【第4戦オートポリスレビュー】2020年シーズンの分岐点になるかもしれない一戦。差を縮めた野尻、山本と戦々恐々の平川

 全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス、ホンダ勢が表彰台を独占し、それまでシリーズランキング上位に並んでいたトヨタ勢を脅かす展開となった。

 これから残り3戦、そのうち今回のオートポリスと同じくホンダ勢が得意な鈴鹿が2戦続くことからも、チャンピオン争いはさらに混沌の状況となってきたが、まずは今季のターニングポイントとなりそうなオートポリス戦を、各ドライバーのレース後のコメントとともに振り返ってみよう。

 決勝レース15周目、ステイアウトを選んでトップを走る山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)とピットインを終えた4番手の野尻智紀(TEAM MUGEN)はお互いに“見えない敵”との戦いに突入していった。

 左リヤタイヤがパンクした坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)のマシン回収のため、13周目に2度目のセーフティカーが導入された際、コース上の多くがピットインを選択したが、山本、ニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)、笹原右京(TEAM MUGEN)の3名はピットインせず、ステイアウトを選択した。

 一方、ポールポジションからスタートした野尻は2度目のセーフティカーが導入される直前、抜群のタイミングでピット作業を済まし、1周前にピットへ入り追い上げてきた牧野任祐(TCS NAKAJIMA RACING)の猛追を抑えきって、事実上のトップ。ポジション的には圧倒的に野尻有利の構図だったが、リスタート後はやや様相が異なった。トップからリスタートした山本は1周1秒以上速く周回を重ね、野尻とのギャップを広げていく。

 山本はこのリスタート直前、セーフティカーラン中にエンジニアに「このまま走ってギャップを稼いでくる。(野尻の)前に出るには何秒必要?」と、無線で聞いていたことをレース後の会見で明かした。

 ここ2年、一度も失敗したことがなく、自分が失敗するなど思いもしなかったスタートでまさかの失敗を喫した山本。そのため、レース序盤は集団のなかで走ることになってしまったが、前がクリアになれば「絶対に速く走れる」という自信があった山本は、逆転優勝を目指して、コース上で野尻とのギャップを稼ぐ選択をした。

 ピットストップにかかる時間はおそよ7秒前後、オートポリスのピットロード速度時間をプラスすると、約28秒のギャップが必要になる。残りの周回数は27周──。ピット作業義務も残っているため、1周1秒以上の差をつけないと逆転はできない。

 これだけ聞くと、あまり現実的ではないように思える。しかし、山本にはそれができる自信があった。土曜日に行われたフリー走行でトラブルに見舞われ、予選に向けての確認をすることはできなかったが、決勝に向けてはロングランを試すことができ、手応えのあるセッティングの方向性も見つけられていた。山本を担当する杉崎公俊エンジニアも「決勝には自信があった」と振り返る。

「(土曜日に)予選に向けた確認ができなかった。そこに関しては山本選手がうまくまとめてくれたのですが、少し足りないところがありましたね。ただ、ロングランはできていたので決勝に向けてペースがどれぐらいかというのはつかめていましたし、自信がありました」

2020年スーパーフォーミュラ第4戦オートポリス ポール・トゥ・ウインを成し遂げた野尻智紀(TEAM MUGEN)

 一方、事実上のトップである野尻サイドの状況は芳しくなかった。セーフティカー明けのペースが上がらず、山本が1分28秒台後半で走れているのに対して、野尻は1分29秒台後半〜1分30秒台。この時の状況を担当の一瀬俊浩エンジニアは悔やむ。

「単独で走っているときはよかったのですが、前に3台いたときのペースが良くなかった。じつは決勝に向けて、路温が高かったのでリヤタイヤをケアできるようにいろいろと細かい部分でセットアップをいじりました。それをウォームアップで確認したのですが、少し失敗してしまって……。結局グリッドでバタバタと変えてレースに挑んだのですが、それでも実際のペースを見ると良くなかったですね」

 このままではピットストップ分のロスタイムを山本に稼がれてしまう。しかし、12周目にタイヤを変えた野尻はここで無理をすることはできないため、我慢のレースとなった。結果として燃料が軽くなるにつれ、徐々にペースを上げられた野尻は山本が手にしたかった28秒を渡さずに済み、最終的に0.664秒差で勝利を掴んだ。だが、一瀬エンジニアは「素直には喜べない」という。

「正直、手放しで喜べる優勝ではなかったのでチェッカーを受けた瞬間の無線では「よかったね」という声をかけることができませんでした。ペースが上がらない中盤、野尻はうまくタイヤを壊さないようにケアしながらコントロールしてくれた。そのおかげもあって最後のほうは普通に走れてよかったとは思います」

