【混迷の石木ダム】インタビュー 絶対反対同盟・岩下和雄さん 「話し合い」今が機会

岩下和雄さん

 -石木ダム建設事業に反対する理由をあらためて。

 ひと言で言うと、私たちの生活を犠牲にするだけの効果も利益もないから。川棚川の治水は堤防補強と河底のしゅんせつで十分対応でき、その方が安くて早い。県は当初「河川改修に30~40年かかるが、ダムはもっと早い」と説明した。初めから河川改修すれば、今ごろ完了していたはずだ。

 -佐世保市の利水については。

 計画当初、同市は将来的に日量17万トンの水が必要だから石木ダムの6万トン(現在は4万トン)で補うと言っていたが、今年の給水実績は多くて日量7万トン弱。もう必要なくなったということ。どうしても足りないというなら、地下ダムなどの方法もある。市の水需要予測は必要以上に多く、実際の保有水源も過小評価だ。

 -県は「話さえ聞いてくれれば、理解してもらえる」と主張している。

 だったら強引な方法をやめて、私たちの同意を得るべきだ。1972年の予備調査前には「地元の同意を得てから建設する」と約束した覚書も交わしたのに破られた。私たちは「必要性の話し合いならいつでも応じる」と言ってきた。応じなかったのはむしろ県側。移転を前提にした補償交渉しかしようとしなかった。

 -今後、県側と「話し合い」のテーブルに着くための条件はあるのか。

 現時点の工事の中断。県は「白紙撤回」が条件ととらえているようだが、そんなことは言っていない。話し合いの結果として白紙に戻ることを望んでいる。県もダム建設を望むなら、両者で対等に意見を交わし、私たちの同意を得てから工事を再開すればいい。「工事は続ける。話し合いに応じろ」は対等と言えない。

 -ダム用地の地権者の8割は同意した。

 最初から移転を望んでいた人もいる。絶対反対同盟から移転した人は22世帯のうち9世帯で半分に満たない。彼らも個別の事情で移転したのであり、ダムに賛成したかのように言いはやすのはおかしい。

 -県は行政代執行も選択肢から除外しない構えだ

 ありえない。全国的に見て、これだけの人が実際に生活を営む土地での代執行は、ダムに限らず例がない。強行すれば、これまでダムに関心がなかった人にも支援の輪が広がるだろう。だから県は工事をストップしてでも、私たちと話し合う必要がある。今が一番いいタイミングではないか。本当は強制収用前に話し合ってほしかったが。

 -13世帯の結束に変わりはないのか。

 何ら変わらない。むしろこれまでの強硬策で、県への不信感は大きくなった。私たちは移転しても、今のように地域に溶け込んだ生活はできない。それぞれに老後の計画や夢もあったのに、10年前に付け替え道路工事が始まってからは現場で抗議する毎日。みんなで広場に集まり、グラウンドゴルフを楽しむこともできなくなった。老後の生活がダムで犠牲になったことは悲しい。一日も早くこの問題が解決することが、一番の願いだ。

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