『記憶の技法』記憶を取り戻したい女子高生が、記憶を消し去りたい同級生と旅をする

(C)吉野朔実・小学館 / 2020「記憶の技法」製作委員会

 黒沢清の教え子たちの中でも池田千尋は、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(公開中)の瀬田なつきが天才肌なのに対し、秀才タイプの女性監督という印象が強い。例えばテクニカルな編集。倒れる、振り返るといった映画的な身振り。バスやフェリー、図書館などの工夫された撮り方からは、黒沢清の教えというか“東京藝大”の匂いが感じられる。

 心理学的な作風で今も根強いファンを持つ吉野朔実の同名中編漫画が原作だ。大好きな両親が実の親ではないことを知った東京の女子高生が、幼少時の失われた記憶を取り戻すべく出生地の福岡へ向かう。道連れとなるのは、大人びたプレイボーイの同級生。彼には、逆に消し去りたい記憶があった…。つまり本作は、青春映画であり、ロードムービーであり、探偵コンビがサスペンスフルに事件の謎に迫っていくバディ映画の要素まである。その上、テーマは“記憶”で、映像とは親和性が高い。そんな理詰めの映画作りにも、秀才タイプが透けて見える。

 それだけに、あぁ、この風をもっと見ていたかった。ここは編集しないでワンカットでいいのに…と、時には技巧が邪魔をして情感を削いでしまう場合もあるものの、こちらの予想を計算ずくで裏切ってゆく手際は見事。その最たる例が、これしかない絶妙のラストだろう。池田千尋の代表作になりそう。★★★★☆(外山真也)

監督:池田千尋

出演:石井杏奈、栗原吾郎、柄本時生、戸田菜穂

11月27日(金)から全国順次公開

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