社説:デジタル通貨 課題を具体的に洗い出せ

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 私たちに身近なお金が、デジタルに置き換えられる時代が来るのだろうか。そんな実験が日本でも始まろうとしている。

 通貨を発行している日銀が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実現可能性を検証する実証実験を、2021年度の早い時期に行うと発表した。

 CBDCは電子データの形で発行される法定通貨で、スマートフォンなどの端末から紙幣などの現金と同じように支払いができるとされる。民間企業が発行する電子マネーと違って、あらゆる店舗で使える。

 過疎地で銀行の店舗が縮小されても、年金などをデジタル通貨で受け取り、買い物などで使えるようになれば不便さも解消できる-とも考えられる。

 急速に進む社会のデジタル化に対応する動きといえる。

 だが、紙幣や硬貨のデジタル化は通貨の存在意義を大きく変える。導入の是非については、国民的な議論が欠かせない。

 実証実験は、お金の動きなど基本的機能を確認し、保有できる金額に上限を設けるかどうかや利子を付けるかなどを検討。その上で、企業や消費者が参加する形を想定するという。

 日銀はCBDCを現金と並ぶ決済手段に位置づける可能性も示す。ただ、現時点でデジタル通貨を実際に発行する計画はないとし、現金の供給は「責任を持って続ける」としている。

 早期のCBDC導入には慎重な構えに見える。だが、海外では発行に向けた動きが活発化しており、導入論が加速することもありうる。実証実験でさまざまな課題を洗い出しておかなければならない。

 デジタル通貨研究で先行する中国は、中国人民銀行が「デジタル人民元」の試験運用を始めている。影響下にある東南アジアやアフリカで存在感が高まれば、基軸通貨であるドルに取って代わると警戒されている。

 昨年夏には米フェイスブックの暗号資産(仮想通貨)「リブラ」構想も浮上した。民間のデジタル通貨が普及していけば、中央銀行の通貨管理に影響するのは必至だ。国家の通貨主権を脅かすことにもなりかねない。

 欧州中央銀行(ECB)は、来年半ばまでに発行するかどうかを判断するとの考えを表明した。米連邦準備制度理事会(FRB)も検討を進めるという。

 日銀も各国の中央銀と連携を深めておく必要がある。

 デジタル通貨については、気がかりな点も少なくない。まずは安全性だ。システムが故障したりサイバー攻撃を受けたりすれば、決済不能になるばかりか財産も失いかねない。

 買い物や送金の履歴を記録できるため、プライバシーをどう保護するかも課題となる。

 既存の金融機関も影響を免れない。取引がデジタルの世界に移れば、資金が集まりにくくなる。預金や融資の減少など役割が低下することにもなり、金融インフラの在り方が問い直されることになろう。

 デジタル通貨の導入は、社会の仕組みを大きく変える可能性を持つ。十分な検討が必要だ。