【混迷の石木ダム】インタビュー 石木川まもり隊・松本美智恵さん 市民生活困っていない

石木川まもり隊 松本美智恵代表

 -活動を始めた経緯は。
 2008年に埼玉県から佐世保市へ移り住んだ。当時から、「石木ダムは市民の願い」とアピールする市の姿勢に疑問を感じていた。市民とは一体誰なのかと。ダムの勉強会に参加し、建設予定地の住民が「なぜ佐世保の犠牲にならなければならないのか」と訴える姿にショックを受けた。水事情を調べるうちに、新しいダムが必要なほど市民は生活に困っていないと分かった。多くの人と情報を共有するため、09年にホームページを立ち上げ、市民団体の代表として活動を始めた。
 -佐世保市は水不足に備えるために石木ダムが必要だと主張している。
 人口減少に伴い、全国各地で水の需要は減る。これは国が認める厳然たる事実。佐世保市の昨年度の一日最大給水量は約7万4千トンで、20年前と比べて3割近く減っている。市民が飲み水にも困るような状況であればともかく、私たちは普段通りの生活ができている。市は事故や災害などの備えとしてダムが必要と言っているが、「もしも」のために、現地で暮らしたい人々の居住権や生活権を奪っていいはずがない。
 -石木ダムは市民生活の安心につながるのではないか。
 ダム本体の事業費は285億円だが、佐世保市は関連施設の更新を含めて(概算値で)総額445億5千万円を負担する。これには、国の補助金も含まれるが、巨額の事業であることに代わりはない。水道料金は施設整備や維持管理などの費用を基に決まるので、将来的な値上げは目に見えている。ダムに多くのお金を使うことで、老朽化した水道施設の更新などに手が回らなくなる心配もある。こうしたマイナスの側面は市民に知らされていない。
 -佐世保市は18年度決算時点で約127億円の事業費を使った。建設を中止すれば無駄にならないか。
 過去に投じた事業費は戻らない。それでも、これから確保しなければならない莫大(ばくだい)な予算を削減できる。本来はダムの予算を別の水源対策に当てるべきで、佐世保市は雨水や再生水の活用が、(先進的な)他都市と比べて遅れている。ダム以外の方法で水を確保しようとする姿勢が見えない。
 -知事や佐世保市長に何を求めるか。
 まずは工事を中断し、反対する住民が求める「ゼロベース」の話し合いに応じるべきだ。どうしてもダムが必要というならば、逃げずに対話をしてほしい。
 -行政代執行に対する懸念は。
 行政代執行は住民の生活を破壊する行為。絶対にやるべきではないが、民主国家の日本で決断できるはずがない。むしろ恐ろしいのは、県がこのままお金と時間を浪費し続けること。反対する住民が高齢化し、力尽きるのを待ち続けるかもしれない。住民に苦しみを与え続けてダムを造り、佐世保市民には重い財政負担を強いる。それが最悪のシナリオではないか。


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