全員偽善者、文在寅政権と「共にセクハラ党」|西岡力 言っていることとやっていることが180度違う!「人権派」「女性の味方」を公言する政治家の正体、「清貧」の裏に隠された本性――韓国政治には「偽善者」しかいない!  

庶民を苦しめ甘い汁を吸う文在寅の最側近参謀たち

聖書に「義人はいない、一人もいない」という言葉があるが、最近の韓国政治を見ていると、これほど「偽善者」が多いのかと愕然とせざるを得ない。

2020年8月7日、文在寅の最側近参謀といえる秘書室長と5人の首席秘書官(政務・民情・国民疎通・人事・市民社会の各首席秘書官)が一括で辞表を出した。その日に、文在寅が不動産価格暴騰を止められないことに対する世論悪化について報告を受け、激怒した直後のことだ。

文在寅政権になり、3年間でソウルのマンション価格が53%も暴騰している。李明博・朴槿惠の任期を合わせて9年半で25%しか上がっていないから、失政は明らかだ。もはや、わが家を持てないと絶望する若い世代の怒りの声が高まっている。

暴騰の一番の原因は投機だ。

そこで一世帯が複数の住宅を所有している場合、多額の税金をかけるなどの政策をとってきたが効果がない。そんな中、政権中枢にいる者たちが住宅投機の主人公だという事実が批判の対象となった。大統領府の秘書官や与党議員にも、複数住宅所有者が多数いたからだ。

2019年12月、盧英敏秘書室長が大統領府の幹部職員に複数住宅を持つ者は一つを残して売却せよ、と指示した。ところが、3月の財産公開で49人中16人が複数住宅を持ち、秘書室長本人もソウルの高級住宅地江南と選挙区の忠清北道清州に二つの高級マンションを所有していたことが明らかになった。 秘書室長は清州のマンションを売ると発表したが、選挙区を捨てて値上がりが見込める江南のマンションを売らないことに批判が集まった。結局、江南のマンションも売ったが、そこで約8億ウォンの差益を得たことがまた批判を生んでいる。

そのうえ、辞表を出した5人の首席秘書官のうち金照源民情首席秘書官、金外淑人事首席秘書官、金巨性市民社会首席秘書官の3人は、なんと現在も複数住宅所有者だ。特に、公職綱紀確立を担当して5大権力機関(検察、警察、国情院、国税庁、会計監査院)を管轄する民情首席秘書官が江南に高級マンションを2つも所有しており、その一つを相場より高い値段で売りに出したことが明らかになり、買い手がつかないようわざと高い値段をつけたと批判された。

辞表を出した秘書官らは、大統領府を辞めれば複数住宅所有を続けられるとして、「権力は有限だが、江南の高級マンションは永遠だ」などと国民から揶揄されている。

政権中枢を占める革命家たちも皆偽善者だった

文在寅政権では80年代、北朝鮮の路線に従う主体思想派学生運動のリーダーたちが大挙して政府や与党の中枢に入った。ところが、その革命家らがまた偽善者だった。

文在寅政権の初代大統領秘書室長任鍾は国会で主体思想派だった過去を反省し転向したのかと問われ、自分たちは恥ずかしい青春を生きてこなかったと開き直って、転向宣言を拒否した。

ところが、彼の娘は米国名門大学に留学中で、留学先でSNSに高級ブランドの服やバッグをとっかえひっかえ身にまとっている写真を上げていた。任は7月に文在寅大統領の外交安保特別補佐官に任命された。

任とともに統一部長官に任命された李仁栄は、やはり80年代任らと地下活動をともにした主体思想派の活動家だった。彼は国会公聴会で、学生時代、毎日、金日成と金正日の肖像写真に向かって礼をしていたのかと問われ、「記憶にない」という曖昧な答えをした。彼もまた明確な転向宣言をしていない。その李の息子は現在、スイスに留学中だ。

任や李とともに80年代、主体思想派の地下活動家として活動したのが、元忠清南道知事の安熙正だ。彼はいま、女性秘書への性暴力で有罪判決を受け、刑務所にいる。

「女性の人権重視」を謳いながら何度もセクハラ

朴元淳前ソウル市長

50代である任、李、安らの上の世代の左翼にも偽善者が多い。2020年4月に、70代の老左翼政治家である呉巨敦釜山市長が部下女性職員に市長室でセクハラをしたことを告発され辞任し、現在も警察の取り調べを受けている。