「でも、そのセーブしていた分を加味しても、まだ(山本選手とは)コンマ5秒以上差があったかなという感じがある。レースには勝ったけど、パフォーマンスでは負けたなという感じで、少し複雑ですね」

 野尻陣営にしてみれば、優勝はできたものの、課題が残るレースになってしまった。とはいえ、ポイントランキングでは3位に浮上。2位の山本も勝てない悔しさからか、マシンを降りた後はがっくりと肩を落とす様子も見られたが、こちらもランキング4位とポジションを上げる結果となっている。

2020年スーパーフォーミュラ第4戦オートポリス レース後、パルクフェルメで肩を落としていた山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)

■ランキングトップの平川に立ち込める暗雲

 次戦は1大会2レースが行われる鈴鹿戦となり、最大で46ポイントもの大量加点が可能だ。今回、オートポリス戦のハイライトを演じた野尻も山本も得意としているサーキットである。特に野尻に関しては、2019年の最終戦でも勝利を挙げており、チームも鈴鹿とは相性がよく、好結果が期待できる。

「今回勝てたことでチーム全員のモチベーションも上げられたし、いい流れを作れたと思います。一方でまだレースペースを改善しなければいけないことが明白になったレースだったと思うので、優勝はすごくうれしいですが、しっかりと改善すべきところはしていかないといけないですね」

 山本も野尻と同じく「鈴鹿は得意」と公言しているが、こちらはやや不安もあるようだ。

「いつも鈴鹿は最終戦ですけどいつもよりは少しだけ時期が遅い。タイヤのウォームアップも含めてルールも一部改正される方向なので、その辺をいち早くものにしたチームが勝つと思う。その辺は抜かりなくやって行きたいですね」

「ただ、チームとしてはSUGOやオートポリスに比べると鈴鹿はやや苦手な部分もあります。個人的には得意でもそこが2戦あるのは少し悩ましい部分もある。去年よりもクルマをちゃんと煮詰めた状態で持っていかないといけないと思っています」

 残り3戦のタイトル争いを考えれば、ふたりにとって今回のオートポリス戦はとても大きい一戦だったことは間違いない。序盤3戦の戦績と今シーズン採用されている有効ポイント制を考慮すると、鈴鹿の2戦と富士はポイントを積み重ねないと、タイトル争いから脱落してしまう。

 一方、その状況でも数字上、優位に立っているのがランキングトップの平川だ。

 第4戦では予選でクラッシュ、スタートでポジションをあげるも、ピット作業でミスがあり、結果ノーポイントに終わってしまった。序盤3戦でかなりポイントを積み上げていたため、いまだ2位のキャシディまで11ポイントの大きなリードでランキングトップは守っている。しかし、今回はその結果以上に予選での自滅、そして今後を考えると内容的にもかなりの痛手になる。レース前日、平川はまさにその重要さを話した。

「鈴鹿はホンダ勢が強い印象がありますよね。しかも連戦となると、誰かが流れを掴んだら、両方とも勝たれてしまう可能性もある。それはちょっとやばいかなと。怖いですね。だからこそオートポリスはしっかり戦ってとっておかないといけない」

 平川が鈴鹿の2連戦を「怖い」と警戒するのにはもうひとつ理由がある。TEAM IMPULでスーパーフォーミュラに参戦し始めてから、今年で3年目になるが、過去2年の戦績を見てみると、4レース中3レースでリタイア。残る1レースも8位といずれも好成績には恵まれていない。

 もちろん、これまでのレースと次の2レースでは時期も異なるうえに、タイヤに関するレギュレーションも変更になるため状況は異なるが、第4戦で勝利した野尻や、2位の山本に比べると鈴鹿との相性という面で不安も残る。

 そんな鈴鹿が残り3戦中2戦を占めている。有効ポイント制のことを考えると、今回のオートポリス戦は除くとして、少なくとも2レースは好結果を残さないといけない。つまり、最低でも鈴鹿の1レースは落とせないのだ。

 そのため、第4戦が鍵になることを痛いほど理解していた平川。だからこそ、今回の結果は受け入れがたいはずだ。「なんとしても」と意気込んでいいたレースで結果が残せなかったことが後々どれほどの影響を及ぼすのか。また「寒くなるとホンダのエンジンが速い」とも話しており、残り3戦への警戒心が募る。果たして平川は鈴鹿と対ホンダをどのように攻略するのか。そして、野尻、山本らは平川を追い詰めることができるのか。

2020年スーパーフォーミュラ第4戦オートポリス 予選、決勝とも流れを掴みきれなかった平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)

© 株式会社三栄