地球に落下した火星由来の隕石から火星内部の様子に迫った研究成果

火星由来の隕石「NWA 7533」。右の立方体は1辺が1cm(Credit: 東京大学総合研究博物館)

東京大学総合研究博物館の三河内岳氏が参加する研究グループは、地球に落下した火星由来の隕石を分析した結果、約42億年という長期間に渡る火星内部の構造やダイナミクスが判明したとする研究結果を発表しました。

今回研究グループが調べたのは2011年にモロッコで見つかった「NWA 7533」、通称「Black Beauty(ブラックビューティー)」と呼ばれる隕石です。この隕石には44億年以上前をはじめ、様々な時代に形成された岩片や鉱物片が含まれているといいます。研究グループはこの隕石の一部(約15グラム)から年代測定に用いられるジルコンと呼ばれる鉱物を約60個分離し、詳細な分析を行いました。

研究グループによると、NWA 7533に含まれていたジルコンは約44億7000万年前約44億4000万年前の2つの時代に形成された古いものが多かったものの、一部は約15億5000万~3億年前の幅広い時代に形成された新しいものであることが明らかになったといいます。研究に参加したコペンハーゲン大学のMartin Bizzarro氏は、新しいジルコンが見つかったことについて「大変驚きました」と語ります。
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火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データから作成された、火星のタルシス地域(中央)を中心とした画像(Credit: ESA/DLR/FU Berlin)

古いジルコンは火星のマグマオーシャンが固まった後に形成された最初の地殻が起源とみられています。いっぽう新しいジルコン火星の地下深くにあるマントルに由来するとみられており、約15億5000万~3億年前に火星の北半球にあるタルシス地域などの火山から噴出した後に風化作用で削り取られ、3億年前よりも最近の時代になって起きた火星での隕石衝突にともない古い時代の岩片とともに隕石として地球に落下したと考えられています。

これらジルコンの分析結果をもとに研究グループは、火星の深部には火星の形成当時から変化していない始原的な特徴を持った対流するマントルが存在しており、その上にリソスフェアに相当する地殻やマントルの最上部が乗った構造を持つ不動蓋型のテクトニクス(プレートの移動や沈み込みをともなわない)が42億年に渡り続いていたことが初めて明らかになったとしています。

研究グループは、火星の表面にはさまざまな時代に形成されたジルコンが存在している可能性が高いと考えており、NASAとESA(欧州宇宙機関)が計画しているミッションによって得られる火星地表のサンプルを分析することで、火星の正確な地質学的歴史が明らかになると期待を寄せています。

Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin
Source: 東京大学総合研究博物館 / コペンハーゲン大学
文/松村武宏

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