遠藤周作の未発表作 「影に対して-」刊行

「影に対して 母をめぐる物語」

 「沈黙」など長崎県ゆかりの作品を残した作家遠藤周作(1923~96年)の小説集「影に対して 母をめぐる物語」(新潮社)が刊行された。未発表作「影に対して」のほか、母への思慕を本県の隠れキリシタンに重ねて描いた短編「母なるもの」など全7編。遠藤に関する本の刊行は2018年の「遠藤周作全日記 1950-1993」(河出書房新社)以来2年ぶり。
 「影に対して」は今年2月、長崎市遠藤周作文学館で自筆草稿(一部、原稿用紙2枚)と清書原稿(全文、同104枚)が見つかった。母の生きざまに強く影響を受ける男が主人公で、遠藤本人の体験に根差した自伝的小説。
 物語はかつて小説家を目指し、今では妻子を養うため外国小説の翻訳で生計を立てる勝呂(すぐろ)が主人公。幼いころ、平凡に生きる父と、音楽家としての道を追求する母が離婚。勝呂は父のもとで成長するが、やがて母は病で亡くなる。「母を見捨てた」という後悔の念を強める勝呂は生前の母を知る人々を訪ね、自らの生き方を振り返るというストーリー。未発表原稿を発見した同館の川﨑友理子学芸員(27)は「刊行されてうれしい。作品を通じ遠藤が母に抱いていた深い思いに触れてほしい」と話している。
 四六判、256ページ。1760円。

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