あこがれの日本 就労「週28時間の壁」 留学生、在留期間更新されず

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留学生としての在留期間が更新されなかったペイリスさん。念願だった日本での就職は難しくなったが、「まだ諦めたくない」とつぶやいた=18日、熊本市中央区
留学継続の道を探るため、行政書士の無料相談会で話を聞くペイリスさん=10月7日、熊本市国際交流会館

 「何で相談してくれなかったんだ」。今年8月、熊本市の自動車整備の専門学校で、教員らの言葉に、スリランカ人留学生ペイリスさん(24)の目から涙がこぼれた。「親に、お金を送ってくれとは言えなかった」。まだ少し片言の日本語を絞り出した。

 同校は、同市の福岡出入国在留管理局熊本出張所から、入管難民法に関する指摘を受けていた。同法に基づく留学生の就労時間は原則「週28時間以内」。学費や家賃を払うために、それを超えて働いていた。指摘は2度目だった。前回は学校の入学金を用意するための制限時間オーバーで、同局に「次は帰国することになる」とくぎを刺されていた。

 日本への留学関連費220万ルピー(約160万円=2016年当時)や、旅費を工面してくれたのは母国で公務員として働く父親(54)だ。月給の40倍を超える大金。息子の夢のために貯金を崩し、多額の借金もしていた。

 「日本で働いて返す」。母国の両親を思い、2年5カ月間、日本での就職に必要な2級自動車整備士の国家資格取得に向けて懸命に学んだ。

 国家資格の試験は来年3月。しかし、福岡出入国在留管理局から9月、在留期間更新を「許可できない」との通知が届いた。「留学」の在留資格を失い、学校を退学。日本企業の内定も辞退せざるを得なかった。

 「彼の留学継続の道はないのでしょうか」。10月、ペイリスさんを支援するアルバイト先の日本人たちが、熊日の調査報道企画「SNSこちら編集局」(S編)に声を寄せた。

◆「ママ、やったよ」 就職内定から暗転

 「来春[らいしゅん]の入社[にゅうしゃ]を社員一同心待[しゃいんいちどうこころま]ちにしております」-。スリランカ人留学生ペイリスさん(24)に今年4月、1通の文書が届いた。差出人は熊本県内にも店舗を持つ自動車販売会社。面接で「漢字はうまく読めません」と答えたため、内定通知の漢字はすべてに仮名を振ってあった。

 「よかったな。これで日本で働けるぞ」。在学する自動車整備の専門学校(熊本市)の教員らがねぎらいの言葉をくれた。「ママ、やったよ」。母国で待つ母親(44)へ真っ先に電話を入れた。

 「日本の高い技術を学びたい」。母国で自動車販売会社を持つことを夢見て、2016年10月に来日。長崎の日本語学校で学び、18年4月に専門学校に入った。

 学校で使う20冊近くの日本語の教科書は、漢字に仮名を振って何度も読み返した。実習でも積極的に手を動かした。校内の技能競技大会では日本人を含め学年3位に。担当教員も目を見張るほどの成長ぶりだった。

 しかし、今年7月、順調だった留学生活を1本の電話が暗転させた。

 「別の通帳を持っていませんか」。同市の福岡出入国在留管理局熊本出張所の職員からだった。申告していたアルバイトは、カー用品店とディスカウント店の2カ所だけ。18年冬からこっそりコンビニでも働いていたが、とっさに「ありません」とごまかした。

 当時の月収は8万~10万円前後で、月6万円を学費に充てる。手元に残る数万円で、生活費を切り詰めてやりくりしていた。

 しかし同郷留学生2人との賃貸住宅の共有が続けられなくなったことが転機だった。1人で新居を借りるため、入管難民法の就労制限「週28時間の壁」を超える選択をした。

 法務省の在留外国人統計によると、19年12月末時点の留学生数は34万5千人。国が「留学生30万人計画」を示した08年の約2倍に上る。その9割強をアジア出身者が占める。

 出入国在留管理庁は留学生の就労時間「週28時間」の根拠を「主目的の教育活動を阻害しない範囲」と説明する。それに反し帰国を余儀なくされた留学生数は公表されていないが、外国人の労働問題に詳しい東京都立大の丹野清人教授は「母国からの仕送りを見込めず、法定内のバイトでは生活できない留学生が相当数いるのが実情」と言う。

 丹野教授は「留学生30万人」の目標達成を重視した政策の問題点を指摘し「長期的に日本社会の戦力になってもらう人たちを増やすためにも、日本で本当に働きたい留学生を救う制度が必要だ」と強調する。

 留学生としての在留期間が更新されず、新型コロナウイルスの影響で帰国もできないペイリスさんは“特例”で日本に残り、現在、ある日本人男性(44)の自宅に身を寄せている。学校の紹介で働き始めたバイト先のカー用品店の整備士。見知らぬ国で勉強に励み、職場でも、どん欲に技術指導を請う姿に「日本人の若者にはない熱意」を感じて、同僚たちと目をかけてきた。

 「できる限りのことはしてやりたい」。男性はペイリスさんが日本で学び続けられる方法を探っている。ペイリスさんも行政書士の無料相談会などに足を運んでいるが、現状打開の糸口は見つかっていない。「悲しいけど、日本を嫌いにはならない。だって、たくさん優しい人たちに出会えたから」。ペイリスさんは毎日、通信アプリで話している母親に、まだ本当のことを言えないでいる。(デジタル編集部・原大祐)