海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」が進水――艦名は「熊野川」に由来

By Kosuke Takahashi

海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦の命名・進水式が11月19日、三井E&S造船の玉野艦船工場(岡山県玉野市)で行われた。「くまの」と名付けられた。同工場での海上自衛隊艦艇の進水式は1月の音響測定艦「あき」以来。

海上幕僚監部広報室によると、艦名の「くまの」は「熊野川」に由来する。熊野川は古来、多くの皇族や貴族たちが熊野詣での際、小舟で下った「川の参詣道」として知られる。2004年には世界遺産に登録された。艦名は海上自衛隊内での募集検討を経て、岸信夫防衛相が決定した。ちくご型護衛艦10番艦「くまの」(2001年除籍)を継承する形となった。

●FFMの2番艦

海上幕僚監部広報室によると、新たな「くまの」は、多様な任務への対応能力を向上させた新型護衛艦(FFM=多機能護衛艦)の2番艦となる。1番艦は三菱重工業長崎造船所でいまだ建造中で、2番艦が1番艦に先立っての進水となった。1番艦は2番艦の「くまの」と同様、本来は11月中に命名・進水式が行われる予定だった。しかし、川崎重工業がガスタービンエンジンを試験稼働中、脱落した部品をエンジンが吸い込むなどしてトラブルが発生し、建造が遅れている。このため、艦型名は、依然として未定となっているこの1番艦の命名・進水式に伴って決められるという。

「くまの」は日本周辺で増大する平時の警戒監視活動のほか、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも活用できる。さらには、従来は掃海艦艇が担っていた対機雷戦機能も備える。東シナ海や日本海などで警戒監視活動に当たる予定で、海賊対処活動など海外派遣任務も期待されている。

●海自の人員不足を踏まえて省人化

全長133メートル、全幅16.3メートル、排水量3900トンで、船体がコンパクト化されている。海自の人員不足を踏まえた省人化と船価を抑えて実現した初の護衛艦となった。

海上幕僚監部広報室によると、速力は約30ノット。ガスタービンエンジンはイギリスのロールス・ロイス社から川崎重工業がライセンスを得て製造したMT30を1基搭載する。ディーゼルエンジンは2基を搭載し、ドイツのMAN社製の12V28/33D STCとなっている。軸出力は7万馬力。

主要装備品としては、62口径5インチ砲を1基、SeaRAMを1式、艦対艦ミサイル(SSM)装置を左右両舷に1式、対潜システムを1式、対機雷戦システム1式をそれぞれ搭載する。

海上幕僚監部広報室によると、乗組員はあさひ型といった通常型護衛艦の半分程度の約90人で、建造費も1隻約460億円と、通常型の3分の2程度にとどまっている。

岸防衛相は11月17日の記者会見で、FFMについて複数クルーでの交代勤務の導入などによって稼働日数を増やす方針を明らかにした。

「くまの」は今後、内装工事や性能試験を実施し、2022年3月に海上自衛隊に引き渡される。海上幕僚監部は「配備先は未定」と説明する。

海幕広報室によると、2018年12月に閣議決定された2019年度から23年度の「中期防衛力整備計画」(中期防)に基づき、10隻の3900トン型FFMを建造する。将来的にはFFMを合計で22隻建造する計画となっている。防衛省は今年度予算で3900トン型護衛艦の5番艦と6番艦の建造費と944億円を計上した。さらに今年9月末の2021年度予算の概算要求では、7番艦と8番艦の建造費として990億円を求めた。

防衛省は護衛艦54隻、潜水艦22隻体制を目指している。現有の隻数は2020年3月末時点で、護衛艦48隻、潜水艦20隻となっている。

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