名工大など、高い熱電変換性能を持つNiZrSn合金中の歪みの観測に成功

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名古屋工業大学(名工大)と名古屋大学(名大)は11月16日、高い熱電変換性能を持つハーフホイスラー化合物NiZrSn合金中に存在する歪みの観測に成功し、高い熱電変換性能の仕組みを説明することに成功したと発表した。

同成果は、名工大大学院 工学研究科 物理工学専攻の宮崎秀俊准教授、同・西野洋一教授、名大大学院 工学研究科の曽田一雄教授(現・名誉教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

工場や自動車において化石燃料を燃焼させた際に生じる熱エネルギーは、30%程度しか利用されていないといわれる。それ以外の熱エネルギーは有効活用されずに逃げていってしまったり捨てられてしまったりしている。そうした、これまでは有効活用されていなかった熱エネルギーを有効活用するエネルギーハーベスティング技術が注目されている。

エネルギーハーベスティング技術のひとつである熱電変換発電は、材料の両端に温度差を設けることで、その温度差(熱)を電気に変換することができる技術だ。発電のための駆動部を持たないことからメンテナンスフリーであり、発電の際に二酸化炭素などを生じないクリーンな発電方法であることなどが注目されている。そしてこの熱電変換発電は、クルマのエンジン部から排出される熱を電気に変換して再利用したり、人間の体温と外気との温度差を利用したIoTセンサー用の永久電源として利用したりすることが期待されている。

熱電変換発電にも複数の種類があるが、製鉄所やごみ焼却所から排出される500℃以上におよぶ高温排熱用の熱電変換材料の候補として研究開発が進むのがハーフホイスラー化合物だ。同化合物の高い熱電変換性能の仕組みは、結晶構造中の隙間(空孔)に原子が侵入するという「欠陥原子」が関係していると考えられている。

しかし、これまでの研究において欠陥原子の存在は確認されてはいたものの、その欠陥原子周辺の結晶構造はわかっていなかった。そのため、実際に高い熱電変換性能に原子欠陥がどのように寄与しているのかは、わかっていなかったのである。

そこで共同研究チームは今回、ハーフホイスラー化合物のNiZrSn合金に注目。約100にも及ぶ原子を含んだ同化合物についてのシミュレーションを実施し、正確な欠陥原子周辺の原子位置を調べることが計画された。シミュレーションは、自然科学研究機構・計算科学研究センターのスーパーコンピューターを用いて大規模に行われた。その結果、欠陥原子周辺の原子は、1%程度、歪んだ構造になっていることが判明したのである。

続いて、放射光X線を利用したX線吸収微細構造(XAFS)の測定が実施された。なぜX線を用いるかというと、各元素には、それぞれの元素固有のX線を特に吸収するエネルギー(吸収端)が存在する。放射光のような連続的なエネルギーを持つX線を用いると、X線吸収スペクトルが得られる。このX線吸収スペクトルを解析することにより、周辺原子の数や距離などの局所的な結晶構造の情報が確認できるのだ。

XAFSの測定の結果、1%程度歪んだ構造となっているというシミュレーション結果とほぼ一致。NiZrSn合金では、欠陥原子周辺の結晶構造に歪みが生じていることが確認された。

この歪みの存在が高い熱電変換性能、つまり「材料中に温度差を加えた際に大きな電圧を生み出すが熱は伝えにくくする」、という仕組みに関与していることが判明した。なお、ハーフホイスラー化合物において、欠陥原子周辺の歪みが実験的に直接観測されたのは世界で初めてのことだという。

今回、観察に成功した熱電変換材料中の欠陥原子周辺の歪みに関しては、新しい熱電変換材料の実現に役立つものだという。今後、この歪みの構造を積極的に活用した、より高性能な熱電変換材料の実現につながるものとしている。また、今回の研究で開発された結晶構造中のわずかな歪みを観察する技術は、ほかの材料にも適用可能な方法だ。今後、ほかの機能性材料にも今回の研究成果を適用することにより、新たな機能性材料開発へと進展することが期待されるとした。