日経平均バブル以来の高値、でも上昇しているのは一部の銘柄…相場の勢いはどこまで続く?

アメリカ大統領選という最大のリスクイベントを通過した後、大規模な金融緩和を背景に急速に回復していた世界の株式市場に更なるリスクオンムードが漂っています。

日経平均株価も例に漏れず、アメリカ大統領選直前の10月30日(金)には一時2万3,000円を割れる場面もありましたが、翌週は大幅に上昇。11月第2週以降は米ファイザーとモデルナが相次いでコロナワクチンの開発が順調であることを発表したことでリスクオンが加速し、バブル以来29年ぶりの2万6,000円台到達となりました。

一方で3月の急落の要因であるコロナウイルスの流行は世界でも収まっておらず、日本においても11月に入り過去最高の感染者数を記録するなど第3波の発生が不安視されています。

また企業業績とあまりにも乖離して上昇を続ける株価に対し疑問の声も上がっています。今後も金融緩和を背景とした世界的な株高は続くのでしょうか。現状の金融政策を踏まえてみていきましょう。


上昇しているのは一部の銘柄?TOPIXは2年前の高値を回復せず

まずは上昇を続けている日本の株価のおさらいをしてみます。日経平均株価は、2018年1月に26年ぶりに2万4,000円を突破し、コロナショックにより一時1万6,000円台まで下落したましたが、今年11月に29年ぶりの高値をつけ、更なる高値更新に注目が集まっています。

一方で、東証1部のすべての銘柄で構成されるTOPIXを見ると、日経平均株価とは異なり2018年につけた前回高値よりは10%ほど低い水準で推移しています。

TOPIXが今年の最安値で引けた3月16日を100として日経平均株価と比較をしてみても、11月16日時点では日経平均が52.3%の上昇、TOPIXが40.4%の上昇とパフォーマンスに10%以上の差が開いています。これはなぜでしょうか。

理由としては指数の算出方法が異なる点が考えられます。日経平均は構成する銘柄の株価平均で算出され、株価の高い銘柄ほど影響力が大きくなるのに対し、TOPIXが構成する銘柄の時価総額平均で算出され、時価総額の大きい銘柄ほど影響が大きくなります。

実際に両指数の構成銘柄を見ると、日経平均はファーストリテイリングが約11%、ソフトバンクグループが約6%など上位5銘柄で25%以上を占めており、相場が底を打った3月以降のパフォーマンスを見ても平均で約85%を記録し、指数をけん引していることが読み取れます。

一方でTOPIXは最も構成比率の大きいトヨタ自動車でも3%程度のウエートであり、上位5銘柄で10%ほどのウエートしか占めていません。パフォーマンスでも約65%で日経平均の上位5銘柄よりは劣っています。

このように上位5銘柄の比較でしかありませんが、日経平均がバブル以来の高値を回復しているのは日本の株式市場全体が熱狂しているというよりも、一部の銘柄に買いが集まっていると考えることもできるでしょう。

世界的な金融緩和で市場にマネーが溢れている

世界的な株高の背景には、コロナショックへの対応として緊急的に行われた金融緩和の影響が大きくあります。

米国では3月にゼロ金利政策の再開と買い入れ資産の拡大の両面から緩和が行われました。2019年途中まではリーマンショック後に膨らんでいたバランスシートの縮小を進めていましたが、コロナウイルスの発生により緊急的に金融緩和を再開。4兆ドル近辺で推移していたところから一気に過去最大の7兆ドルへ資金供給を拡大しています。

また日本においてはすでにマイナス金利政策を導入しているため、金利の変更はされていないものの、アメリカと同様に市場への資金供給を強化しており、9月末には日銀当座預金の増加を背景にマネタリーベースが初の600兆円を超えました。

金融政策は景気のサイクルに合わせて緩和と引き締めが繰り返されるため、株式市場にとって気になるポイントは今後やってくる金融引き締めの影響です。

2018年にアメリカを起点に一時マーケットが調整局面に入ったのはFRB(連邦準備理事会)による利上げと資産の圧縮による金融引き締めの影響でした。いままでの歴史を振り返ってもアメリカは景気に合わせて金融政策を方向展開してきました。

FRBは3年先まで緩和策を続けると発表しているためすぐには考えられませんが、今後の金融引き締めによっては、行き過ぎた株価が急速に逆回転する可能性は十分に考えられます。

では日本ではどのような点がポイントとなるでしょうか。日本銀行が進めるETF(上場投資信託)買いについて見ていきましょう。

日本の市場安定策の目玉である日銀のETF買いは今後どうなる?

日本の金融政策で市場へ与える影響が大きいものの一つとして日本銀行によるETF(上場投資信託) 買い入れプログラムが挙げられます。

日本銀行は市場の安定を図るため2010年から金融資産買い入れプログラムの一環としてETFの買い入れを開始しました。開始当初の年間買い入れ枠は約4,500億円であったものの徐々に増加し、近年では市場での存在感も高まってきています。

加えてコロナショックを契機に、2020年の3月には年間6兆円としていた年間の限度額を12兆円にすると発表し、1日の買い入れ額も約700億円であったものが3月中には一時約2,000億円まで増額しました。

結果として3月と4月は1兆円以上の買い入れを行い、10月末時点で年間の買い入れ額は約6兆5,000億円と過去最大を更新するペースで進んでいます。

しかし、バブル以来の高値まで日経平均株価が上昇してきたため、気になってくるのが出口戦略です。緩和の方法に関しては頻繁に変更が行われていますが、出口戦略に関しては言及がされていません。

しかし最近では、日銀の政井貴子審議委員がETF保有残高の増加に触れ、政策の柔軟性向上に言及するなど、今後出口戦略に関する議論が活発化する予兆も出てきています。

今では、前場でTOPIXが下落しても後場には日銀によるETF買い入れが入ることが予想され、下げ幅を縮小する場面も多くあり、アナウンス効果として大きな効果があることは明らかです。

出口戦略に関しては日本銀行の目的は市場の安定であり、売却益をあげることではないため、現在保有している残高を売却することは考えにくいでしょう。そのため、緩和の縮小は買い入れ額の減額が開始されるのではないでしょうか。

実際、一時1日2000億円まで買い入れていたものが10月以降は元の700億円に戻っていますが、この間に減額が影響で相場が売りに押された場面は見られていません。

日本の最大の政策目標である物価上昇率2%が達成されるまでは金融緩和の全面的な終了は現実的ではありませんが、株高の今こそどのような形で金融緩和から引き締めへ移行するかを考えてみてはいかがでしょうか。

世界に溢れたマネーが相場を押し上げるのか、実体経済と足並みを揃えていくのか。例年、上昇の傾向がある年末も相場の値動きには目が離せません。

<文:Finatextホールディングス アナリスト 菅原良介>

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