【MLB】「レイズはベイスターズより細かい野球」 筒香嘉智が語る渡米1年目のリアル

レイズ・筒香嘉智【写真:Getty Images】

独占インタビューで明かす、メジャーで得た気付きと発見

レイズ筒香嘉智のメジャー初シーズンが終わった。チームはリーグ最高勝率でポストシーズンに進み、7年ぶりにワールドシリーズへ出場。世界一こそ逃したが、ドジャースと第6戦までもつれる熱戦を展開した。

メジャー移籍1年目で貴重な経験を積んだ筒香だが、打率はプロ1年目の2010年以来となる1割台を記録。個人的に満足のいくシーズンではなかったことは容易に想像できる。「結果から逃げるつもりはない」という28歳は同時に、今シーズンを「僕にとって大事な1年になるのかなと思います」と振り返る。

NPBからメジャーへ羽ばたいた大砲は、異国の地で何を感じ、何を得たのか。「Full-Count」の独占インタビューに応じた筒香がメジャー1年目を振り返り、飾らぬ率直な想いを語ってくれた。後編では、アメリカで得た新たな視点について語る。

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2010年から10シーズン、DeNAでプロ経験を積んだ筒香には、プロ野球選手として10年分の引き出しが備わっている。高校時代から「いつかはあの舞台に」と目指したメジャーに移籍した今季、その引き出しはさらに増えた。

「今年は初めての場所でプレーしたので、もちろん引き出しは増えるんですけど、日本で通用していたことがアメリカでは通用しないこともありました。だから、引き出しは増えたとは思うんですけど、量よりも種類が変わったという感じ。日本とアメリカは全く違うなって感じていますね」

これまでドミニカ共和国のウインターリーグに参加したり、侍ジャパンの一員として国際経験を積んできた。メジャーも球場で生観戦したことはあるが、多くはテレビ中継を通じて得たイメージ。「実際にプレーして違うと感じる部分もありましたし、この感覚は通用しないな、もうちょっと変えないといけないな、と感じる部分もありました」と話す。

実際にメジャーの世界に身を置いた今季。何よりも強く感じたのは「日本の野球は細かく、メジャーはパワーが全て」という俗説が、現実とは大きくかけ離れているということだった。特に、筒香が所属するレイズは守備シフトやオープナーなど、新たな挑戦を厭わないチーム。データ化された野球、そして個々の選手が準備に割く時間には驚かされたという。

「僕はレイズの方がベイスターズより細かい野球をしているように感じましたね。よく『メジャーは雑で力任せ』みたいな表現をされますけど、僕は練習も日本よりすごく丁寧にするなっていう印象があります。もちろん、日本が優れている部分もたくさんありますけど、メジャーが雑っていうイメージはないですね。

行く前から守備シフトみたいなことはあると思っていましたけど、それだけじゃない。データの活用方法だったりは、日本より進んでいる部分を感じました。ただ、データを重視した野球と、自分で考えてやる野球の面白さは、また別物かなと。データを重視しすぎるとコンピュータの指示で試合が動いているというか、生身の人間だからできる判断の面白さみたいなものは減っていきそうな気はします」

メジャー選手は練習の虫、キャンプ中は「5時過ぎにはみんな球団施設に来ている」

また、日本では「メジャーは練習時間が少ない」というイメージが強いが、それもまた「勝手なイメージですよね」と話す。

「シーズン中はみんな、球場に入る前に1人で準備をしてきたり、球場に早く入って準備をしています。スプリングトレーニングの時なんて、大体5時過ぎにはみんな球団施設に来て、6時には動き始めています。全体練習の時間が短いから、そこだけクローズアップされて『メジャーは練習をしない』『練習が終わるのが早い』って思われてますけど、トータルで動いている時間は日本と変わらないですよ」

シーズンを戦う中で感じたのは、メジャー選手の切り替えの早さだ。試合に負けても、エラーをしても、ノーヒットに終わっても、家路に就く頃にはみんな、次の試合に向けて思考が切り替わっている。「ビックリするくらい早いですね。日本とちょっと違うのは、育った環境もあるとは思うんですけど……」と、筒香は自分なりの考察を続けた。

