第53回 スポーツ観戦の意義

Jリーグは観戦可? 海外が学ぶ日本式

Jリーグは新型コロナウイルス感染拡大防止のため、7月10日以降の試合については「超厳戒態勢」の下、「入場者数制限5000人」で試合を実施してきました。

しかし9月19日以降の試合においては、こちらも超厳戒態勢の下、「入場者数の上限を入場可能数の50%とする。ただし、入場可能数が1万7000人以上のスタジアムは、30%程度からの段階的な緩和に努める」ことが決定しました。

8月に行われた、レッドブルアリーナでの試合は無観客だった

欧米がほめる日本 根本に文化的な違い

海外のプロ・サッカーリーグではまだ無観客で試合を開催しているリーグも多い中で、Jリーグではこのように観戦環境が向上していることは、ポジティブなニュースだと思います。

最近、Jリーグの観客のマナーの良さなどを、あのニューヨークタイムズ(2020年9月9日号)が取り上げたことも記憶に新しいですし、ニューヨーク拠点のチーム「ニューヨーク・レッドブルズ」などからも感心の声が届いたほどです。

プロスポーツの観戦に限らず、新型コロナウイルスにおいて日本は西洋諸国と比較しても感染拡大は小規模といわれており、その要因はいくつも挙げられてきました。

元々手を洗ったり、うがいをしたりなど清潔への意識が高いとか、西洋とは異なり、握手や抱擁(ほうよう)などのあいさつが少ないとか、言葉を発する時に英語などは唇を使った破裂音がある(PやBの発音時など)が、日本語では少ないとか。

スポーツの観戦においても、特異な違いが存在すると私は考えています。

例えば日本では試合観戦の際、「試合」を観に行くファンが多いと思いますが、西洋、特にアメリカでは「一緒に観戦に行く人たちとソーシャライズしに行く」という感覚の方が強いと思われます。

言い換えると、アメリカのファンは試合を観戦しつつも、一緒に行った人たちとお喋りをしたり、飲食をしたりすることに楽しみを見出す人が多いのです。

スポーツビジネスの観点から言うと「観戦体験」が売り物だけに、この状況下、静かに試合だけを観戦することに、あまりアメリカのファンは満たされないのです。

忙しいアメリカの観戦 移動手段も重要な課題

アメリカのスポーツをスタジアムまで観に行くと、試合前から駐車場で仲間内でバーベキューをして盛り上がったり、試合そっちのけで大声で仲間内で話に盛り上がったり、試合中でも間断なく立ったりしてコンコースに飲食物を買いに移動したりするので、結構せわしないです。

これはスポーツ観戦における文化的差異、そしてスポーツビジネスの観点からの差異ではないかなと感じています。

また、試合を観戦しに行けない中で、プロスポーツのテレビなどでの視聴者数は大幅に増加しています。これは安全性の観点もありますが、アメリカでは家で親しい人たちと、やはり盛り上がりながら飲食をし、スポーツも同時に観る、という文化も影響しているといわれます。

プロ・スポーツチームによっては、スタジアムで販売している飲食物をファンの家に配達するサービスも開始しました。

最後に忘れてはならない重要な点として、スタジアムでの安全性は担保されても、そこへの行き来の安全性をどうするか、という点。車文化のアメリカと、そうではない日本では、ここが最も異なります。

それでも日本でこのように、より多くのファンが試合観戦に出掛けられるようになっていることは、ひとえに日本という国の公衆衛生や、周囲への思いやりのたまものではないかと考える他ありません。

ニューヨークで解禁されてもいろいろな人がいすぎて、安心して「観戦に出掛けるか」という気持ちには、なかなかなれないのです。

〈編集注〉情報は11月13日現在のものです。

<今週の用語解説>

MLSの新型コロナ対策

メジャーリーグ・サッカー(MLS)は現在、選手、コーチ、運営スタッフに定期的な新型コロナウイルスの診断検査を行っている。10月29日〜11月4日の間に、新たに8人の選手が陽性反応となった一方、スタッフ側に新規感染者は出なかった。なお、ニューヨーク・レッドブルズの次の試合は11月21日(土)で、こちらも無観客試合の予定だ。

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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