【日本S】“セオリー通りの配球”で痛恨被弾した巨人バッテリー 元捕手が読む中村晃の心理

ソフトバンクの中村晃【写真:藤浦一都】

初回の窮地にも「『今投げるこの1球が大事な球』と思って投げている」

■ソフトバンク 4-0 巨人(日本シリーズ・24日・PayPayドーム)

24日にPayPayドームで行われた「SMBC日本シリーズ2020」第3戦は、ソフトバンクが4-0で巨人を下し、3連勝で4年連続日本一に王手をかけた。巨人バッテリーはソフトバンク中村晃に先制2ランと適時打を許し、3打点を献上。いぶし銀の左の好打者を抑えられなかったことが敗因につながった。現役時代、ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で計21年間プレーし、2018年まで2年間ヤクルトでバッテリーコーチを務めた野球評論家の野口寿浩氏は、この勝負について「配球やコースを予想していた中村晃の読み勝ち」と分析した。

初戦の栗原、第2戦のデスパイネの次は、中村晃だった。巨人は3回に先発サンチェスが2死二塁から中村晃に先制となる右越え2ランを献上。さらに7回には1死一、二塁のピンチで左のリリーフ高梨が右前適時打を許し、追加点を奪われた。いずれも、甘く入ったボールを中村晃が1発で仕留めた形だが、野口氏は配球のミスではなく、中村晃の読みが勝った勝負だったと明かした。

3回の本塁打はカウント2-2からの5球目。サンチェスは直球、カットボールで追い込んだ後、内角低めにスプリットを2球続けた。だが、中村晃はボール球には手を出さず、3球続いた5球目のスプリットがストライクゾーンに甘く入ったところをとらえ、右翼席まで運んだ。この勝負を、捕手出身の野口氏はこう解説する。

「サンチェスはスプリットとカットボールが安定していた。左の中村晃を追い込んだ後は、この2つの球種が選択肢となる。当然、打者の頭の中にもこの2つの球種がある。そして、甘くならないようにコースに投げきれるかどうか、というところで甘く入ってしまったのを打たれた。ただ、あの場面はこういう攻め方をするしかない。2死二塁で走者は俊足の周東。ヒットを打たれれば生還されるから、三振を奪いにいくしかない」

巨人バッテリーとしては追い込んだ後、2球投げたスプリットで三振を奪いたかったところだが、奪えなかった。野口氏は「もし、サンチェスの直球が安定していれば、スプリットを2球続けた後、高めのつり球の直球を投げるという選択肢もあったかもしれないが、この日の直球は制球が安定していなかった。直球が安定していないと配球はこうなる」と、セオリー通りの配球だったことを明かした。

7回の適時打は直前の打者・周東に死球を与えたことも影響か

7回の勝負も中村晃に軍配が上がった。左のリリーフ高梨が周東を死球で歩かせ、1死一、二塁となった場面。高梨は左打者の中村晃に対し、4球続けて外角に直球を投げ、カウントを2-2とした。そして5球目、外角に投げたスライダーがやや甘く入ったところを右前に運ばれ、3点目を失った。この打席で野口氏が注目したのは、2ボール1ストライクからの4球目の球を中村晃が遅れてスイングしたことだった。「高梨の4球目の直球に対し、中村晃は変なタイミングで打ちにいって、ストライクだったのでそのまま止めずに流して振った。あのスイングは変化球待ちのスイングだった。あのタイプの投手に対して、追い込まれてから配球を100%絞ってタイミングを合わせることはできない。だが、変化球もマークしながら直球寄りのタイミングで待っていれば、変化球が甘く入ってくれば対応できる」

そして鍵になったのは、高梨が前の打者、同じ左の周東にツーシームで死球を当てていたことだという。

「高梨は周東に死球を当てているので、捕手の大城が内角を要求しても(立て続けの死球を恐れて)甘く入る可能性がある。チームとしても、2人続けて死球で走者を出したらピンチになるから、左に対して内角に投げさせようとはならない。となると、来るのは外角の直球かスライダー。そういう配球を中村晃も読んでいて、内角には来ないと予想していたはずです」

サンチェスの投球にもヒント「積極的に振ってくるのを利用して…」

野口氏は「中村晃は技術も高いし、思考能力もある。タイミングの取り方もうまい。バッテリーからすると、何を投げても打たれるのではないかと思ってしまうほどいい打者。甘く入ってきたところを打った」と、この日の勝負で中村晃に軍配が上がった理由を説明した。

これで、もう1つも負けられなくなった巨人。では今後、ソフトバンク打線を抑えるためにはどうしたらいいのだろうか――。野口氏は、先頭打者を出さないという基本に立ち返ることが必要だと説く。

この日、ソフトバンクは先頭打者が出塁したのは6、7回だけ。野口氏は「この試合が好ゲームになったのは、5回まで巨人バッテリーがソフトバンクの先頭打者を打ち取っていたから」だといい「巨人はイニングの先頭打者を出さない、打者を連続して出塁させない、ということを徹底していくしかない」と指摘した。

そして、この日の試合を壊さなかった先発サンチェスの投球にもヒントが隠されているという。

「サンチェスは、ソフトバンク打線が初球から積極的に振ってくるのを利用して、カットボールやスプリットを効果的に使っていた。あとは、バッテリーがこの日の情報をアップデートして、どういう攻め方が有効なのか、考えていくことが大事。それで自分たちのピッチングをして打たれたら、それが実力差だと認めるしかない」

25日に迎える第4戦の巨人先発は4年目右腕の畠。巨人バッテリーは強力なソフトバンク打線を次こそ抑えることはできるのだろうか。(Full-Count編集部)

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