WTCR最終戦:ホンダ、奇跡の勝利も届かず。Lynk&Coのエルラシェールが最年少タイトル獲得

 11月14~15日の週末に、2戦連続開催となったスペインのモーターランド・アラゴンで争われた2020年WTCR世界ツーリングカー・カップ第6戦は、タイトルコンテンダーのエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COMミュニッヒ・モータースポーツ)がレース1で勝利を挙げたものの、続くレース2でイバン・ミューラー(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)が優勝し、そのチームメイトで甥のヤン・エルラシェール(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)が史上最年少でのドライバーズタイトルを獲得。

 続くレース3では第5戦の同地で全3ヒートで表彰台獲得のサンティアゴ・ウルティア(Lynk&Co 03 TCR/シアン・パフォーマンスLynk&Co)がシリーズ初優勝を飾るなど、Lynk&Co艦隊が躍進する最終戦となった。

 2020年もいよいよ最終戦となったWTCRだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック第3波の影響により、10月30日~11月1日の第5戦に続き同一サーキット連戦でのタイトル決定戦となった。

 同じサーキットでの勝負ということで前戦のリザルトが色濃く反映される走り出しとなった最終戦は、Lynk&Co 03 TCRとジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/チーム・ミュルザンヌ)が速さを見せ、ルーキーのウルティアがQ1とQ3で最速をマークし、キャリア初のダブル・ポールポジションを獲得する。

 Q2最速だったベルネイだが、リバースグリッド採用のレース2は10番手タイムだったミューラーが最前列獲得とここでは運がなく、3年連続でタイトル候補として最終戦に臨んだグエリエリに至っては、公式練習のトラブルを引きずる形で予選18番手に沈み、5番手確保の選手権首位エルラシェールを追うには、厳しいポジションから奇跡の挽回が求められた。

 日曜午前9時15分からのレース1は、降雨の影響で路面にまだウエットパッチの残るダンプコンディションでの勝負に。ここで起死回生の選択をしたホンダ勢は、10周のレースに向けフロントにスリック、リヤにレインを履く“ミックスチョイス”でスタートする。

 その効果はすぐさま現れ、11番手発進だったネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COMミュニッヒ・モータースポーツ)がターン2でいきなり首位浮上に成功し、僚友アッティラ・タッシ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COMミュニッヒ・モータースポーツ)らのエンジン交換で16番グリッドからスタートのジロラミも、3周目にナサニエル・ベルトン(アウディRS3 LMS/コムトゥユーDHLチーム・アウディスポーツ)を仕留めて2番手に躍進してくる。

 ライバル勢に対し数秒単位で速いラップタイムを刻んだシビック勢に敵はなく、そこからは路面の状態と乾く速度がどの程度かだけが懸念されたが、ファイナルラップでも大きなペースダウンは起こらず。ジロラミ、グエリエリの順で最終セクターへ。

数字上は11人がタイトル獲得の可能性を残して最終戦へ。しかし初日公式練習から霧によるディレイなど、波乱を予感させる幕開けに
難しいコンディションのレース1を読み切り、前後ミックスタイヤと僚友のチームプレーにより、エステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COMミュニッヒ・モータースポーツ)が薄氷の勝利を手にした
「選手権を獲るために必要なことは全てする。それを実行したまで」とネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COMミュニッヒ・モータースポーツ)
レース2で連続6位入賞を果たした24歳のエルラシェールが、叔父とのランキング1-2体制というオマケ付きで、史上最年少でのタイトル獲得を決めた

■「僕らが世界チャンピオンなんて信じられない!」とタイトル獲得のエルラシェール

 ここで首位ジロラミは選手権を争うチームメイトをサポートするべく減速し、残り2コーナーでポジションを入れ替えてフィニッシュラインへ。この結果、グエリエリは6位に終わったエルラシェールに対し16点差まで詰め寄ることに成功した。

「このトラックで3月にテストしたとき、似た条件になることを知っていた。路面が乾くのがなぜこんなに遅いんだろうと疑問に思っていたこともあって、今回の作戦も『OK、やってみよう』となったんだ」と、決断の理由を明かすグエリエリ。

「そして今日の勝利はネストールのものだった。この5点は小さな武器になるだろうし、僕らはチームとして戦略的、かつ賢くプレーした。彼の献身に心から感謝している」

 しかし、そのグエリエリのわずかな希望はレース2スタート直後に潰えることとなり、今度はドライ路面で中団のパックから上位進出を目指したFK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRは、2コーナーからの攻防で前を行く僚友タッシとベンス・ボルディズ(クプラ・レオン・コンペティションTCR/ゼングー・モータースポーツ)のバトルに巻き込まれる形で、グエリエリがボルディズのリヤに追突。

 これで新型クプラはスピンを喫し、グエリエリは右フロントを破損し万事休す。ミューラーがライト・トゥ・フラッグでの完勝を決め、2位には抜群のスタートでジャンプアップを決めたベルネイ、3位にミケル・アズコナ(クプラ・レオン・コンペティションTCR/ゼングー・モータースポーツ)の続くポディウムに。

 そして連続6位入賞を果たした24歳のエルラシェールが、叔父とのランキング1-2体制というオマケ付きで、史上最年少でのドライバーズタイトル獲得を決めた。

「今年はイヴァンとともにチームメイトとして戦う環境を手にし、叔父はゼロからすべてを僕に教えてくれた。カートの経験もないし、7年前にはレースカーにすら乗ったことがなかったから、本当に大きなことを成し遂げたと思う。最後の瞬間はとてもとても長かったけれど、今僕らが世界チャンピオンなんて信じられないほどだよ!」と、喜びを語ったエルラシェール。

 続く15時からのレース3もポールシッターのウルティアが1度も先頭を譲らずポール・トゥ・ウインを決め、今季16戦目で11人目のウイナーになると同時に、WTCRでのキャリア初勝利を獲得。

 2位エルラシェール、3位ベルネイに続き、10番手スタートのミューラーが4位に入ったことで、Lynk&Coシアン・レーシングもチームタイトルを確定し、スウェーデンと中国の連合艦隊が大団円でシーズンファイナルヒートを締めくくっている。

「今季の私の目標はヤンを世界王者にすること。そして、それが今、こうして実現した」と、叔父のイバン・ミューラー(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)も祝福
レース3もサンティアゴ・ウルティア(Lynk&Co 03 TCR/シアン・パフォーマンスLynk&Co)がポール・トゥ・ウインでWTCR初勝利を飾る
「開幕前、僕は何も持たずに北米にいた。僕を信頼し、プロにしてくれたチームに応えて、シーズンを勝利で終われたのは最高」とウルティア
独立系チームに授与されるWTCRトロフィーを獲得したジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/チーム・ミュルザンヌ)。「多くの責任を負う、小さなチームで戦えたことは大きな財産になった」

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