日本初「すべり落ちないマスク」 諫早・小長井の「美泉」開発 九州ベンチャー大会で優秀賞

左耳にかけなくても顔にフィットする「すべり落ちないマスク」(美泉提供)

耳にかけなくても滑り落ちない?-。長崎県諫早市小長井町の縫製業「美泉」(井上孝輔社長)が、鼻の部分に滑り止めを縫い付けた“日本初”の「すべり落ちないマスク」を開発、12日から販売を始めた。生まれつき片方の耳がない小耳症の女の子が、コロナ禍でマスクを着けられないことを知ったのがきっかけ。4日、福岡市で開かれた九州・山口ベンチャーマーケットの第二創業部門で、潜在的なニーズに応える“ニッチ”な開発戦略を発表、長崎県企業で初の優秀賞を獲得した。

九州・山口ベンチャーマーケット第二創業部門で優秀賞を獲得した美泉の井上社長(右)=福岡市内(実行委提供)

 同社は3月以降、赤ちゃん用肌着で評価が高いオーガニックコットンのガーゼマスクや、着け心地が軽い吸水速乾クール・マスクを開発、販売。1982年創業以来、水着の縫製で培った技術力がマスク製造に生かされている。
 「耳にかけないマスクはないの?」-。10月上旬、小耳症の女の子が使えるマスクを求める客の言葉にはっとした。マスクが欠かせない「新しい生活様式」で見落とされている問題がある-。井上社長(40)はこう痛感し、「オーダーメードで作ります」と即答した。
 この出会いをツイッターに投稿すると反響を呼び、全国の小耳症患者の団体から問い合わせが相次いだ。小耳症は、日本では2万人に3人の割合で発症するといわれ、国内外で多くの人がこの病気に悩んでいるとみられる。
 「すべり落ちないマスク」は吸水速乾カラー・マスクを応用。鼻に接するマスクの内側にシリコンコーティングされたテープを輪状にして縫い付け、テープ表面のシリコンが鼻にフィットする工夫を加えた。
 さらに、マスクの耳にかかる部分同士をフック付きの布製ゴムで結べば、顔から外れず、髪の長さにも影響しない。完成したマスクは同社に来た客の知人を通して、女の子に贈った。

マスク内側の鼻に接する部分に縫い付けた滑り止めのテープ(中央上)(美泉提供)

 世界での活躍を目指すベンチャー企業が技術や商品を発表する九州・山口ベンチャーマーケットは9県と九州経済連合会などでつくる実行委が主催。今回で6回目。創業10年以上を対象に新設された第二創業部門は、同社など9社が参加。他の部門を含め、本県企業の優秀賞獲得は初めて。
 井上社長は「伸縮性の高い生地を縫えるわが社の強みで、喜んでもらえる商品になった。世界中で困っている人に笑顔を届けたい」と話し、海外での販路開拓を目指していく。
 「すべり落ちないマスク」は実用新案を申請中。18色、サイズは4種類(S525円、M、L545円、XL565円=税別)。美泉(電0957.34.4751、土日祝休み)、ネット販売(www.marmaille.jp)。


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