ロバート・パーマーの2枚組大作「ドント・エクスプレイン」の魅力 1990年 11月14日 ロバート・パーマーのアルバム「ドント・エクスプレイン」が日本でリリースされた日

全18曲、LP2枚組の大作「ドント・エクスプレイン」

先日リマインダーが投げかけたツイッターの #80年代洋楽ドラムイントロ でも多くの方が挙げていた、1985年のザ・パワー・ステーション「サム・ライク・イット・ホット」。

この曲のヴォーカリストとして突如シーンの最前線に躍り出たロバート・パーマーが、やりたいことを全てやり切ったのが今回取り上げる5年後の大作『ドント・エクスプレイン』だったのではなかろうか。

It was 30 years ago today.
1990年11月14日、ロバート・パーマーの2年振りのアルバム『ドント・エクスプレイン』が日本でリリースされた(英米では5日)。

全18曲、LPだと2枚組というヴォリュームはパーマーのキャリアで最大。その中身にもひっくり返った。アルバムはほぼ3つのパートに別れ、パワー・ステーションばりのハードロック、ワールドミュージック、ジャズのスタンダードナンバーがそれぞれ収められていたのである。

1985年ザ・パワー・ステーションのヴォーカリストとして大ブレイク

ロバート・パーマーのソロデビューは1974年。ザ・パワー・ステーションでの大ブレイクまで10余年を要していた。しかしパーマーは自らのソロ活動のためツアーには参加せず、1985年に開催されたライヴエイドでもパワー・ステーションのヴォーカリストは別の人物が務めた。

同年、パーマーはソロアルバム『リップタイド』をリリースする。プロデューサーはパワー・ステーションと同じシックのバーナード・エドワーズ。パワー・ステーションのギター・アンディ・テイラーとドラムス・トニー・トンプソンも参加していた。

セカンドシングルの「恋におぼれて(Addicted to Love)」が全米No.1を獲得した。無表情の女性モデルのバンドを従えて本人が歌う大発明のMVのお陰もあっただろう。4枚めのシングル「ターン・ユー・オン(I Didn't Mean to Turn You On)」でも同様のMVを作り、全米No.2のヒットを記録している。

それから3年後の1988年、レコード会社を移籍し出したアルバムが『HEAVY NOVA』だった。プロデュースはパーマー自身。パワー・ステーション色の強いファーストシングル「この愛にすべてを(Simply Irresistible)」でパーマーは三度(みたび)女性モデルバンドのMVを作り、この曲も全米No.2の大ヒットとなった。

しかしこのアルバムではヨーデルやアフリカンミュージック、ジャズスタンダードへのアプローチも見せ、パワー・ステーションと異なる色合いも見せ始めていたのである。

ハードロック、ワールドミュージック、ジャズ… 3つの顔を持つアルバム

さらにその傾向が強くなったのが『ドント・エクスプレイン』であった。

5曲めまで、LPだとA面がパワー・ステーションばりのハードロック。プロデュースはパーマー自身。5曲めの「ユー・アー・アメイジング」はアメリカでリリースされたがMVが例の演出ではなかったこともあり28位止まりに終わっている。

続く11曲めまでがワールドミュージック。LPだとB面とC面1曲め。半分の曲を、マイルス・デイビスのプロデュースで名高いテオ・マセロがパーマーと共同プロデュースしている。

そして12曲め以降、LPだとC面2曲めからD面までがジャズスタンダードである。パーマープロデュースの1曲を除き、全てマセロが単独プロデュース。プリンスとの仕事で知られるクレア・フィッシャーがストリングスのアレンジを手掛けた。アルバムタイトル曲である12曲め「ドント・エクスプレイン」はビリー・ホリデイの曲のカヴァーである。

この中でチャートを賑わせたのが、ワールドミュージックからの2曲「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」と「マーシー・マーシー・ミー / アイ・ウォント・ユー」であった。

定評あるカヴァーセンス、ボブ・ディランやマーヴィン・ゲイに新たな彩り

パーマーの本国イギリス、まずシングルカットされたのが9曲めの「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」だった。レゲエバンドUB40との共演で、ボブ・ディランの1967年の曲をカヴァー。プロデュースはパーマー単独。元はカントリー調のディランの曲を底抜けに明るく楽しいレゲエナンバーに生まれ変わらせたそのセンスは “流石” のひと言。見事イギリスでは6位のヒットとなり、ヨーロッパ、オセアニアでも相次いでトップ10入りを果たした。

そして3枚めのシングルとなったのが11曲めの「マーシー・マーシー・ミー / アイ・ウォント・ユー」。マーヴィン・ゲイの曲のカヴァーのメドレーなのだが、前者が1971年の環境問題を歌ったゲイの自作曲、後者が1976年の他のライターから提供されたラヴソングと、生まれた時期もテーマも全く異なる曲が繋がっている。しかもこの2曲が全く違和感無く溶け込んでいるのには舌を巻かざるを得ない。先述のマセロとパーマーがプロデュース。ワールドミュージックにジャンル分けしたがジャズの香りのするR&Bである。

この曲もイギリスで9位にランクイン。苦戦していたアメリカでも16位を記録し、このアルバムからの一番のヒットとなった。ディランとレゲエ、時期もテーマも異なる2曲のメドレー、いずれのカヴァーも “異種格闘技” という言葉が相応しいような力業ではないか。これがロバート・パーマーという奇才の力量なのである。

アレンジからハードロックに分類したが4曲めの「ドリームズ・トゥ・リメンバー」もオーティス・レディングの曲のカヴァーであった。パーマーの地力ある歌唱はゲイもレディングもものともしなかった。

ロバート・パーマーは元々カヴァーのセンスに定評があった。その実力がチャート面でも如何なく発揮されたのがこの『ドント・エクスプレイン』だったと言えよう。ヒットを連発したお陰かイギリスではアルバムも最高9位を記録し、アメリカでの88位を遥かに上回った。

そしてこのアルバムはパーマーの音楽性の幅広さを存分に味わえるアルバムでもある。この、悪い言葉で言えば “まとまりの無さ” もロバート・パーマーの魅力なのである。この2年後にパーマーが発表した『ライディン・ハイ』は何と全曲ジャズスタンダードだった。以降もマイペースで活動を続け、2003年、54歳の若さで早逝している。

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カタリベ: 宮木宣嗣

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