長野県内『公用車』事情 黒塗りからミニバンへ 田中康夫知事がきっかけ? 『行革』で自ら運転の町村長は約4割の29人

特集です。先月、兵庫県や山口県で高級な「公用車」が導入され、全国ニュースで取り上げられました。そこで長野県内はどうなのかと取材したところ、主流は「ミニバン」で、自ら運転する町村長も多いことがわかりました。県内の最新公用車事情です。

吉村元知事が乗っていた公用車「日産・プレジデント」

かつては県内でも知事や市長の公用車と言えば「黒塗り」の高級車でした。写真は1983年当時、吉村午良元知事が乗っていた公用車(日産・プレジデント)です。

その流れを変えたのは、2000年に就任した田中知事です。

長野県・田中康夫知事(2003年):

「ふんぞり返って大きな黒塗りに乗る時代ではなく、(ミニバンなら)車の中でも食事をしながらでもきちんと話ができ、書類作成もできる」

田中知事は「高級すぎる」としてセンチュリーには乗らず、一部を売却。自身の乗る公用車には、ハイブリッド車、続いてミニバンタイプを導入しました。

ミニバンは村井知事に引き継がれ、現在の阿部知事も同じ車種に乗っています。安全性や車内で打ち合わせもできる広さなどが選定の理由です。

県は今もセンチュリーを保有しています。こちらの1台は20年前、知事の公用車として1134万円で購入。現在は「部局長共用」の車となっています。

特別に乗らせてもらう…。

(記者リポート)

「シートが柔らかいですね。空間もゆったりしているので、長時間の出張でもリラックスして過ごせそうです」

しかし、部局長もミニバンに乗ることが多く、走行距離は6万キロ程度。20年経っても更新基準の「11万キロ」にはほど遠い状況です。

県財産活用課・中村嘉光課長:

「故障もないので使わせてもらっているが、20年もたっているので、売却も含め検討したい」

その後、県は来年1月にインターネットオークションに出品し、売却することを決定しました。

では、市町村はどうなのでしょうか。77市町村を電話取材したところ、まず市町村長の「専用車」があったのは40市町村。残り37市町村は、議長や職員との「共用」の車でした。

市町村長が乗る車種の「上位」は…。

トップは知事と同じ「トヨタ・アルファード」。25市町村が採用しています。

2位は、ハイブリッド車の「トヨタ・プリウス」で21市町村。

3位はセダンの「トヨタ・クラウン」10市町村でした。

それ以下もミニバンタイプが続き、センチュリーはありませんでした。

市町村でも人気のアルファード。駒ヶ根市の伊藤市長に使い勝手を聞きました。この日は職員3人と小学校の視察へ。

車内で説明を受ける…。

職員:

「東伊那小はプールは新しい、改築して」

市長:

「プールは新しいのか」

7人乗りで道中で打ち合わせもでき、県外出張にも使っているそうです。

駒ヶ根市・伊藤祐三市長

「乗り心地は快適ですよ。『市長車』と言っても僕だけが乗るわけではなく、多くの人がゆったり乗れる方が使いやすいし、話もできる。車はツール、道具なので。何か別の象徴である必要は全くないので、それで選べばべいい」

県内は2位のプリウスをはじめ、ハイブリッド車も多めです。池田町の町長車は「レクサス」ですが、上級車種ではなく400万円台のハイブリッド車。しかも交付金を活用しました。

池田町・甕聖章町長:

「10年ほど前、地方創生交付金が出て、環境にやさしいということで何台か導入。自治体によって財政の力もあるので、住民の税金ということを考えれば、それほど高級という部類でなくていいのでは」

コストを重視する自治体では、公用車を長く使う傾向があります。確認できた中で最も走行距離が長かったのは、立科町の議長車(トヨタ・プリウス、職員と共用)で21万1800キロ余りでした。

立科町議会・森本信明議長:

「町の財政事情、選定の仕方がある。車は大切に乗っていきたい」

一方、取材を進めると、公用車を自分で運転する町村長が多いこともわかりました。常時ではないケースも含めると、県内の自治体の約4割に当たる29町村の首長が自らハンドルを握っています。

豊丘村の下平村長もその一人。就任当初から自ら運転しています。

豊丘村・下平喜隆村長:

「何とも思っていない。これが普通。飯田下伊那の常識」

財政規模の小さい町村が多い南信地域。行政改革の一環で、2、30年ほど前から運転手を置かなくなったということで現在、下伊那では13人の町村長がハンドルを握っています。

このため、長野市などへの会議には声を掛け合い、1台に乗り合わせて行くこともあるそうです。

下平村長が主に運転しているのはリース契約の電気自動車、日産・リーフ。職員との「共用」です。

充電も自分で…。

豊丘村・下平喜隆村長:

「だって一人しかいないし。普通の職員の出張と同じです」

兵庫の高級車導入については「それぞれの自治体で考えれば良いこと」と話す下平村長。職員と同じ車を運転することには、経費削減以外にも効果があるとしています。

豊丘村・下平喜隆村長:

「職員と同じ車に乗ると、同じ土俵で仕事をしているんだと。明るく風通しのいい職場をつくりたかったし、実際、そうなっている」

執務のしやすさ、環境への配慮、そしてコスト意識。県内の公用車は、この20年から30年の間で、大きく変わったようです。

(画像:吉村元知事が乗っていた公用車「日産・プレジデント」)

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