7月には、韓国左派運動のゴッドファーザーと呼ばれていた60代の朴元淳ソウル市長が女性秘書へのセクハラで刑事告訴され自殺した。

文在寅政権は女性の人権を重視することを目玉公約にして、若年層の女性の圧倒的支持を集めてきた。過激なフェミニストが政権に入り、MeToo 運動でも被害女性の立場に立って問題を解決せよと、繰り返し強調してきた。

特に、朴ソウル市長は女性の人権弁護士として世に出た人物だった。つまり、文在寅政権下で、ソウル市長、釜山市長、忠清南道知事の3人が現職にいるとき、性暴力やセクハラを犯し失職しているのだ。日本で言えば、東京と大阪と愛知の知事がセクハラで揃って辞めたようなものだ。偶然とは言えない。やはり、韓国左翼の偽善がここに表れていると見るべきだ。

8カ月の間に4回の性暴力と随時セクハラ

以下、安熙正忠清南道知事、呉巨敦釜山市長、朴元淳ソウル市長がいかに女性の人権を踏みにじる偽善者だったかを詳しくみていこう。

まず、安熙正忠清南道知事。

1965年生まれで、高校時代から反全斗煥の学生運動に加わり、1983年に高麗大学に入学。主体思想派の地下組織「愛国学生会」を結成して、国家保安法違反で逮捕された。

その後、野党政治家の秘書などになって政界に入ったが、1992年に国会議員選挙に出て落選したあと、盧武鉉大統領候補の選挙運動に加わり、選挙資金を不正に受け取った容疑で逮捕され、実刑判決を受けた。

出獄後、2010年に忠清南道知事選挙に立候補して当選。先に見た李仁栄統一部長官とは高麗大学の地下組織時代からの仲間で、バリバリの主体思想派出身の政治家だ。安知事も李長官と同じく、公開の席で転向宣言を行っていない。

その安知事の現職秘書である金智恩氏が2018年3月、ニュースチャンネルJTBCに生出演して、安知事に8カ月の間に4回性暴力を受け、随時セクハラを受けた、と訴えた。性暴力はスイスやロシア出張時や国内のホテルなどでなされ、セクハラは乗用車のなかなどでも行われていたという。マスコミに本名で顔もさらした覚悟の訴えだった。

私は本稿を書くにあたって、インターネット上にあるそのインタビュー動画を視聴した。金智恩氏は約18分にわたり、憔悴した表情で、しかし、一言ひとことはっきりとした口調で自分の受けた被害と公開告発に踏み切った心情を語った。密室の出来事だから証拠を集めるのが困難ではないかという質問に対して、「私が証拠です」と決然と答えている。

最後に、「このように出てきたので私は消されてしまうかもしれない。国民の皆さんが守って下さい」と絞り出すように話したのが印象的だった。

その翌日、金氏はソウル西部検察庁に弁護団と一緒に出向き、安知事を刑事告訴した。それを受け、安知事はすぐ知事を辞任した。

安知事は検察の取り調べに対して、不適切な性関係があったことは認めたが、合意のうえであり性暴力ではないと主張し、一審では証拠不十分で無罪となった。しかし、二審と大法院(最高裁)では金氏の証言には一貫性があり信じるにたるとされて、3年6カ月の実刑判決が確定し、現在収監されている。

釜山市長もやはりセクハラ

次に呉巨敦釜山市長。

呉市長は1948年、釜山で大韓製鋼設立者の息子として生まれた。ソウル大学を卒業して上級公務員試験に合格し、公務員として釜山市副市長まで務めたエリート官僚だった。

その後、2005年から2006年に盧武鉉政権の海洋水産部長官となるなど、左派系の政治家となった。保守が強い釜山で、左派野党から国会議員選挙に1回、釜山市長選に3回出て落選したが、2018年、文在寅政権下で与党が圧勝した地方選挙で釜山市長に当選した。

2020年4月5日、呉市長は部下の女性職員を業務上の用事があるとして市長室に呼びつけ、セクハラをした。女性職員は抗議して部屋から逃げ出した。

10日後に国会議員選挙があるという政治的に緊張した時期だったこともあり、呉市長は被害女性に選挙後に市長を辞任するという覚え書きを渡し、選挙後まで事件を明らかにしないように頼んだ。 覚え書きには、文在寅が弁護士時代に開設した「法務法人釜山」の公証がつけられていた。また、大統領府の現職の人事首席補佐官がこの法務法人出身者だったので、政権や与党から被害女性に圧力がかかったのではないかとの疑惑が出ている。被害女性は選挙後の辞任を受け入れた。

