【アメリカ大統領選挙①】バイデン次期大統領がシリコンバレーに及ぼす影響とは

 アメリカで2020年最大ともいえるトピックだった大統領選挙が、民主党候補ジョー・バイデンが現大統領の共和党ドナルド・トランプを破り見事に当選することで(トランプはまだ敗北を認めていないが)幕を閉じた。

 保守的な政策をもとにアメリカ自国主義を推し進めた4年間のトランプ政権が幕を閉じ、一般的にリベラルな政策を採用するケースの多い民主党のバイデンがどのようにアメリカを指揮していくのか注目が集まっている。

 その注目は、イノベーションの源泉として多くの人材と資金が集まるスタートアップにとっても同じであろう。GAFAをはじめとするテック企業に批判的だったトランプからバイデンに大統領が代わることに、シリコンバレーのプレイヤーは状況の改善を期待していることであろう。実際にシリコンバレーの属するカリフォルニア州ではバイデンが64.25%の票を確保、全州で最大の選挙人となる55人を獲得している。

 本記事以降、アメリカのFintechスタートアップBrex(*1)が昨年12月に公開した、2020年の大統領選挙がテック業界に与える影響を6つの切り口から論じた記事”Electron 2020 and Tech”の内容を前後半に分けて紹介しながら、今後の成り行きについて考えてみたい。なお、この引用記事では民主党代表がバイデンに決まる前に書かれた記事となっているため、バイデンを含めた3名の民主党候補(他バーニー・サンダース、エイミー・クロブシャー両候補)、およびトランプを比較しながら議論が進められている。前半となる本記事では、6つの切り口のうち3つの内容を紹介したい。

*1 Brexは2017年にサンフランシスコにて創業し、スタートアップをはじめとする小規模な事業体が容易に金融サービスを受けることのできるプラットフォームを展開しているユニコーン企業。その他、自社の顧客ネットワークをもとにシリコンバレーの現地情報を活発に発信している。TechCrunch Disrupt 2019でもBrexは会場の中心にひときわ大きく目立つブースを開設していた。

1.インターネットの中立性 - 大きな改善は期待できないか

 インターネットの中立性とは、公共事業としてのインターネットにあらゆる通信も平等に扱われるべきだという考え方で、オバマ前政権下で活発化したこの議論を民主党は活発に支持する一方、共和党はアメリカ通信大手ベライゾンに関係をもつリーダーシップをもとに支持しない方針をとっているよう。

 しかし、本選挙においてバイデン候補は特段大きな方針を示していないことから、自ずから新規参入の立ち位置となるスタートアップにとって脅威となる中立性の改善は大きくは見込めないと考えられている。

2. テック企業への待遇 - GAFAにとって追い風か

 オバマ前政権がテック企業に友好的であったのに対して、トランプ政権はGAFAをはじめとする「ビッグ・テック」にことごとく批判的であった。FacebookなどSNSが保守的な意見を抑圧していると非難したことは典型的であろう。

 ただし、全世界で強大な権力をもつビッグ・テックには党にかかわらず批判的な人も一定数いるようだ。その中で、バイデンはオバマ前大統領の側近を務めた経験から、再びオバマ政権時のような友好的な関係へと戻ることへの期待は、他の民主党候補に比べても大きいことがうかがえる。

3. 移民 - 「鎖国」状態からの開放に期待

 アメリカの起業家の20%、シリコンバレーに限っては41%が他国からの流入であるようだ。また激しい競争を勝ち抜かなくてはいけないスタートアップにとって、アメリカ国内だけでは優秀な人材を確保することができないため、他国からアメリカへの人材流入にも期待したいところだ。

 しかし、トランプはその期待を裏切る方針を4年間とっていた。民主党候補の中でサンダース、クロブシャー両候補は移民政策に対してはっきりと国境の緩和を明言しており、確実に状況の改善を見込むことができた一方で、バイデンにそのような発言はないよう。一方で、オバマ政権下の移民緩和政策はバイデンが主導していたことから、一定の期待は寄せられているようだ。

  いかがだろうか。ビジネスモデル自体が「保守的」であってはいけないスタートアップにとっては、上記の3つの項目だけでも政権交代で大きなメリットを享受しうることがおわかりになったのではないだろうか。アメリカの経済を牽引し続けているシリコンバレー発のテック企業が、今後どのように誕生し、成長していくのか楽しみでならない。

 後半となる次回は、知的財産・海外取引・政府による研究開発援助の観点から今後のアメリカ・スタートアップ・エコシステムを俯瞰する。

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