ビジネス書に訊け! 第123回 「これハラスメントかも」とコミュニケーションを恐れる人へ

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悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自身の言動が「ハラスメント」にあたらないか恐れる人へのビジネス書です。

__■今回のお悩み
「昔と比べてさまざまなハラスメントに抵触しないか慎重に行動する必要がある」(35歳男性/公共サービス関連)__


モラハラ、セクハラ、マタハラなど、いまでは日常的に、さまざまなハラスメントに関する報道を目にするようになりました。

当然のことながらハラスメントは許されるべきではありませんから、それが社会問題化され、いろいろな動きが生まれたことには大きな意義があると思います。

なにしろ信じられない話ですが、パワハラということばすらなかった時代には、精神的・肉体的な苦痛を受けること(すなわちハラスメント)が当たり前の職場だって珍しくなかったのですから。

泣き寝入りする人もいたようですし、社会が現実に追いついていなかったのです。

そう考えると、"見えていなかった"あるいは"見て見ぬふりをされていた"問題に焦点が当たるようになった現代においては、社会が働く人に寄り添うようになったと考えることもできます。

「まだまだだ」という意見もあるでしょうが、少しずつでも状況が改善されていくことは決して無意味ではないと思います。

ただ、その一方、新たな問題が出てきたこともまた事実。今回のご相談がそうであるように、「いままで悪意なくやっていたこと」とか、「よかれと思ってやっていたこと」が、ハラスメントに抵触する可能性が出てきたわけです。

たとえば上司は、部下に成長してほしいからこそ「あえてきついことを言う」こともあるはず。ところが、それがパワハラだと言われてしまうケースも出てくるようになったということです。

明らかな悪意に基づいたパワハラならともかく、善意が誤解を生んでしまうのですから困りもの。そうなるとお互いに信じ合えなくなり、健全なコミュニケーションすらとりづらくなってしまいますよね。

残念な状況ではありますが、相手を苦痛にさせてしまうのであれば、たしかに"慎重に行動する"ことも必要となるのでしょう。

でも"慎重に行動する"ためには、「なにがOKで、なにがアウトなのか」を知っておく必要があります。法律の問題など、わからないことは多いはずだから。

社会人がやりがちな"アウト"を知る

そこで参考にしたいのが、『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(菊間千乃 著、アスコム)。

「こんなこと、昔はたいした問題ではなかった」というような意識のままでいると、予想外のトラブルに巻き込まれてしまうかもしれないーー。弁護士である著者はそんな観点から、仕事やプライベートで「ついやってしまいがち」な事柄を取り上げ、"それがどのような法律違反にあたるか、あるいは会社において懲戒処分になりかねないか"ということに焦点を絞っているのです。

気になるパワハラが冒頭で取り上げられていることも、この問題の深刻さを象徴しているかのようです。

パワハラとは、(1)優越的な関係を背景とし、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、(3)労働者の就業環境を害することをいいます。(15ページより)

部下が同じミスを何度も繰り返した結果、とうとう取引先を失うほどの事態を招いてしまったため、多くの社員がいる前で「辞めちまえ!」と怒鳴ってしまったとしましょう。

もちろんその場合、目的は部下の教育だったはず。とはいえ、同僚の前でそんな風に怒鳴られてしまったとしたら、部下はひどく落ち込んで職場に来るのが嫌になってしまうかもしれません。

そもそもみんなの前で怒鳴る必要はなく、別室で注意するとか、再発防止策を一緒に考えるなど、他の方法も考えられるわけです。

しかもこのケースのような言動は、上記の規定にあてはめればパワハラと認定されるおそれがあり、社内規定に則り懲戒処分になる可能性もあるのだとか。

また昨今は、パワハラをした上司や会社を相手に、部下が損害賠償請求の訴訟を起こすこともあるといいます。

そうした状況だからこそ、感情に任せた言動は、控えておいたほうがいいということ。

しかし、そこで気づくのは"ジェネレーションギャップ"の存在です。同じことがらでも、世代によって解釈の仕方が大きく変わるのですから、なかなか難しい問題ではあります。

