<レスリング>【特集】うれしさ5%の復帰戦Vだが、“AFTER TOKYO”へ前進…女子57kg級・南條早映(至学館大)

(文=布施鋼治)

南條早映(至学館大)

 女子57kg級全日本チャンピオンの南條早映(至学館大)は、今年になってから新型コロナウイルスによるブランクとともに、けがに苦しんだ。「けがをしたのは1月末。走ったりすることもできなかったので、ひたすら体幹トレをやっていました。レスリングの練習ができるようになったのは、9月に入ってからのことです」

 コロナのため予定されていた大会は相次いで中止や延期になる中、けがを抱える南條は焦りを募らせた。南條と言えば、昨年のU23&ジュニアの世界チャンピオンである一方、シニアの全日本選手権でも優勝している。これからという矢先にダブルショックを受けた彼女を励ましてくれたのは、レスリング部の仲間たちだった。

 「先輩、後輩、そして同期。いろいろな人に話を聞いてもらったりしていました。私と同じように、けがをして練習から抜けている子もいたので、トレーニングルームで一緒に頑張ったりしていました」

先輩の意地で勝った西日本学生選手権の同門決勝

 10月31日に10年ぶりに女子が実施された西日本学生選手権に出場した南條は、決勝に進んで同門の永本聖奈と激突。2-1のスコアで肉薄する後輩を振り切った。南條にとっては昨年12月の全日本選手権以来の試合となったが、「うれしさは5%。残りの95%は反省しかない」と振り返る。

西日本学生選手権57kg級決勝で同門の永本聖奈に競り勝った南條

 「今回の西日本学生選手権は、全日本選手権の1ヶ月半くらい前の開催だったので、試合勘を取り戻すためにも出ておきたかった。減量して、どれだけ動けるのかという部分も試したかった。練習と試合は違いますからね」

 永本とは練習でも点を取ったり、取られたりしているだけに、闘えばクロスゲームになることも予想していた。「正直、負けたらどうしよう、という不安もありました。でも、全日本選手権のためだと思って闘いました。最後は先輩の意地で勝ったみたいなところがあります。だからこそ喜びは5%なんですけど、課題もたくさん見つかりました」

 西日本学生選手権の後は、至学館大で憧れの吉田沙保里さんからコーチを受けた。「相手をもっと崩してから入る、みたいな練習をみんなの前でやってくれました。そういう動きは今の自分に足りていないところだと思ったので、沙保里さんから教えてもらったことはいまも自主練習でやっています」

今は自分のレスリングを取り戻すことに集中

 東京オリンピック出場を内定させている同階級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)と練習で当たることは? 「試合(全日本選手権や全日本選抜選手権)で闘うことが分かっている時よりは、やっています。技術、スピード、フィジカル。やっぱり強いですね。組み手やタックルもうまい。川井選手以上に練習しないと、その差は埋まらないと思いました」

全日本合宿で練習する南條=撮影・保高幸子

 練習で川井と対戦する時には、いつも「どうやったら倒せるのか」ということを意識して組み合うというが、こんな本音も。「今は復帰してそんなに時間が経っていないので、自分のレスリングを取り戻すことに、いっぱいいっぱいなんですけどね」

 次に出場予定の大会は12月の全日本選手権。今回は各階級とも8選手となった出場メンバーはまだ確定していないだけに、南條は自分のパフォーマンス向上に重きを置く。「誰かをマークするというより、西日本学生選手権で見つかった課題をひとつずつ潰しながら自分のレスリングをやり通したい」

 けがも癒えた現在、南條は“AFTER TOKYO”に向け、一歩一歩、着実に進み始めた。

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