<レスリング>【2020年全日本大学選手権・特集】「4年間やってきてよかった」…入学後にレスリングを始めたオリンピック金メダリストの孫、猪熊昌(慶大)

全日本チャンピオンの奥井真吉(赤=国士舘大)に挑んだ猪熊だが、力及ばず=撮影・矢吹建夫

 全日本大学選手権86kg級に、1964年東京オリンピックの柔道・重量級の金メダリスト、猪熊功さんの孫、猪熊昌(慶大4年)が初出場。初戦で79kg級全日本チャンピオンの奥井真吉(国士舘大)と対戦し、0-11のテクニカルフォールで敗れた。

 「実力差があることは分かっていた。前に出ることを意識し、気持ちで負けないように闘ったのですが…。精いっぱい闘ったつもりです」と振り返った猪熊は、最後の大会出場になるであろう今月26日の東日本学生選手権に向け、「悔いのないよう、あと2週間、しっかり追い込もうかと思っています」と気を取り直した。

 父も柔道選手だったが、柔道を押し付けられなかったこともあり、柔道とは無縁の少年時代。「性格的に格闘技をやるタイプではなかったです」。坂本龍馬などに興味があったことで、中学・高校時代に剣道をやっていたが、本気では取り組んでいなかったそうだ。

 慶大の一般入試に合格し、「このままではよくない」と思うと同時に、その頃から格闘技への興味が湧いてきた。「やはり血なんでしょうかね」。慶大レスリング部は初心者が多いこともあり、自ら飛び込んだ。金メダリストの孫であることは「自分から言うものではないです」と表に出さなかったが、スポーツ界で「猪熊」という姓にピンとくる人は少なくない。すぐに素性が知れ、スポーツ新聞に取り上げられたりもした。

レガシー(遺産)とは、格闘技の結果だけとは思っていない

 そうなると、「祖父と差があって、正直、恥ずかしい気持ちがありました」とプレッシャーも感じた。一方で、「取材してもらえることに感謝しないとならない」という思いが努力につながり、新人選手権Bグループ(大学入学後に競技を始めた選手による部門)で2度2位になるなど奮戦した。

初戦敗退だったが、今月26日の東日本学生選手権にかける=同

 大学でレスリングをやっている選手は、ほとんどがキッズから、あるいは高校からレスリングをやっている選手。壁の高さを感じて「モチベーションに波がありました」とのことだが、「その中で、どうやって慶応のレスリングを出していこうかと思ってやってきた」と言う。あと1大会を残した段階で「優勝」とは縁がないが、「4年間、レスリングをやってきてよかった」ときっぱり。

 「猪熊家のレガシー(遺産)を引き継がねばならない」とも言う。レガシーとは、格闘技の結果だけとは思っていない。「レスリングで上に行くことは厳しかったのですが、仕事とか他のことで結果を出していきたい」。この4年間の経験を元に、社会に貢献できる人間を目指す。

 来年は視野を広げるため、卒業を先延ばしにして留学などを考えている。社会人になる前の強固な基盤をつくる予定で、祖父が燃えたオリンピックは、「チケットは取っています。雰囲気を感じたいです」と言う。

 今は、まず東日本学生選手権であり、大会ではないがその翌週の早慶戦に全力投球。「自分にしかできないことがあると思う。自分なりの貢献を意識して頑張りたい」と燃えていた。

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