マドンナをカバーした女子大生アイドル、吹田明日香の「ライク・ア・ヴァージン」 1984年 12月21日 吹田明日香のシングル「ライク・ア・ヴァージン」がリリースされた日

__80’s Idols Remind Me Of… Vol.25
吹田明日香 / ライク・ア・ヴァージン__

女子大生アイドル歌手 吹田明日香、高め系ルックスにノックアウト!

80年代女性アイドルシーンが最も活発化していた1983年にデビュー、シングル4枚をリリースして人知れずフェイドアウトしていったアイドル歌手、吹田明日香(すいたあすか)を覚えている方は… 少ないのだろうなあ。

1983年デビュー組でいえば、武田久美子、伊藤麻衣子、岩井小百合、太田貴子、森尾由美、大沢逸美あたりを1軍とするならば、2軍… いや2.5軍くらいに位置していたのだから、それは無理もない話なのかもしれない。

デビューシングル「バ・ケー・ショ・ン」(1983年)リリース直後、吹田明日香が健気に歌う姿を1度だけテレビで見る機会があった。“女子大生アイドル歌手” と紹介された、その高め系(並み居る女子中高生アイドルと無意識に比較したら、そう見えたのだろう)ルックスに瞬殺でノックアウトされたのは言うまでもない。

どことなく前々年(1981年)にデビューしてやはり人知れずフェイドアウトしていた澤田富美子を想起させたのも、KOの要因だったのだろうか。早速翌日石丸電気で「バ・ケー・ショ・ン」のシングル盤を購入したものだった。

女子大生ブームの根底に流れていたのは、セクシュアリティの大バーゲン

吹田明日香デビュー時といえば、80年代アイドル隆盛と並行して勃発した “女子大生ブーム” がピークだった頃だ。ミノルタCMで大ブレイクした宮崎美子に端を発し、篠山紀信による週刊朝日表紙、文化放送ミスDJ(千倉真理、川島なお美、斉藤慶子等)、『Can Cam』『ViVi』等のファッション誌創刊ラッシュ、ダメ押しは『オールナイトフジ』(1983年~)… 軽薄短小という時流に乗って、半素人タレントが大手をふるって跋扈する時代だった。

半素人云々に関しては、極論を言えば80年代アイドルも五十歩百歩みたいなもので(おニャン子クラブが顕著例)、ここで言及はしない… 言及すべきは “女子大生ブーム” の根底に流れていた、そこはかとなく漂うセクシュアリティの大バーゲンだろう。

一般的なタレント、ましてや(未成年である)女性アイドルが醸し出す(あるいは醸し出させる)ことのないこのセクシュアリティを、(未成年ではない)女子大生タレントたちは無意識に垂れ流していたということで(送り手側は意識的に醸し出させていた)、多くの受け手側はアンコンシャスに “性のカジュアル化” を嗅ぎ取っていたわけだ。

そんな時代背景を鑑みれば、吹田明日香の “女子大生アイドル” というキャッチは、どこにも訴求しない無効果なものだったのではないか。極端に言えば、処女性のキープと性のカジュアル化は対極に位置するもので、女子大生アイドルという言い回し自体が、こと80年代のこの時期においては、成立し難かったと思えて仕方がない。

マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」を日本語詞でカバー

だからなのかどうかは神のみぞ知るのだが、吹田明日香の最初のシングル3枚、「バ・ケー・ショ・ン」(1983年)、「聖書(バイブル)」(1983年)、「二人はMagic」(1984年)は、まったく話題にならなかった。4枚目のシングルが起死回生を狙った「ライク・ア・ヴァージン」(1984年12月21日リリース)。

このタイミングでの10~20代にとっては認知度ほぼ100%だったであろうマドンナの全米ナンバーワンヒットにして、80年代洋楽の代表曲のひとつである作品を、オリジナル日本語詞でカバーした逸品だったのだが… 結局不発に終わった…。

よくよく考えれば、アイドルファンにも女子大生ファンにも、ましてや洋楽(マドンナ)ファンにも、どこにも訴求しない、あえて言うならば中途半端で安易な選曲だったのか。発売直後に即購入していた筆者でさえ、全米1位とほぼ同タイミングのカバーに興奮しつつも、脱アイドルなのか否か中途半端な態勢に、今考えると終息の雰囲気を感じ取っていたような。実際吹田明日香にとって、これがラストシングルになっていた。

ちなみに同期の女性アイドル歌手、水谷圭も「ライク・ア・ヴァージン」の日本語カバー(吹田とは別のオリジナル詞)を、吹田明日香から遅れること約半年後、高校卒業後の19歳でリリースしている。そして奇しくもこちらも、4枚目にしてラストシングルだった。

 純な部分(ところ)触れた人は
 弓なりのままで ah… 眠らせて
 優しく love me 背中から…

いずれにせよ吹田明日香「ライク・ア・ヴァージン」…… 愛を交わす喜びを健気に表す、落涙を禁じ得ない言葉の数々は、30数年後の今も頭の中でリフレインしている。

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※ KARL南澤の連載「80's Idols Remind Me Of…」
80年代の幕開けとともに、新たなアイドルシーンが増幅・形成されていった。文字通り偶像(アイドル)を追い求めた80年代を、女性アイドルと、そのヒットソングで紐解く大好評連載。

カタリベ: KARL南澤

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