「僕が思ったのは、メジャーの選手は1つのプレー、1つの練習に本気で取り組んでいるから、早く切り替えられるんじゃないかと。もうこれ以上はできないっていうくらい全力でやるから、失敗しても仕方がない。やれることはやってダメだったら、また次、頑張ろうって切り替えられるんだと思うんですよね。そこには甘えは一切ないから、他の感情は沸かないんだと思います」

選手が全力で野球に打ち込める環境もまた、整っていた。今季のレイズは、地元・米国に加え、ドミニカ共和国、ベネズエラ、キューバ、コロンビア、韓国、日本から選手が集まる多国籍軍だった。レイズの一員となるまでのバックボーンが違う選手が、それぞれの個性を生かしながらチームとして絆を強くした背景には、今季の最優秀監督賞を受賞したケビン・キャッシュ監督の存在がある。

「野球をやっていて、本当に楽しかったですね。表現は難しいんですけど『外国の人ってこんなにいい人が多いんだ』って思いました。どちらかというか、自分のことに気を配ってるイメージがあったんですけど、人に気を遣える人が多いし、チームの勝利のために全力を出せる。ちょっと輪を乱す空気を出しているなっていう人が、お世辞抜きで選手、スタッフ、チーム関係者、誰一人いませんでした。

もちろん、チームが勝っていたから雰囲気が良かったのもありますけど、キャッシュ監督はすごく雰囲気を作るのがうまいと思いましたね。言うことは言うし、締めるところはパッと締める。空気感を察知する能力にすごく優れているんです。選手もみんな大人で、言葉が通じない中でも、すごく楽に野球だけに集中できる環境がありました」

現役時代はキャッチャーとして6球団を渡り歩いたキャッシュ監督は、主に控えではあったがピッチャーからの信頼は厚かった。選手が持つ才能を最大限に引き出すために今、何が必要なのか。その判断能力に長けた人物なのだろう。

筒香は期待された成績を残すことはできなかったが、来季以降に繋がる手応えを感じるシーズンを送ることができた。新型コロナウイルスの影響で超イレギュラー開催となったシーズンを終え、「来シーズンに向けてのオフが楽しみ」と言える今があるのは、キャッシュ監督をはじめチーム関係者、チームメート、サポートしてくれるスタッフ、そして家族のおかげでもある。「いろんな方に感謝しないといけないですね」。自然と素直な気持ちが言葉となって現れる。

ワールドシリーズで感じたファンの声援が持つ力「体の中から感じるものが違いました」

異例続きのメジャー1年目となったが、ワールドシリーズを終えた今、改めて感じているのが「ファンの声援が持つ力」だ。ア・リーグではレギュラーシーズンからリーグ優勝決定シリーズまで全試合が無観客で行われた。ワールドシリーズでは感染対策を考慮しながら1万人を超える観客を動員。久しぶりの声援に「いいな」と感じたという。

「もちろん、ワールドシリーズっていう特別な舞台だったこともあると思いますが、やっぱりファンの方がいて、生の声援があると、野球選手として体の中から感じるものが違いましたね。無観客の時はあまりそこに意識がいくことはなかったんですけど、ワールドシリーズではそう感じました。やっぱり声援やエールが力になるんだなって」

渡航制限がかかり、日本のファンはテレビを通じてしか応援することはできなかったが、その声はしっかり筒香の元に届いている。ただ、近しい人たちからは、こんな声も届いた。

「ここ数年では、こんなに打率が低いシーズン(.197)はなかったので、みんな気を遣って連絡できなかったみたいです(苦笑)。シーズンが終わってから、たくさん連絡が来ました」

野球を筆頭に、ありとあらゆる場面で新たな気付きや発見を得られた2020年。「今年起きたことを全部話したら何時間かかるんだろうって思うくらい、いろいろなことが起きましたけど、間違いなく僕の価値観は変わったと思います」と続ける。

「周りは結果で判断しますから、ダメだったと言われるかもしれないけれど、僕の中では野球でも生活でも本当にいろいろ新しいものを感じ取れた1年でした。言い訳みたいに聞こえるのは嫌なので、本当は来年が終わるまであまり話したくないんですけど。来年に向けて、すぐにでも動き出したいくらいです」

ワールドシリーズ終了から程なくして帰国の途についた筒香だが、1つだけ心残りがあるという。

「シーズンが終わってから記者の方々に御礼を言うタイミングがなかったので、それがちょっと申し訳ない気がしているんです」

筒香の中で変わった価値観もあるが、変わらなかった価値観もまた、あるようだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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