4月23日、呉市長は記者会見を開いて以下のように語り、市長を辞任した。

「私は最近、一人の女性と五分間面談した席で不必要な身体接触があった。強制セクハラとして認められ得ることを悟った。私の行動が軽重に関係なく、どのような言葉でも許されない行為であることを知っている。 このような間違いを抱えたまま、偉大な釜山市民が任せて下さった市長職をこれ以上遂行することは道理ではない。公職者としての責任をとる形で、残った人生を謝罪と懺悔しつつ一生間違いを背負って生きていく。被害者の方がまた別の傷を負わないように、言論人の皆さんを含む市民が保護して下さい」

それに対して、被害者は書面で強く抗議した。

「今日の呉市長の記者会見の一部の文言に深い遺憾の意を表します。そこで発生したことは軽重を論じられません。それは明白なセクハラであり、法的処罰を受ける性犯罪でした。『強制セクハラとして認められ得ることを悟った』 『軽重に関係なく』などの表現で、逆に私が『普通ではない人間』として見られるのではないかと恐れます。(略) 私は呉市長の辞任を求めました。それが常識だからです。間違ったことをした人間は処罰を受け、被害者は保護されるべきだというあまりにも当たり前の理由のためです」

しかし、8月現在、呉市長に対する警察の捜査は進んでおらず、起訴されるかどうかさえ決まっていない。

耐えきれなくなった女性秘書が告発

最後に、朴元淳ソウル市長。

7月10日、市内の山中で朴市長が遺体として発見され、自殺と断定された。朴市長は8日までは、不動産価格の暴騰を抑制する問題で、長年の左派運動の同志である与党「共に民主党」の李海代表と会談するなど、通常に業務をこなしていた。

ところが、九日に市庁に出勤せず全ての日程をキャンセルした。夕方、同居していた娘が(妻とは別居中)、「父が遺言めいたことを残して市長官舎を出たあと、携帯電話もつながらない」と警察に失踪届を出し、大捜索の結果、10日の午前零時過ぎにソウル北部の山中で遺体が発見された。

朴市長は自分に仕えていた女性秘書に対して、2017年から4年間もセクハラ行為を続け、耐えきれなくなった秘書が、8日午後に朴市長を刑事告発していた。

告発によれば、朴市長は市長室の横に作られていた寝室に秘書を呼び入れ、膝にキスしたり、すりよって体を接触させたり、「抱いてくれ」と迫ったりした。

また、スマホに自分の下着姿の写真やわいせつな文書を送りつけ、同じものを送るように迫ったという。

韓国初のセクハラ裁判で被害者弁護人を務めた男

朴市長は1993年、韓国で最初のセクハラ裁判で被害者弁護人を務めた。ソウル大学教授による助教へのセクハラ事件で、5年かけて98年に勝訴した。この勝訴により、朴市長は女性の人権擁護団体から「今年の女性運動賞」を受けたが、その賞金を韓国女性団体連合に寄付した。

朴市長が、弁護士として告訴状の最後に「子供が石をカエルに投げつけたとき、子供には何気ない行動でも、カエルの立場からすると取り返しのつかない被害を受ける」と書いたことは有名だ。朴市長は、セクハラ事件では被害者の立場に立って考えよと主張し続けてきた。

慰安婦問題でも元慰安婦の立場に立て、と激しく日本を攻撃。2000年に東京で開催された国際的茶番劇「女性国際戦犯法廷」なる行事で北朝鮮代表と一緒に「検事役」を務め、「韓半島は10万名以上が軍隊慰安婦として動員された最大の被害者」だったと主張して、昭和天皇に有罪判決を下すパフォーマンスの一翼を担った。

ソウル市長就任後もその姿勢は変わらなかった。2017年1月、「ソウル市、女性リーダーとともにする新年会」で「女性らしさは元淳らしさだ。世の中を変える力になる」として親女性型のリーダーになると約束し、「(ソウル市予算)1兆ウォンを投入して32万の女性の働き場所を作る」 「女性中心、労働者中心の世の中を作る。良い世の中とはもっとも苦痛を受けている人々が中心になる世の中」だと強調した。

