世界タイトル獲得の可夢偉「ドライバーだけで成し遂げられた記録ではない」/WEC最終戦バーレーン

 11月14日、バーレーン・インターナショナル・サーキットでFIA世界耐久選手権(WEC)の今季最終戦となる第8戦バーレーン8時間レースが行なわれ、トヨタGAZOO Racingの7号車TS050ハイブリッドがポール・トゥ・ウィン。マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペスが2019/20シーズンのWECドライバーズタイトルを獲得した。

 8号車TS050ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー)は2位に入り、TS050ハイブリッドにとってのラストレースをワン・ツー・フィニッシュで締めくくった。

・7号車TS050ハイブリッド(マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペス)決勝結果 : 1位, 263周、ピットストップ10回、グリッド:1番手、ベストラップ:1’42.637

・8号車TS050 ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、ブレンドン・ハートレー)決勝結果 : 2位 (トップと1’04.594差), 263周、ピットストップ10回、グリッド:2番手、ベストラップ:1’42.833

 過去2回、ル・マン24時間レースで苦渋を味わった7号車が、今大会、ポールポジションから着実に263周を走り抜き、ついに悲願のチャンピオンを獲得した。

 ディフェンディングチャンピオンのブエミと一貴の2名とハートレーが組んだ8号車は、首位から64秒差の2位で続き、チームにとって完璧な結果となるワン・ツー・フィニッシュを果たした。

 今回のバーレーン8時間レースは、トヨタが2012年より参加してきた耐久レースの歴史に残るLMP1の時代に幕を下ろすレース。この9年間(8シーズン)でチームは64戦を戦い、29勝と26のポールポジション、24のファステストラップ、そして3回のチームとドライバーダブルタイトルを獲得している。

 この9年の間に、燃料消費率は35%改善し、ル・マンでのラップタイムは10秒更新。TS050 ハイブリッドと共にチームは耐久レースの新たな一時代を築き、サルト・サーキットでのコースレコードタイムを記録。

 2016年にデビューしたTS050ハイブリッドは、延べ11人のドライバーにより34戦を戦い、ル・マン3連覇を含むWEC戦19勝と16のポールポジション、15のファステストラップを記録している。

 今季のWEC最終戦となったバーレーン8時間レースは、2台のTS050ハイブリッドによる、レースの勝利とワールドチャンピオンをかけての争いとなったが、7号車は8号車に対し1周あたり0.54秒のサクセス・ハンディキャップを得て有利な状況で臨んだ。

 コンウェイがスタートを担当した7号車は、首位を守り、可夢偉、ロペスへとドライバーを交代しながら着実に後続を引き離していった。8号車はブエミがスタートを担当し、ハートレー、一貴とともに懸命に7号車を追うが、サクセス・ハンディキャップの影響で厳しい戦いとなった。

 レースが半分を過ぎた頃、2台の差は75秒ほどに開いていたが、ピットレーン入口のデブリ除去のためにセーフティカーが導入され、この差は一気に縮まった。一貴、そしてブエミが首位の7号車へのプレッシャーをかけていくも、ロペスからコンウェイへとつないだ7号車は再びリードを拡げていく。

 レース残り2時間の時点で、2台のタイム差は予断を許さない30秒ほどとなっていたが、最後の1時間ではその差は1分に広がり、最終ドライバーを担当した可夢偉が、263周を走破しトップでフィニッシュラインを通過。この瞬間、7号車の3人が世界チャンピオンを勝ち取った。8号車は一貴が2位でのチェッカーを受け、5ポイント差でランキング2位となった。

 2019/20シーズンのWECは砂塵の中で幕を閉じたが、すでに2021シーズンへ向けた準備は始まっている。チームは来年3月19日に開催されるセブリング1000マイルレースでのデビューに向けて、新たなハイパーカー規定に則った車両での耐久テストを今後数カ月間にわたって行なう予定だ。

 最終戦を終えた村田久武チーム代表と、6人のドライバーのコメントは以下のとおり。

WECのワールドタイトルを決め、レース後の記念写真撮影に臨むトヨタGAZOO Racing

■「サクセスハンデに苦戦」と中嶋一貴

・村田久武 TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表

「マイク、可夢偉、そしてホセ、世界チャンピオンおめでとう! 耐久レースはチームでの戦いであり、今季の彼らのパフォーマンスはチャンピオンにふさわしいものでしたし、彼らのチームスピリットとここまで戦い抜いた姿勢を誇らしく思います」

