消費者庁が「地球の歩き方」を〝完コピ〟 シェアリングエコノミーの楽しさ紹介

 「初めてシェアリングエコノミーを利用する際の不安は、初めて海外旅行をするドキドキ感と似ている」―。そう気付いた消費者庁の職員らは、注意点を分かりやすく伝えようと、消費者を旅人になぞらえ、パンフレットを作成した。題して「共創社会の歩き方 シェアリングエコノミー」。 旅人の心強い味方「地球の歩き方」の〝完コピ〟である。(共同通信=国枝奈々)

「共創社会の歩き方 シェアリングエコノミー」の表紙

 ▽宗教勧誘や不在も…

 シェアリングエコノミー、略して「シェアエコ」。

 新型コロナウイルスによる「巣ごもり需要」の影響で、身近になった宅食サービスのウーバーイーツやフリマアプリのメルカリ。それらは皆、個人や企業が持つ物や人手、スキルなどを他人に活用してもらう「シェアエコ」という仕組みでできている。注文の手軽さやサービス料が割安な反面、トラブルも多い。

 消費者庁のパンフ制作班がこだわった点は、全国の消費生活センターに寄せられるトラブルや相談情報だけでなく、利用者から聞いた生の声を載せること。ヒントになったのは、海外旅行好きな職員の体験談だった。

 消費者庁消費者政策課前課長補佐の片山貴順さんは、新型コロナウイルスの流行前は毎年、長期休暇にベラルーシやエリトリアなど世界各地を旅する大の旅行好きだ。シェアエコという言葉が日本で浸透する数年前から、旅先の現地住人と現地で会話や食事を楽しむアプリや、現地の民泊や宿泊施設を予約できるサイトを利用していた。

 2018年夏、ウクライナへ一人旅をしようとした片山さんは、現地住人と事前に連絡を取り合えるコミュニケーションアプリを使った。レビューが少ないことをやや不安に感じたが、渡航前に現地の住民と観光や食事をする約束を取り付けた。現地では一日観光地を楽しく案内してもらい、夕食を食べた。不安は取り越し苦労かと思っていたところ、別れ際に宗教の勧誘をされた。

 ベラルーシを旅した際は、宿泊施設予約サイトで民泊を予約した。いざ約束の時間に現地の宿泊施設を訪れると、オーナーが普段は住んでいない施設だったため、扉は鍵が掛かったまま。サイトの運営会社を通じて連絡が取れたものの、結局長時間待たされる羽目になった。

「共創社会の歩き方 シェアリングエコノミー」の制作に携わった消費者庁消費者政策課前課長補佐の片山貴順さん

 ▽上がる満足度

 一方で、オーナーの優しさに救われた一面もある。チェックアウト時間を過ぎても腹痛で苦しんでいる片山さんを見かねたオーナーは、時間を過ぎても快く滞在させてくれた。日本に留学経験のある現地の人と知り合い、英語や日本語で現地の文化や生活を教えてもらったことも良い経験だったという。

 「シェアエコを利用した方が旅の満足度が上がる。一方で、業者ではない個人どうしのサービスやスキルのやりとりは、行き違いやトラブルがあって当然。業者が提供するサービスでは得られない貴重な経験や交友関係を得られる楽しさを伝えたい」と片山さんは話す。

 シェアエコは、ネットを通じた個人同士のやりとり。だからこそ、楽しさだけでなくトラブルへの心構えを伝えるため、「地球の歩き方風」にこだわったという。

 ▽楽しさときどき注意

 「共創社会の歩き方」では「空間、モノ、スキル、移動、お金」のそれぞれの分野のシェアエコの取り組みを紹介している。「提供者に街を案内してもらい、一緒に郷土料理を食べて、普通の旅行とは違った思い出ができた」「高級な商品を使い比べることができた」「捨てるにはもったいない不要品を他人に譲ることができた」といった利用者の声はもちろん、全国の消費生活センターに寄せられたトラブルの実例も余すことなく掲載した。

シェアリングエコノミーについて紹介するページ

 「フリマアプリで購入した商品が偽物だったが、アプリ運営企業からは『当事者間で話し合うように』と言われた」「イラスト作成を依頼したのに、期日までに納品がない」「予約した宿泊施設がホームページの写真と違った」。制作班はそうしたトラブル事例を踏まえ、①運営企業が相談窓口や免許証などの本人確認機能をきちんと設置しているサービスを利用する②フリマアプリで「手数料回避のため」と直接取引に誘われても応じない③家事代行やイラスト作成といった「スキルシェア」の場合は仕事のキャンセル率も事前に確認する―などの注意点を列挙している。

シェアリングエコノミーについて紹介するページ

 ▽次は女性誌風に

 シェアエコを採用するサービスやトラブルは日々刻々と変化している。

 高級車限定の個人間のカーシェアマッチングサイト「SKY CAR SHARE」は高級車の購入者とカーシェアの利用者を仲介するサービスだが11月、経営が行き詰まり、東京地裁に破産を申請した。

 運営業者の代理人弁護士などによると、業者は購入者から高級車を預かり、カーシェア事業で得た収入を購入者に還元するサービスを展開。2019年12月時点には約400台、約3900人の利用者登録がされていた。だが現在、高級車の多くは屋外に放置され、購入者も利用者も業者に連絡がつかない状態が続いているという。

 消費者庁の担当者は「シェアエコを名乗っていても、実態は詐欺的なビジネスもあるので注意を」と呼び掛けている。

 同庁は来年3月までに、パンフレットの改訂版を作成する予定だ。新たに加えるべき注意点とともに、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で今年1年の間に需要が伸びた、フリマアプリやシェアサイクルなどの分野を強化する。「女性も安全に利用できるよう、より注意点を分かりやすく伝えたい」との願いを込め、次は女性誌を完コピしたパンフレットを考案中という。

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