なんで男性ってみんな三国志が好きなの?江戸時代から日本で大流行したその魅力を紹介!

いつぞや、電車の中で洩れ聞こえた会話。

「先週の合コンで『三国志(さんごくし)で誰が好き?』って訊いてきたオトコがいたんだけど」

「え、マジ?そいつバカじゃないの?」

「ね。三国志なんて女子は誰も興味ないっつーの」

「ほんッと、オトコどもって三国志好きだよね。あんなの、何がいいんだろ」

「ねー」……(以下略)

内心大いに苦笑した筆者ですが、興味のあるなしは個人の自由としても、オトコどもがそこまで惹かれる三国志の魅力を少しでも知っておけば、
「ねぇ、もしかして『三国志』とか好きだったりする?」
などと会話の引き出しが一つ増やせるというもの(※そこまで会話したい男性に出会えるかは運次第ですが、知っていて話さないのと、知らないで話せないのとでは、大きな違いがあります)。

また「三国志って中国の話でしょ?日本と関係ないじゃん」と思われる方もいるでしょうが、歴史の授業で習った卑弥呼(ひみこ)の登場する『魏志倭人伝(ぎし わじんでん)』とはまさに三国志(魏志)の一部であり、三国志は永く日本人に親しまれてきたのです。

0.そもそも三国志とは

魏(青)蜀(緑)呉(赤)が鼎立。Wikipediaより。

中国大陸を支配していた後漢王朝(西暦25年~220年)が滅亡して魏(ぎ。曹魏)・蜀(しょく。蜀漢)・呉(ご。孫呉)の三王朝が鼎立。それが再び統一される西暦280年までの60年間を中心とした戦乱の様子を描いた歴史書(三国を志=記したから三国志)です。

ちなみに、この史実を元ネタに書いた歴史小説『三国志演義(さんごくしえんぎ)』は登場人物の個性をより引き立て、ストーリー性を高めたことで人気を集め、一般的な(≒オタクでない)男性が「三国志」と言った場合、多くの場合こちらを指します。

【三国志の基本まとめ】
(1)時は3世紀、中国大陸が三つの国に分裂、再び統一されるまでの物語
(2)史実(三国志)と歴史小説(三国志演義など)の大きく2種類がある

1.日本人と三国志の関係

さて、三国志が日本で流行したのは江戸時代ですが、それ以前にも歴史の折々に三国志が取り上げられてきました。

日本でも古くから暴虐不遜の代名詞だった董卓。

例えば奈良時代に権勢を奮って帝をないがしろにした蘇我入鹿(そがの いるか)を同じく暴政を振るった董卓(とう たく)になぞらえて批判したり、吉備真備(きびの まきび)が諸葛亮(しょかつ りょう。孔明)が編み出したとされる兵法を伝授したりなど、人々の知識として三国志が引用されるシーンがしばしばあります。

更に時代は下って南北朝時代、新田義貞(にった よしさだ)の見た夢が諸葛亮と同じ(活躍するも非業の死を遂げる)最期を暗示するエピソードなど、その忠義と知勇が武士たちに好まれました。

江戸時代に入ると文学としてはもちろん、歌舞伎や浄瑠璃、浮世絵など様々なメディアでアレンジされ、現代ではマンガにゲーム、映画やTVドラマに至るまで、好き嫌いはともかく知らない人はいないくらいに普及しています。

2.なぜ男性は三国志に惹かれるのか

そんな三国志に、なぜ男性は惹かれるのか……もちろん人によって理由は違いますが、大きくこんな要素が考えられます。

2-1.主人公の魅力

左から劉備・曹操・孫堅。Wikipediaより。

貧しい身分から数々の苦難を乗り越え、皇帝にまで成り上がった蜀の劉備(りゅう び。玄徳)。

頭脳明晰、冷徹なリアリストである反面、革新的な政策で新時代を切り拓いた魏の曹操(そう そう。孟徳)。

若くして非業の死を遂げた父と兄の志を受け継ぎ、多くの人材に恵まれて一国を興した呉の孫権(そん けん。仲謀)。

三人の主人公を並べてみましたが、それぞれ「誰か」に似ていないでしょうか。

劉備……豊臣秀吉
曹操……織田信長
孫権……徳川家康

ここまでつながればもう説明は不要でしょうが、やっぱり主人公が魅力的であれば、国や民族を超えて、自然と憧れや尊敬の念が湧き起こるものです。

2-2.多彩な登場人物

見るからにキャラが濃厚な劉備三兄弟。三国志には、こんな連中がうじゃうじゃ登場する。

歴史小説『三国志演義』には、架空のキャラクターも含めて千数百人の人物が登場します。ただ軍勢の強大さを示すために名前を連ねているだけの部将もいる一方で、独立した作品の主人公になれそうなくらいに(実際になっている)強烈な個性の持ち主もたくさん。

善人と悪人、賢者と愚者、勇者と卑怯者が入り乱れて織りなす人間ドラマは観る者をして感動せしめ、自分の思想や価値観によって気に入る武将も人それぞれですから、自分の見出した魅力を語り合うのは、三国志ファンにとって何よりの楽しみとなるのです。

「おぉ、この武将について俺はこう思っていたが、お前はそういう見方をするのか……」など、価値観の違いから生まれる刺激を味わい、楽しんでいると言えるでしょう。

2-3.大陸ならではの壮大なスケール、そして……

言うまでもなく、三国志のメイン舞台は中国大陸。日本とのスケール差を比較するには、各地を放浪した劉備と源義経(みなもとの よしつね)で例えると分かりやすいでしょう。