被害者がセクハラを受け続けていた時期である2018年5月、ソウル市長選挙立候補にあたり、朴市長は「(性暴力は)予防することが重要だ。事後には回復できない被害が発生するためだ」として「被害者中心主義」を強調していた。

まさに偽善者そのものではないか。

「清貧」の裏に隠された本性

朴市長はまた、80年代に左派運動の理論的基盤を作るために、戦前の朝鮮共産党の大幹部で、北朝鮮建国後、金日成につぐ二番手になり、朝鮮戦争後粛清された朴憲永の息子などとともに在野左派学者らを網羅した「歴史問題研究所」を作って、初代理事長になった。

そこで、反日を媒介にした反韓自虐史観、親北民族史観の学者らを多数育て、その学者らが現在、学界の主流を形成し、歴史教科書を書いている。その後、「参与連帯」「美しい財団」などの左派市民運動組織を作って、大企業から多額の協賛金を集め、左派陣営を資金的に支えてきたゴッドファーザー的存在だった。

朴市長から資金をもらって育成された左派運動活動家は多い。ソウル市長になっても様々な委員会を作って、左派弁護士や活動家に資金を回してきた。また、民主労総や挺対協など過激な左派組織に補助金を出してきた。朴槿惠前大統領弾劾のデモでも、ソウル市が電源や会場掃除などで全面的にバックアップした。

朴市長本人は借家住まいで借金をしていると宣伝しており、そのような清貧な生活をしていることを人々に知らせて満足する自意識の強い左派活動家だった。

被害女性の絶叫

だから、セクハラで訴えられるというスキャンダルには、その強い自意識が耐えられなかったのだろう。 ソウル市は刑事告訴されている破廉恥犯罪の容疑者の葬儀を、「ソウル市葬」とした。被害者の感情を逆なでする「市葬」に対しては、50万以上の大統領府請願の反対署名が集まったが、ソウル市は「市葬」を強行。警察は、告発された当人が死亡したので捜査を終わらせたと発表した。

被害女性は、次のような絶叫に近いコメントを発表している。

「巨大な権力の前で、力のない弱い私自身を守るため、公正で平等な法の保護を受けたかったです。安全な法廷で、あの方(朴市長)に向かってこんなことをしないでと叫びたかったです。いやですと泣き叫びたかったです。許したかったです。法治国家の大韓民国で法の審判を受け、人間らしい謝罪を受けたかったです」

「人権派」という名の大悪人

忠清南道知事、釜山市長、ソウル市長の性暴力とセクハラ事件を概観したが、そこで分かるのは左派政治家のあまりにもひどい偽善者ぶりだ。なぜ、ここまで女性の人権を堂々と踏みにじることができるのか。

その背景には、自分たちの主張を絶対善として盲信し、それを実現する革命のためにはどのような手段を使っても正当化されるという、共産主義政治思想がある。特に、彼らが信奉している北朝鮮の主体思想では、首領を絶対視するから、首領である金正日や金正恩を性的に慰めることも革命家の務めとされ、「喜び組」が作られているのは関係者周知のことだ。

韓国の左派活動家の生態に詳しい金錫友元統一部次官が、次のような鋭い分析を行っている。

「1980年代の主体思想派の学生運動が、闘争のエネルギーを得る方法として『セックスサークル』に女性を引き込んだ痕跡がまだ濃く残っている。純真な入学したばかりの女子大生まで集団的性関係で縛り付けて闘争の同志にしていった過程が、韓国社会の性文化に及ぼした影響は多大だ。あたかも智異山パルチザンの時期に、女性隊員が男性戦士に性的慰安を提供したこととも似ている。革命のためには女性の性的自己決定権のようなものはあまり重要ではない、と見るのだ。 朴元淳の女性秘書セクハラ事件で分かるように、フェミニストの先駆者であり、巨人という人物がその高邁な外形とは矛盾する性的な逸脱に耽溺しても、学生運動時代のセックスサークル文化からすると特に問題はないと片付けたのだ。 被害者が数年間苦痛を訴えても、同僚や関係者たちは完全に無視した。7回も他部署への転出を訴えても聞き入れなかった。そこでは学生運動時代の性文化が強く作用したと見られる」(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)

西岡力

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