相手との世代の違いを理解する

だからこそ、『上司の常識は、部下にとって非常識〜イライラと気苦労がなくなる部下育成の技術〜』(榎本博明 著、クロスメディア・パブリッシング)の著者による、以下のような指摘を心に留めておきたい気がします。

部下の扱いに手を焼くのは、理解に苦しむ行動の背後にある心理メカニズムが分からないからだ。なぜそんな行動をとるのかがわかれば、適切な対処法が見えてくる。部下の心理メカニズムが読めるようになれば、どんなフォローをすればよいかがわかる。どんなふうに注意すれば反発されずに素直に聞いてもらえるかがわかる。日頃からどんなかかわりをもっていればよいかがわかる。(「はじめに」より)

そこで本書では、部下から信頼される上司になるために必要な考え方や行動の仕方を紹介しているわけです。たとえば「パワハラ的な乱暴な言い方をする上司」について、著者は次のように分析しています。

上の世代はきつい言い方をされて育っているため、自分の暴言もきついと思っていない。ゆえに、上司としては、自分が暴言を吐いているといった自覚はまったくないのがふつうだ。それなのに、「パワハラだ」と噂を立てられたり、総務に訴えられたりして、「ウソだろ、なんでオレがパワハラ?」と慌てることになる。(141ページより)

なぜ、そうなってしまうのか? その理由について著者は、「いまの若手は、きつい言い方には拒絶反応を示すだけで、背後にある『育ててやりたい』といった温かい思いを汲み取ったりしない」からだと分析しています。

すべての若手がそうだとは言い切れない気もしますが、厳しい言い方をされて、「負けるものか」と発奮するような人が少ない世代であることは事実かもしれません。

したがって、「乱暴な言い方はとにかく避けるべきだろう」と著者はまとめています。が、むしろ大切なのは「そこから先」、すなわち"伝え方""話し方"なのではないでしょうか。

誤解されない「話し方」を心がける

そこで最後に、『人は話し方が9割』(永松茂久 著、すばる舎)をご紹介しておきたいと思います。タイトルから推測できるとおり、「好かれる話し方のコツ」を紹介した書籍。

たとえば上司から、上記のような"適切でない話し方"をされたとしたら、部下は気分を害したり、反抗したりすることになるかもしれません。それが、「パワハラを受けている」という誤解につながることも考えられるわけです。

それらの多くは、誤解が招いたものであるとも考えられます。しかし、だとすれば、誤解されない話し方をすることはやはり大切なのです。

そのいい例が、「正論」の伝え方。正しすぎる「正論」は、相手の逃げ場を塞いで追い込んでしまうこともあるからです。いいかえれば、「正論」だからこそ、真正面から言わない配慮が必要だということ。

正論を正論のまま言うことは、「あなたは間違っていますよ」と真正面から相手を斬りつけるようなもの。
相手も当然身構えて、臨戦態勢をとってきます。
そうではなくて、
「私も同じ間違いをしたことがあるのですが……」
「私も昔上司から怒られたのですが……」
と、相手と同じ目線に自分を置き、相手に寄り添いながら共感を得るような伝え方をしていく。(159ページより)

こうした繊細な配慮のできる人こそが、「人間関係がスムーズにいく人」だと著者は言うのです。

『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』のところで触れた、失敗した部下の扱い方に当てはめてみればわかりやすいと思います。

「やめちまえ!」と怒鳴りたかったとしても、あえて感情を出さず、「私も君くらいのころ、似たような失敗をしたよ」というように、まずは冷静に歩み寄ってみる。そして、「じゃあ、同じ間違いを繰り返さないように、どうしたらいいか一緒に考えてみよう」と提案してみる。

そんな姿勢が大切なのではないかと考えるのです。

いきなり「ふざけるな!」と罵倒されたとしたら、過ちについての指摘も素直に受け取りにくくなってしまいます。でも、このような角度から接してみれば、部下も素直に受け止めることができるようになるはずなのですから。


「ハラスメントに抵触しないか」と上司が慎重にならざるを得ない状況は、少なくとも健全ではないかもしれません。しかし、だからこそ、「では、どうするのがベストなのだろう?」と考え、行動することは重要。

簡単に解決できるような問題ではないでしょうが、前向きに考えれば、適切な道筋が見えてくるものだと思います。

印南敦史