<社説>香港議員の資格?奪 「一国二制度」破壊するな

 中国の習近平指導部が、香港立法会(議会)の民主派議員4人の議員資格を?奪した。

 司法の判断を仰がず、香港の議会で審議せず、直接選挙で選ばれた4人の議員を追いやった。民主主義の基本である選挙制度を傷つけ、香港の民意をないがしろにする中国の姿勢は容認できない。

 中国は香港に「高度の自治」を保障することを対外的に約束したはずだ。「内政干渉」という強弁は国際社会で通用しない。強権発動によって香港の「一国二制度」を破壊してはならない。

 昨年の「逃亡犯条例」改正案をきっかけに始まった反中デモは、100万人規模の市民が参加するほど高まりをみせた。このため中国は反政府的な言動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)を制定し、デモを封じ込めた。4人は国安法に反対した言動などが問題視され、9月に予定されていた立法会選挙(来年に延期)への立候補資格審査で失格となっていた。

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会会議は、香港独立を宣伝したり、外国勢力に香港への干渉を求めたりすれば香港立法会の議員資格を失うと決定した。これを受けて香港政府は、民主派議員4人の資格を即日?奪すると宣言した。思想の自由の侵害にほかならない。

 全人代の決定は、民主主義で重視される手続きの否定であり、看過できない。

 これまで香港政府が議員資格?奪を求める場合、裁判所に提訴しなければならなかった。だが、今回の決定によって、司法の独立を骨抜きにし、香港政府に強い権限を与えたことになる。

 香港基本法(憲法に相当)79条によると、立法会出席議員の3分の2が賛成すれば「不適切な行為を行った」議員の資格を奪うことができる。定数が70人の立法会は、現在8人が欠員で、議員総数は62人。3分の2は42人以上が必要だが、親中派は41人で1人足りなかった。

 そこで民主派4人の資格を剥奪することによって、議員数を58人に減らし、3分の2は39人となった。強権を使って3分の2を確保させたのだ。41人の親中派は、数の力で残る民主派全ての議員資格を奪うことが可能になる。

 全人代の決定は、具体的にどんな行為が議員資格?奪の対象になるのか示していない。権力者が恣意的に決めることができる。

 全人代の議員資格?奪に抗議するため、残りの民主派議員15人は辞表を提出した。立法会の構成は親中派が大半を占めることになる。中国や香港政府に異を唱える議員がいなくなれば、立法会は単なる当局の「追認機関」になってしまうだろう。

 中国は司法と立法を形骸化することで「一国二制度」を消し去ろうとしている。日本を含む国際社会は、民主化を求める香港市民の声をしっかり受け止めなければならない。

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