東京パラへおばあちゃんが頑張る姿を 卓球女子のレジェンド、別所キミヱ アスリートは語る(2)

 来年に延期された東京パラリンピックに73歳での出場を目指す車いす卓球女子のレジェンド、別所キミヱ(ドマーニ卓球ク)が電話取材に応じた。車いすで生活する高齢の障害者という立場のため、新型コロナウイルスの感染予防には細心の注意を払う。2004年アテネ大会から5大会連続のひのき舞台を目指す思いを語った。(共同通信=三木智隆)

パラ卓球ジャパンオープンシングルス(車いす5)で準優勝した別所キミヱ=2019年8月、東京都の港区スポーツセンター

 ▽コロナで死にたくない

 ―開催予定の大会が全て中止。最近、どのように過ごしているか。

 生きてますよ。元気元気。元気じゃないとやっていけない。基本的には(拠点の)兵庫にずっといてます。県外に出られないし、移動はできないし。

 ―コロナに対しての予防を教えてください。

 流行し始めてから、毎日、朝晩の体温と行動の記録をノートに付けてます。会った人の名前は全員書いてますよ。もし万が一のことがあって入院することになったら、と思って3日分の衣服も玄関に用意してます。準備は何でもできますから。

 今、コロナに感染したら東京パラには出られなくなると思っています。それに、コロナで死にたくないですもん。いろんなことがあって、最後がコロナというのは嫌です。

 ▽簡素化は仕方ない

 ―延期になったパラリンピックには何を求めますか。

 やっぱり選手は開会式に出ないとパラじゃないなと思ってます。今まで4回出てきたけど、開会式があって、選手は行くぞ!という気持ちになっていた。でも、今回はだいぶ違うんでしょうね。今までみたいな派手な開会式は難しいのかな

 開会式自体は簡素化されると思っています。中止の声もありますが、今は開催すると思って練習しています。勝つことしか考えていないですもの。そのために練習しています。それで出られなかったら仕方がないです

日の丸やブラジル国旗などを施した「勝負ネイル」を披露=2016年9月、リオデジャネイロ(共同)

 ▽観客がいないのはさみしい

 ―派手な髪飾りで会場を沸かしていますが、無観客で開催される可能性もある

 観客がいないのはさみしいことです。プロ野球を見ていても、がらがらの観客席はさみしいですよね。どよめきがなかったりとか。ちゃんと対策をして、密にならない程度でできればいいですよね。観客を入れないとテレビでしか見たことのない世界になってしまう。実際に見たいと思う人もたくさんいるしね。

 とにかく東京でははつらつとした姿を見せたくて。おばあちゃんが頑張っているところを見せたい。パラのいいところ、スポーツのいいところは同じ大舞台で、若い人と年齢を関係なく戦えることだと思っています。

パラ卓球の国際大会で=2019年8月、東京都港区

 ▽ラストチャンスに懸ける

 パラ卓球では国際卓球連盟(ITTF)から7月に通知があり、日本勢では、30歳以下の若い5選手が東京パラリンピックの内定切符をつかんだ。ITTFの定める条件を満たさなかった選手は、来年の世界最終予選などで出場権獲得を目指す

 ―別所さんの名前はなかった。ショックは。

 ありますよ。私の場合は(2018年の)交通事故のペナルティーで点数を減らされました。世界選手権をエントリーしていたのに欠場したための減点です。ずっとパラに出てきて、今の時点で補欠というのは、初めてです。

 来年春にスロベニアで最終予選が予定されていて、最後の切符を争うという状態。周りの人は「別所さん、もうどっちでもかまわへん」と言ってくれる。東京へ行っても行かなくてもどちらでもいいと。私もそう思ってますが、最後まで頑張りたい。見知らぬ人も子どもたちも応援してくれるから。

 ▽アフリカにバリアフリーを

 パラリンピック4大会に出場し、華やかな舞台を見てきた一方で、肥大化する五輪・パラへの懸念もある。パラリンピックへの参加経験がまだ多くないアフリカなどの小国に向けて、思いを巡らせた。

 ―パラのあるべき姿は

 五輪やパラってお金がものすごくかかるでしょ。日本がお金を出して赤字と騒がれているけど、これは、出場する国が少しずつ負担をすればいいんじゃないですか。開催国負担が大きすぎます。今回はコロナで赤字になっているわけで、開催国に丸投げするのではなくて。全部の出場国が責任を持ってやると、お金も集まる。でないと、お金がある国でしか、開催できません。次に開催するフランスだって大変だと思います。アフリカでいきなり五輪、パラを開催するのは大変ですが、アフリカで開催しないと、障害者スポーツやバリアフリーが広がりません。アフリカは国に余裕がまだないから、まだ開催できないですよね。これから何十年先にできるようになればいいと思います。パラが成長するには環境が大事ですから。

2019年12月3日、兵庫県姫路市で撮影

  × × ×

別所 キミヱ(べっしょ・きみえ) パラスポーツ界のレジェンド。42歳で骨盤の中央部にある仙骨のがんを発症し、車いす生活に。リハビリの一環でパラ卓球を始め、2004年に56歳でアテネ・パラリンピック初出場。16年リオデジャネイロ大会まで4大会連続出場中。華やかな髪飾りをつけて試合に臨み「マダムバタフライ」と呼ばれる。72歳。広島県出身。

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