安全地帯「ワインレッドの心」玉置浩二は9th(ナインス)の魔術師 1983年 11月25日 安全地帯のシングル「ワインレッドの心」がリリースされた日

80年代って、9th(ナインス)コードの時代?

突然ですが、「80年代って、9th(ナインス)の時代だったよなぁ」と、深く感じ入るわけです。

ここでいう “9th” とは、コードに対するメロディの音の位置の話をしています。ごくごく簡単に言えば、バックの演奏が「ド・ミ・ソ」のメジャーコードで演奏しているとき、「レ」の音で歌うことです。またはマイナーコード=「ラ・ド・ミ」のときに「シ」の音で歌うこと。

「バックの音と歌の音が合ってないということは、音痴みたいな、変な響きになるんじゃないの?」という疑問を持たれる方がいるかもしれません。まさにその通り、変な響きになるのです。

昔の日本人、そうですね、たとえば戦後すぐの日本人にとっては、9thなんて、変な響きすぎて、気持ち悪くってたまらなかったかもしれません。

そんな時代を形作った作曲家、安全地帯の玉置浩二

しかし、60年代にイギリスから登場したあの4人組の音楽が、世界を席巻した。そして、彼らによる奇妙なコード進行や転調、そして9th含む、バックの音と対決するような、過激なメロディづくりが、全世界に撒き散らされた(その象徴が、その4人組の「ドライブ・マイ・カー」の歌い出し)。

そして日本でも、彼ら4人組の影響を強く受けた、筒美京平や都倉俊一などの職業作曲家、また荒井由実や桑田佳祐のようなシンガーソングライターが、ヒット曲を連発したことで、“変な響き” が徐々に “いい響き” に転換した―― という舞台設定が整ったところに、80年代がやってきたわけです。

そうして、80年代が “9thの時代” になっていく。今回は、そんな時代を形作った作曲家の1人として、安全地帯の玉置浩二を挙げたいと思います。私にとって彼は “9thの魔術師” とでも呼ぶべき存在に映ります。

その “9thの魔術師” としての代表作と言えば、1984年発売の大ヒット=安全地帯「ワインレッドの心」。あのサビ=「♪ 今以上、そ《れ以》上、愛されるのに」の《 》内が9thになっています(この曲はマイナーキーなので「ラ・ド・ミ」のときの「シ」の音)。

図解「ワインレッドの心」大ヒットの要因はサビのメロディ!

図で描くとこうなります。《れ以》のところで、音程もぐぐっと上がって、浮遊感ある「シ」の音が、強烈に印象づけられる結果になっています。

図1:安全地帯『ワインレッドの心』(コードは「ラ・ド・ミ」)

余談になりますが、拙著『1984年の歌謡曲』で、この「ワインレッドの心」のこのサビを以下のように激賞しました。これでも誇張しているつもりはありません。

―― とにもかくにも、大ヒットの主要因は、サビのメロディである。「♪ 今以上 そ《れ以》上」「♪ あの消えそうに燃《えそ》うな」の、《 》でくくったところの強い引っかかりはどうだ。一度聴いたら、二度と忘れることが出来ない必殺フレーズである。(中略)玉置浩二のボーカルは、低音部分が湿ったタオル、高音部分が乾いたゴムのような質感を持っている。「♪ 今以上 そ(ここまでタオル)→(ここからゴム)《れ以》上」という、声質の転換が、このフレーズの引っかかり度をより高めている。

図解「悲しみにさよなら」不思議な浮遊感が強烈なインパクト!

あと、こちらも大ヒット曲=1985年の安全地帯「悲しみにさよなら」の歌い出し(サビ)も忘れられません。「♪《泣かない》で《ひと》りで」の《 》内が9th。こちらはメジャーキー「ド・ミ・ソ」の上に「♪《レレレレ》ド《レレ》ミミ」となります。

図2:安全地帯『悲しみにさよなら』(コードは「ド・ミ・ソ」)

9thは、冒頭にも書きましたが、もともとは “変な響き” なので、使いすぎると逆効果になります。ただし、“ここ1番” で使うと、その不思議な浮遊感が強烈なインパクトとなって、大ヒットに貢献するのです。そして、80年代中盤に、9thの響きを、最高に上手く使ったのが、“9thの魔術師” 玉置浩二だということです。

では『見事なまでの浮遊感、1979年+80年代の9th(ナインス)名曲ベスト3』で、安全地帯以外も含めた9thベスト3を決定したいと思いますのでお楽しみに。

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※2017年9月18日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: スージー鈴木

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