悩む人々、守りたい 「川崎いのちの電話」広報誌100号

これまでの広報誌を前に話す吉田さん(左)と有田さん=川崎市内

 深刻な悩みを抱える人たちの話を聞くことで自殺を防ぐ「川崎いのちの電話」(川崎市)。「命」を大切にするさまざまな活動や人を紹介しながら、電話の存在を知らせてきた広報誌が今月、100号の節目を迎えた。新型コロナウイルス感染症の拡大後、寄せられる声にはこれまで以上の「孤独」がにじむという。編集を担う広報部の部長、吉田伸一さん(65)は「命を支えようとする人がいると知ってほしい」との思いを強めている。

 川崎いのちの電話は、当時多かった中高年層の自殺を食い止めようと、市長の要請で1986年に誕生した。広報誌は翌87年5月、いのちの電話の存在を広めるために第1号を発行。以降年3回、4500部ずつ発行し、市の施設や市内小中高校、県内の警察、自治体などに配布している。

 誌面では、命の危機を乗り越えた人へのインタビューをはじめ、自殺予防の講演会のようすなどを紹介。現在は7人の広報部員が編集会議を開いて企画を決定し、取材や執筆を担う。「大事な命を守るために考える場を提供できれば」と吉田さんは話す。

 コロナ禍で、いのちの電話に寄せられる相談には変化が生じている。事務局長の有田茂さん(70)は「誰かと話したい、などと『孤独』を訴える人が多い」。家族が自宅にこもる中で家族への不満を募らせる人、人と接していないという人-。「長く話していたい」という印象もあるという。

 最近相次ぐ有名人の自殺報道後は、呼応するようにつらさを訴える電話も増えた。経済が停滞する現状も相まって「湧き上がってくるものがあるのだろうか」と、有田さんは思いやる。

 相談員の確保や、つながりにくさなどの課題もある中、いのちの電話の意義は増す。吉田さんは、広報誌を通して「いのちの電話の存在を知ってもらうとともに、悩む人に命を大事にしている人たちの存在を知らせ、つながってもらえれば」と話している。

 川崎いのちの電話は電話044(733)4343。

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