鬼滅の刃はアメリカの映画館を救えるのか〜Demon Slayer: Kimetsu No Yaiba

 現在、日本では空前の“鬼滅ブーム”である。上映中の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は最短で興行収入100億円を達成。2020年11月8日現在、約204.8億となり、歴代5位につけている。まだまだこの勢いは続くことだろう。米国でも「鬼滅の刃」は「デーモン・スレイヤー(Demon Slayer: Kimetsu No Yaiba)」の名で人気となっている。今回はそんな「鬼滅の刃」が、コロナ禍で苦しむ米国の映画館を救う一助と成り得るのか見ていきたいと思う。

パンデミックに苦しむ米国の映画館

 現在アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、1日に14万人もの感染者が出ている。これに伴い、映画館も入場規制をなかなか緩めることができていない。先月、ニューヨーク州の郊外では、収容可能人員の25%という規制のもと、やっと営業が再開された。

 しかしそんな中、大ヒットシリーズ最新作「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開延期が決定したことを受けて、アメリカ業界2位の映画館リーガルシネマズが全館閉鎖を決定した。

 映画の制作側は、映画館が開いていないと映画を公開することができない。映画館側は人気映画が公開されなければ、営業を続けることができない。まさに負のスパイラルに陥ってしまっている。

  このような環境の中で、日本の“鬼滅ブーム”はアメリカにとっても、明るいニュースとなったのだろう。ニューヨークタイムズ紙も、What Pandemic? Japanese Film Draws a Record Flood of Moviegoersという記事で「たとえ混雑した場所であっても、安全だと感じることができれば観客は一気に戻ってくることを示した」と映画館復興の可能性に期待をしている。

 「鬼滅の刃」は米国の映画館を救えるか

 では本当に「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、苦境にあるアメリカの映画館を救うことができるのだろうか。現在、映画はまだ公開されておらず、2021年初頭の公開予定であるため、どれ程の経済効果が期待できるかは、まだ未知数だ。そこでコミックスの売上から探ってみよう。米国版アマゾンのBest Sellers in Teen & Young Adult Comics & Graphic Novelsでベストセラーランキングを調べてみた。11月12日現在のランキングトップ10は以下の通りだ。

 1. 僕のヒーローアカデミア 第1巻

2. 僕のヒーローアカデミア 第2巻

3. 呪術廻戦 第1巻

4. 僕のヒーローアカデミア 第25巻

5. 僕のヒーローアカデミア 第3巻

6. ハイキュー 第1巻呪術廻戦 第2巻

7. 呪術廻戦 第2巻

8. 鬼滅の刃 第1巻

9. 僕のヒーローアカデミア 第24巻

10. 僕のヒーローアカデミア 第4巻

 なんとアメリカでは“鬼滅ブーム”ではなく、“ヒロアカブーム”となっていた。ちなみにヒロアカの映画「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」は、今年2月にアメリカで公開されており、約1330万ドル(約14億円)の興行収入を得ている。「鬼滅の刃」が日本で200億円以上の興行収入を得ていることと比較すると、どうしても規模が小さく感じてしまうだろう。しかしこれは、アメリカにおける歴代日本アニメの興行収入ランキング第9位につける人気で、「もののけ姫」や「君の名は。」を上回る数字だ。

 「鬼滅の刃」も一部熱狂的なファンは獲得しているが、客観的な数字を見てみると、期待されているほど、アメリカの映画産業を復興させる影響力はないのかもしれない。ただし、今回の日本での“鬼滅ブーム”を通じて、世界にはエンタメ需要がふつふつと溜まっているという期待感を示せたことは間違いないだろう。

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