朝礼拝に座禅、運針、志望校選びで注目すべきユニークな学校文化

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

中学受験のための情報収集で最も重要な場となるのが学校説明会です。一口に学校説明会と言っても、プログラムは様々。学校のカラーを実感する場でもあります。

各校ともに、受験生に校風や学校文化を伝えようと、説明会に様々な工夫を凝らしています。今回は志望校を選ぶ上で参考にしたい学校文化について考えたいと思います。

今回の中学受験に関する数字:8時15分


女子学院では一緒に礼拝に参加

<タカの目>(高橋真実)

8:15。これは東京の女子御三家のひとつ女子学院の学校説明会開始時間です。なぜそんなに早くから始まるのでしょうか。

実は、毎朝行っている礼拝に、説明会の参加者も参加するからなのです。パイプオルガンのある講堂に在校生と説明会参加者(受験生保護者)がともに集い、黙祷をささげ、聖書の一節を読み、讃美歌を歌い、院長先生のお話に耳を傾けます。

礼拝が終わり、生徒が教室へと戻ったのちに説明会が始まります。これは、キリスト教の教えを柱とする女子学院の教育の一端を実感する、貴重な機会となっています。

学習院中等科ではバイオリン演奏

学習院中等科では説明会開始までの時間に生徒によるバイオリンの演奏があり、穏やかで上品な雰囲気がいかにも学習院らしいと感じられます。麻布中学の説明会で上映されたビデオでは、女装して卒業式に参加した高校生がインタビューに答える場面があり、多様性を尊重し、自由な校風の麻布を実感する場面でした。

このように、学校説明会は、教育内容を知るというだけでなく、学校生活や校風を知る場でもあります。学校側も、それらをリアルに感じ取ってもらえるよう様々な工夫を行っています。

入試広報はまさに総力戦

最近の説明会で増えているのは、在校生の参加です。会の司会をしたり、学校紹介のスピーチをしたり、課外活動のプレゼンテーションや部活動関連のパフォーマンスもあります。先生方の説明以上に、生徒の姿がどんな学校であるかを雄弁に物語っています。そんな姿に受験生は共感を持って志望校選びにつながり、保護者は何年か後の我が子の姿を投影させます。

この他にも、在校生の保護者がスピーチをしたり、生徒による広報委員会が説明会の企画・運営に参画している学校もあったりして、入試広報はまさに総力戦の様相を呈しています。

コロナ禍で情報収集難しく

入試広報のイベントとしては、他にも個別相談会や体験教室、入試対策講座と、様々なスタイルで機会が設けられています。しかし、今年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で、説明会をはじめ、こうしたイベントが思うように開催できない状態になっています。

夏頃まではほとんどの説明会・相談会がオンラインで行われ、Zoomを活用して授業体験を行った学校もありました。冒頭でご紹介した女子学院の説明会も、例年とは異なり、土曜日の午前・午後に参加人数を絞っての開催を予定し、参加できない人たち向けには録画を動画配信します。

今年は、このような状況で受験生・保護者にとっては、学校の情報収集の機会が限られ、なかなか厳しい状況にあります。

学校文化は朝時間に表れる

<モリの目>(森上展安)

タカの目さんの今回の数字は登校時間ですが、そのものが話題ではなく、女子学院の説明会が、日々の礼拝の開始時間に合わせて開催されることから、いわば学校文化を表象する説明会のあり方に注目されています。

良い所に着目されたと思います。学校文化は朝一番の行事に結構特色があります。キリスト教教育校は礼拝から始まるとすれば、禅の世田谷学園は座禅してから授業ということもあるようですし、豊島岡女子の運針もよく知られています。男子校ではカトリックの栄光が(朝ではありませんが)中間体操といって校庭に出て体操をやります。

学校は良い修正を身に着ける所ですから、日々繰り返し行うことは心身が自然に整えられるようになる良さがあります。

生徒が全力で取り組む文化祭、体育祭にも注目

もう一つ、学校文化がよく表れるのがお祭りですね。体育祭と文化祭はとりわけ特徴がよく出ます。

朝の行事が教員文化由来だとすると、お祭りは生徒文化ですから、公開行事を見ることで生徒文化が目に飛び込んでくるので保護者も見るとよいのはもちろんですが、やがて生徒になるかもしれない本人にとって何よりの「情報」です。

中等教育は人格形成が大きなウェイトを占めることは、発達段階として非認知能力が高められる期間であることと表裏を成しています。認知能力を伸ばすのは授業もさることながら(というのは、これからの授業はアクティブラーニングですから非認知能力も重要な要素になります)、やはり生徒同士が学び合い、協調し合うというクラブや行事を通して感得されるのが常でした。

実際に男子校の開成に代表される体育祭や麻布の文化祭などは名物行事といわれるだけに、
大変な精力をかけて行われますから見応えもありますが、何と言っても参加する本人たちの成長ぶりこそが頼もしいのです。

一方で悲しいニュースも

今回はコロナでWeb開催に切り替えて実施する所が増え、これまで陰の功労者だったITに強い先生や生徒が活躍する場面が見られ、これはこれで収穫だったという声が学校からよく届きます。

さて、ここから少し趣を変えてお話しします。全国的に有名な某男子校の生徒から他校のある中学生が文化祭に誘われて参加し、その翌日に自死したということがありました。確か中2生だったと思います。

彼はこの学校を受験して落ちていたそうで、改めて文化祭を覗き何があり何を感じたか分かりませんが自死してしまった。こうした受験の失敗に起因すると思われる自死が中2男子生に立て続けに起こったことがありました。たまたま耳に入ったので知っているものの、こうしたことがニュースになることは稀です。

ただ中2生の自死は多く、女子より男子が多いようですが、学校行事が華やかなだけに、このような悲しい事実を聞くと、留意すべきこととして、憧れを持つことと、それを相対化することの両方の大切さを考えてしまいます。

親が伝えるべき真実

相対化の一つとして、例えば最近ご相談を承った受験生がいます。サッカークラブの選手だそうで、保護者は部活動ではなくクラブでサッカーを楽しめるよう、むしろ学校生活は練習に差し支えない範囲で送ろうというスタンスでの学校選びでした。

ここでは期待するものが全て学校にあるのではなく絞られています。得意分野を持つ人の活躍の場は、むしろ校外にある場合が少なくありません。

そもそも公立中学に進学すると、高校生がいないために私立一貫校の体育祭・文化祭のようなダイナミックスさに欠け、見劣りがします。私立中高一貫校の学校文化の魅力は、やはり6学年の異なった年齢の生徒が同じ所で学ぶことです。それぞれの成長の違いの大きさが成長の糧になるのです。そこに落差があるから憧れるわけです。

けれども、この落差は学校でなくとも別の場でもあるということを、人生経験を積んだ親や世間が受験生にもう一つの真実として伝えておきたいところです。失敗も糧になるという当たり前のことを親が教えるべきだと思います。

情報提供:晶文社『首都圏 中学受験案内』編集部(https://www.shobunsha.co.jp/?p=5704)

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