「また、新型コロナウイルス感染症で世界的に自粛制限などがある中、大変な努力でシーズンをまっとうしてくれたWECの主催者、関係の皆様、そして応援し続けてくれたファンの皆様に心より感謝しております」

「LMP1の時代とTS050ハイブリッドにとって最後のレースは、大変感慨深いものでした。この8シーズンの間、さまざまな想い出があり、興奮冷めやらぬレースや素晴らしいライバル、そして最高のクルマたちを思い出します」

「この期間、WECの一員として携われたことに改めて感謝するとともに、新たなハイパーカーの時代もファンの皆様に素晴らしいレースを見せられるよう尽力いたしますので、引き続きご期待ください」

・小林可夢偉(7号車)

「日本、そしてドイツのケルン(TGR-Europe拠点)からサポートしてくれたすべての人々に感謝します」

「振り返れば、2016年からTS050ハイブリッドの開発のために本当にハードワークを続けてくれました。簡単ではありませんでしたが、いまとなってはこの最高の車とともに素晴らしい想い出です」

「チームはル・マン3連覇し、我々は7号車とともに世界チャンピオンを獲得しました。これ以上の結果は望めないでしょう。しかし、これはドライバーだけで成し遂げられた記録ではありません。メカニック、エンジニアやこのプロジェクトに携わったすべての皆さまのおかげです。本当にありがとうございました」

・マイク・コンウェイ(7号車)

「タフだったが素晴らしいシーズンを終え、今日、世界チャンピオンとして立つことができ、最高の気分だ」

「ホセ、可夢偉と僕にこのチャンピオン獲得のチャンスを与えてくれたチームに本当に感謝している。7号車のドライバー及び8号車のチームメイトはシーズンを通して素晴らしい戦いをし、本当に最高だ」

「これがTS050ハイブリッド最後のレースになるのは少し悲しいが、我々にとって有終の美を飾れたと思う」

・ホセ・マリア・ロペス(7号車)

「レースで勝って世界チャンピオンになるというのは本当に格別な気分だ。ドイツのケルンや東富士研究所で何年にもわたって最高のクルマを作り上げ、我々を支えてくれたすべてのスタッフに感謝したい」

「信じられないようなシーズンだった。我々は目標を達成するために懸命に努力を続け、可夢偉、マイクとともについに世界チャンピオンを獲得した。僕にとってふたりは兄弟のような存在になった。本当に最高の気分だ」

チェッカードライバーは可夢偉が務めた。ピットロードを逆走してパルクフェルメに向かう7号車を8号車のドライバーも祝福

・中嶋一貴(8号車)

「7号車のみんな、チャンピオン獲得おめでとう。彼らはシーズンを通して素晴らしい走りを見せ、タイトルにふさわしい戦いぶりでした」

「僕らもル・マンで勝ちましたし、良いシーズンでしたが、この最終戦バーレーンではサクセス・ハンディキャップに苦戦しました」

「一時は接近して面白いレースにもなりましたし、良い戦いでした。また、シーズンを通して素晴らしい仕事をしてくれたメカニックやエンジニアにも感謝します。いまはハイパーカーを初ドライブするのが楽しみです」

・セバスチャン・ブエミ(8号車)

「7号車とミス無くレースを戦いきったチームに祝福を送る」

「我々8号車は全力を尽くして戦った。サクセス・ハンディキャップは思いのほか厳しかったが、レースの結果には満足していりる。我々も完璧なレースを戦ったが、勝つチャンスはなかった。これも人生。勝つこともあれば、負けることもある」

「TS050ハイブリッドとは、これで最後だと感慨深く、自分の最終ラップまで楽しんで走った」

・ブレンドン・ハートレー(8号車)

「我々は8号車で良いレースを戦えたと思う。サクセス・ハンディキャップにより、1周あたりコンマ5秒以上の差があることは分かっており、それでもすべを出し切った。周回ペースは悪くなかったが、サクセス・ハンディキャップを跳ね返すまでには至らなかった」

「ミス無くレースを戦い抜いた7号車を祝福したい。彼らは世界チャンピオンに値する仕事を成し遂げた」

ランキングトップでバーレーンに臨んだため、サクセスハンディに苦しんだ8号車

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