全国で続く産廃マニフェスト改ざん 業者任せ、限界露呈

産業廃棄物を処分する際に使用されるマニフェスト

 産業廃棄物の汚泥を公共下水道に流していたとして起訴された横浜市の中間処理業者の実質的経営者らが、汚泥の処理工程を記した管理票(マニフェスト)に虚偽記載していた疑いでも摘発された。不法投棄の発覚を避ける狙いがあったとみられる。制度上、マニフェストの記載は業者任せで、内容の真偽を行政がチェックする機会はない。改ざん事件は全国で後を絶たず、業者の良識に支えられた制度の限界が改めて浮き彫りとなった。

 摘発された松本建設(同市南区)は1990年に産廃処分業の許可を取得した。県警によると、同市金沢区に処理施設を有するが、施設内の機器は約30年前から不具合で機能していなかった。この間、処分を請け負った汚泥を下水道に未処理で投棄し続けていた可能性がある。

 比重のある汚泥は下水道に流すことができず、同社は処分を別の中間処理業者に委託。この時交付したマニフェストの排出者欄に架空の業者名を記していた疑いで、実質的経営者ら3人が18日に廃棄物処理法違反容疑で再逮捕された。同じ中間処理業者間で処分を依頼する不自然さを隠すためだったとみられる。

 市は5年ごとの許可更新時のほか、年に1回程度抜き打ちで、同社施設に立ち入り検査を実施。施設内の機器が図面通りに設置されているか確認したものの、稼働状況までは調査項目になく見ていなかった。県警の捜査で判明した機器の不具合は見過ごされ、結果的に不法投棄が疑われる状況も察知できなかった。

 マニフェストに関しても同社側に法令違反や不審点が確認されなかったとして、少なくとも直近5年間で市が精査した記録はなかった。県警の捜査後、市は同社に聞き取り調査を実施。汚泥を適正に処理したように見せかける目的で、マニフェストに虚偽の記載をしたことを認めたという。

 市産業廃棄物対策課は「マニフェストは業者の正しい申告が前提の制度。虚偽だったとしても、見抜くのは難しい」と頭を抱える。そもそもマニフェストを行政に報告する義務はなく、仮に市が積極的にチェックしようにも市内の許可業者は約320社あり、全てに目を通すことは現状の人員態勢では不可能という。

 早大法学部の大塚直教授(環境法)によると、近年は電子マニフェストの利用率が5割超まで進展。電子マニフェストは、日本産業廃棄物処理振興センターが運営する情報処理センターで一括管理している。松本建設が使用していた紙マニフェストに比べて改ざんしにくく、行政が廃棄物の移動状況をつかみやすいことから、業者に対する抑止力となって作用することが期待されている。

 ただ電子マニフェストであっても「大量の廃棄物があちこちで処理されている中で未然に不法投棄の恐れを察知できない場合は多く、抜け道はどうしても残る」と大塚教授。「意図的に悪事を働く人には効果が乏しい」としている。

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