劉備の移動距離……約1,800km(概略。河北省涿州市~四川省成都市)
源義経の移動距離……約900km(概略。京都市~平泉市)

「あれ、たったの2倍?」と思われるかも知れませんが、これは出生地と死没地の直線距離であり、実際にはあっちこっちへ行っているため、この差がどんどん開いていきます。

中国大陸を縦横無尽に暴れ回った英雄たち(イメージ)。

広大な中国大陸を縦横無尽に逃g……もとい暴れ回る壮大なスケール感は、日本の軍記物語とまた違った楽しみと言えるでしょう。

また、現代でもそうですが、中国と日本では文化習俗や価値観が大きく異なり、その強烈なギャップを疑似体験できるのも、三国志はじめ中国文学を味わう刺激の一つ。

食べ物や習慣、果ては敵や罪人の殺し方など……「みんなちがって、みんないい(by金子みすゞ)」と広い心で受け容れると、世界が違って見えるかも知れませんね。

3.この武将を知っておけば間違いない!Best3

さて、最後に「三国志で誰が好き?」という野暮な質問に対して、どれか挙げておけば、男性の反応がよさそうな武将たちを、魏・蜀・呉からそれぞれピックアップ。プロフィールもざっくりと紹介するので、もし「どこが好き?」と訊かれた時のご参考にどうぞ。

曹操(そう そう。字は孟徳-もうとく)

クールな頭脳と決断力で新時代を切り拓いたヒーロー(というイメージに変わりつつある)。訊いた男性のほとんどは「まぁ、そうなるよね」と納得するでしょう。

彼は概してステータスの高い者を周りに揃えていたものの、みんな優秀なので却って没個性的に見えてしまい、趣味・嗜好としては「渋い」印象が否めません。

なので、下手に「夏侯惇(かこう とん。元譲)が好き」「張遼(ちょう りょう。文遠)が好き」などと言うと、深堀り(※)されやすいリスクがあるため、ここは無難に突出したカリスマ・曹操を挙げておくのがおすすめです

(※)曹操の家臣団は「いぶし銀」な武将が多く、好きな人は本当に心から愛してしまうくらいディープなファンとなりやすいため、心から興味を持っているならともかく、深入りは厳禁です。

趙雲(ちょう うん。字は子竜-しりゅう)

現代に伝わる趙雲の雄姿。Wikipediaより(撮影:Morio氏)。

「お前は全身が肝っ玉」……とにかく強くて勇敢、忠義に篤くてスマートな、完全無欠の仕事人です。

冒頭のセリフは曹操の大軍に追われてはぐれてしまった劉備の息子(赤ん坊)を懐に抱えながら一人で敵中を突破した時、劉備が口にしたもの。

容姿についてはあまり触れられていないものの、ここまでデキる人材がまさかイケメンでない筈がない!とばかり、創作においては、どれもハンサムに描かれています(例外があったらごめんなさい)。

後に蜀の武将TOP5「五虎大将軍」の第3位にランクイン(1位と2位は劉備の義弟である関羽&張飛)し、完全に実力主義で評価された点も好印象ですね。

自分がかくありたいのはもちろん、こんな上司の下で働き、こんな部下を活躍させたいと、多くの男性が思うことでしょう。

周瑜(しゅう ゆ。字は公瑾-こうきん)

夭折した悲運の天才・周瑜。Wikipediaより。

とりあえず「インテリなイケメンが好き」と聞いて納得しない人はいないでしょう。

美周郎(びしゅうろう。美は文字通り、郎は立派な男の意)」の二つ名で呼ばれた通りのハンサムと洗練された立居振舞い、かの諸葛亮と互角に渡り合った明晰な頭脳と、赤壁の戦いで百万とも言われた曹操の大軍を撃ち破った軍略

惜しむらくは最終的に諸葛亮に出し抜かれたこと、若くして亡くなったこと等が挙げられるものの、周瑜ほどの逸材であれば、そんな不運さえも「夭折した若き天才」という魅力要素に加えてしまいます。

ここまでハイスペックだと性格に難が疑われそうなものですが、非常に謙虚な態度を貫いた結果、最初は「あんな若造に指揮られてたまるか!」と意固地になっていた老将たちも、ついに感服せしめるほどでした。

以上3名の中から、読者諸賢のお好みに合った誰かを挙げておけば、後は相手が上機嫌で話を勝手に盛り上げてくれること請け合いです。上司や取引先などのご機嫌をとりたい時の一策として、覚えておくとどこかで役に立つかも知れません。

終わりに

さて、いかがだったでしょうか。

世の中、自分が好む好まざるは別にして、誰かが熱中しているものには何かしらの理由=魅力があって、共感こそしなくても、それがどういうものかを知っておくだけでも、一歩理解が進み、世界観が広がることが間々あります。

「自分の知らないものはつまらない、興味ない」と斬り捨てるのも、人生をシンプルに楽しむ一策ではあります。しかし時には好奇心を発揮して、新しい世界を垣間見るのも、なかなか刺激的な体験ですから、気が向いたら三国志にもチャレンジして頂けたら嬉しいです。

※参考文献:
陳寿『正史 三国志』ちくま文庫、1994年3月
井波律子『三国志演義』ちくま文庫、2003年8月
金文京『中国の歴史4 三国志の世界 後漢 三国時代』講談社学術文庫、2020年11月
徳田武『近世近代小説と中国白話文学』汲古書院、2010年10月

(文  角田晶生(つのだ あきお)

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