コロナ禍の米国で大ヒットしている商品とは 「3密」防げるとレンタルも大人気【世界から】

3月20日、新型コロナウイルスの感染拡大で、人がまばらなニューヨークのタイムズスクエア(AP=共同)

 大手製薬会社が開発を進めているワクチンの有効性が、90%以上に上ったとする暫定的な臨床試験の結果が公表されるなど、新型コロナウイルス克服に向け光明が見えつつある。ところが、米国の感染状況は改善どころか悪化の一途をたどっている。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は今月15日、全米の新型コロナウイルス感染者が累計で1100万人を超えたと報じた。全米各地でいわゆる「第3波」が到来しているといえる。

 そんな中で意外な商品がヒットしている。外部と接触せずに移動できるレクリエーショナル・ビークル(RV)だ。(共同通信特約、ジャーナリスト=岩下慶一)

 ▽ホテルより安い

 新型コロナのまん延は、米国人のライフスタイルを大きく変えた。当初はマスクを着けることにさえ抵抗感を示していたが、事態が深刻化してくると一変した。多くの人々がマスクをつけるようになり、テレワークが浸透した。感染拡大を抑えるために、各自治体が外出制限を導入したことなどが影響しサービス業は大打撃を受けた。

 新型コロナウイルスに脅かされる状況に置かれながらも、楽しむことを忘れないのが米国人だ。彼らが目を向けたのが感染の危険が少なく、家族で移動できるRVだ。中でも、居住用スペースが付いている、日本ではキャンピングカーと呼ばれる車種が人気となっている。

 ロサンゼルスに住む会計士の男性は、奥さんと子供2人を連れてヨセミテのキャンプ場巡りをする予定だという。「(車の)レンタル料は1日125ドル(およそ1万3千円)で、家族四人でホテルに1泊するよりはるかに安いです。しかも新型コロナウイルスに感染する危険はほぼない。その上、都会ではできない経験ができますから」と語る。

ホテルの閉鎖も相次いでいる。1924年に開業し、数々の映画の舞台にもなった老舗のルーズベルトホテルも閉鎖を決定した=10月、米ニューヨーク市(ロイター=共同)

 ▽予約件数は前年の10倍に

 多くの米国人が彼と同じように考えている。RVでの旅行は感染の危険が少ない上に、レンタル価格も安い。大人2人用とされる小型のものが約100ドル(約1万円)、四人家族でゆったりできる大きさでも200ドル(約2万円)台だ。車内にはシャワーやキッチンが備えられ、快適そのもの。大きめのRVなら大人5、6人で夕飯の卓を囲むのに十分な広さがある。

 中堅クラスのホテルでも大人2人、子供2人で宿泊すると二倍以上の金額になるだろう。しかも、他者との接触の機会は増えてしまう。

 日本では考えられないほど、キャンプ場が多くあることも人気を後押ししている。米国とカナダ両国にあるキャンプ場の中で、車で乗り付けられるところは1万3千を超える。雄大な自然が満喫できる上に「3密(密閉、密集、密接)」も避けられる。さらに、都会では味わえないアドベンチャー気分も満たすことができる。新型コロナウイルスよる不自由な生活に飽いた人々の逃げ場としてこれ以上の場所はないだろう。

 米国のRV人気は、数字にはっきり表れている。RVレンタル仲介の大手、「RVshare」では、今年4月からのレンタル予約が前年同月の10倍に跳ね上がった。

 新車の出荷台数も増加している。業界団体の「リクリエーショナル・ビークル・インダストリー・アソシエイション」は、北米におけるRVの年間売り上げ台数は昨年から4・5%増の約42万4千台になると予想している。

 中でも、乗用車で引っ張る「トレーラータイプ」の販売台数は昨年9月の約2万1千台から3万台近くに増加した。しかも、これは生産が追いつかない中での数字。ディーラーが抱えるバックオーダーはこれよりはるかに多いと予想される。

レンタル用のRV。2家族四人で旅行できる十分な広さで1日のレンタル料は250ドル(約2万6000円)だ =Eric Keefer撮影

 ▽新たなスタンダード

 必要としているのは旅行者だけではない。大手レンタル会社「クルーズ・アメリカ」によると、企業や病院などへのレンタルも多いという。飛行機に代わるビジネスマンの移動手段や、全米各地に開設されたコロナ感染の検査場としても使われているそうだ。

 意外な用途もある。新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務を余儀なくされた会社員たちが、家族に邪魔されない自分専用のオフィスとしてRVをレンタルしたり、RVの中古車を購入したりするケースがあるという。

 米国の住宅事情は日本とは比較にならないほど恵まれているが、それでも家族のいる自宅で仕事をすることに抵抗を感じる人もいる。そうした人々がRVを買い込み、自宅の庭に置いて個人用オフィスとして使うらしい。実数は不明だが、ロサンゼルス在住の知人によれば、住宅街の庭に置かれたRVが最近、増えたという。

 1人になりやすいという点を利用して、こんな使い方をしている人もいるらしい。コロナに感染した家族をRVに隔離するのだ。確かに、車内だけで生活が完結するRVは、隔離先としては好適だろう。

 移動することを好む米国人にとって、新型コロナウイルスは日本人が感じる以上に災厄なのかもしれない。RVは、それを解決する格好の手段と捉えられているのだろう。RV業界は、ワクチンが開発された後もこうしたブームが継続すると考えている。米投資会社「コールバーグ・クラビス・ロバーツ」は、前述の「RVshare」に1億ドル(約104億円)以上の投資を行う予定だ。他のレンタル会社も、千載一遇のチャンスを逃すまいとビジネスの拡充に奔走している。

 新型コロナウイルスが登場するまで好調だった航空やホテル業界はいまだ、苦しい状況が続いている。そんな中、RVが米国人の移動手段の新たなスタンダードになろうとしている。

米中西部ミズーリ州の空港に駐機するデルタ航空の飛行機=5月14日(AP=共同)

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