となっている。史上初の女性、アフリカ系、アジア系副大統領だが、どのような評価がされているか?

Aさん:女性幹部たちの間では、一番の話題となっている。うらやましいという反応だ。わが国では「女性は革命の片方の車輪を担う社会の主人」という教育をしているのに、女性幹部の数は増えるどころか減りつつある。わが国でも、道党(各道の労働党委員会)の責任秘書(委員長、道のトップ)を務める女性が現れるべきだと言われている。

Bさん:副大統領についての関心は低い。この地域では、大統領の留守を預かる代理といった認識しかない。

―米国の政権交代で、北朝鮮国民が最も期待することと、最も懸念することは?

Aさん:幹部たちは、米国を中心とした(国連安全保障理事会の)制裁が解除され、輸出入制限がなくなり、経済が活性化することを望んでいる。バイデンが(トランプと異なり北朝鮮に)強硬だとの認識もあるが、元帥様はトランプに苦い思いをさせられただけあって、二度の同じ手には乗らないという考えなので、今後数年間は苦しくなり、耐乏生活を強いられるかもしれないと心配している。今でも充分苦しいのに、さらに苦しくなったら、いったい一般国民は何年耐えられるだろうか、党に従ってくれるのだろうかと疑問を抱いている幹部もいる。

Bさん:米国の新大統領には、緊張を醸成してほしくないという期待が最も大きい。恐れているのは、方向を決めずに時間稼ぎだけして、庶民を苦しめる情勢の不安な状態だ。すでに失うものなどなにもない庶民は、いっそ戦争でも起きれば良いのにと考え、それなりの暮らしをしている人々は、戦争が起きるのでないかとそわそわしている。

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