東京23区、家賃が高いのはどっち?コロナ禍で陰るパリ不動産事情

フランスはロックダウンまっただ中ですが、じつはパリで部屋探しをしています。以前から予定していた引っ越しが、偶然にもこの時期に被ってしまったことが原因です。この状況下での賃貸情報の吟味は、普段と比べてとても不自由です。

理由の一つは、自由に外出できないこと。二つ目は、物件の見学自体が禁止されていること。そのため、間取り図や写真といった情報で決めるしかありません。今までの経験から土地勘はなんとかなるものの、建物の中まで把握しているわけではなく、どうしても物件の細かなところをチェックできません。

こんな状況ですが、期待もあります。コロナ禍でフランス国内外の人の移動が少ないため、もしかしたら優良物件に空きが出ていたり、全体的な賃貸価格が下がったりしているかもしれません。調べてみると、やはりコロナ禍でパリの不動産価格もブレーキがかかっているようです


コロナ禍でパリの不動産価格は鈍化

そもそも、パリ市内の不動産相場はどれくらいなのでしょうか。フランスの不動産サイトSeLogerが2020年3月に出した報告によると、賃貸の場合、家具付き物件で平均1,838ユーロ(約23万円)、家具無し物件で1,618ユーロ(約20万円)です。

セーヌ川左岸で、特に人気の高い7区の場合は2,336ユーロ(約29万円)まで上がります。7区は首相府や各国大使館などが集まり、東京だと港区のようなイメージでしょうか。購入する場合だと、1㎡あたり市内平均は1万1,014ユーロ(約136万円)、7区などは1万3991ユーロ(約172万円)まで上昇。そして2015年から過去5年間で、価格は31%上がりました。

しかし、不動産価格の上昇も、コロナ禍で鈍化しているようです。フランスの賃貸査定サイトMeilleurs Agentsの11月1日時点での統計では、パリの不動産価格は9月の新年度から、1㎡当たり1カ月で0.6%低下。3カ月で1.1%減少したそうです。

またパリジャン紙は、取材したパリの不動産会社のコメントを引き合いに、現在は価格の鈍化と競合相手の少なさもあって、「不動産購入の機会になっている」と述べます。

パリ市内と比べればまだそれほど影響が現れていない近郊も、今後は価格の伸びが減速していくと不動産会社は予想しています。販売物件数の増加に対して、購入者も多くないそうです。そして持ち主は売却できる機会を逃すことを恐れて、普段より交渉事が少なくなっているそうです。

建物の部屋にかかる「売り家」の看板

部屋探しで内見ができない

フランス国内の不動産購入希望者にとっては有利な条件に思えますが、一方で完全に前向きには動けない理由もあります。

ネックになっているのが、上述した内見の禁止です。日本の場合、賃貸情報には間取り図が付けられています。ところがフランスの場合、間取り図が添えられていないことも多いのです。

不動産屋に張り出された売り出し物件の一覧

私も賃貸探しでは見学ができず、不動産会社が用意した映像(ただし、どの物件にもあるわけではありません)で確認したり、私が見学する代わりに不動産屋の担当者に現地へ赴いてもらい、ビデオ通話でチェックしたりしました。とはいえ、オンライン見学では完全に状況を捉えられない気がしてしまいます。

文字情報と多くない写真、今までの経験と勘、Googleマップなどで調べた付近の様子などから、頭の中で生活環境を立体的に組み立て、不動産屋や家主に質問をしつつ、最終的に住み心地を想像していますが、難しいもの。私の場合は賃貸ですが、購入を希望する人の場合、一生に一度の買い物になることもあるはずです。オンラインのみでの決心は、ハードルが高いはずです。

家賃の3倍の収入証明を求められる

テレワークが強く推奨される今、地価がとても高いパリに住む利点はあるのでしょうか。

フランスでは、家主や不動産会社が、賃借人に家賃の3倍の収入証明を求めます。上述したようにパリの月額平均が1,618ユーロ(約20万円)とすると、賃借人にはその3倍である4,854ユーロ(約60万円)の月収が必要です。

しかし、フランス国立統計経済研究所(INSEE)が2020年に出した統計によれば、パリの男性上級職(カードル)の手取り月収は4,377ユーロ(約538万円)、週35時間勤務の男性一般職は1,681ユーロ(約207万円)しかありません。女性の場合、平均額はさらに下がります。

ロックダウンでパリから逃げ出すパリっ子

不動産売買の鈍化に加えて、セカンドハウスの家を本宅にするという傾向も現れました。

特に今年3月に実施されたロックダウンでは、政府による外出制限実施の発表がされた後、都市部から地方へ脱出しようと大規模な移動が起きました。狭い都会の部屋で、いつ終わるとも分からない巣篭もり生活に備えるよりは、テレワークが可能という状況を生かして、別荘で過ごそうと考えたためです。

別荘という言葉を聞くと、日本人のイメージではお金持ちの持ち物のように聞こえるかもしれません。もちろん、フランスでもそれは同じですが、日本のイメージよりはもう少し身近な買い物になっています。そのため、例えばパリの西にあるノルマンディー地方などにセカンドハウスを購入して、夏などまとまった休暇をそこで過ごすという人は、日本と比較して多いです。

調査会社Elabeが2018年に出した統計によると、フランス人の40%が別荘購入の夢を持っており、13%がすでに所有。またフランスは、330万戸を超えるヨーロッパ随一の別荘大国で、全住宅の9.5%を別荘が占めています。またドイツの調査会社Statistaが出したフランスの2018年における別荘購入者の平均年収は、7万500ユーロ(868万円)でした。

日本でも、コロナ禍によるテレワークの推奨で、都市部では郊外の戸建てや別荘に再び関心が集まっているそうですが、フランスは一層その傾向が強まっています。

地方の別荘を本宅に、都心の本宅を別荘に

パリジャン紙に、こんな話がありました。妻と娘、息子という4人家族の47歳の建築家は、パリと地方に家を持っていましたが、コロナ禍が地方移住を後押ししたそうです。彼の場合、別荘を本宅にしたケースですが、パリにある1戸4部屋の物件を引き払ったり、貸し出したりはせず、そこには18歳で学生の娘が引き続き住んでいます。また彼自身も仕事で頻繁にパリを訪れるため、その拠点として使っています。

私の周囲でも、同じようなケースがありました。20代の息子2人を持つ知人夫婦は、コロナ禍を機会に南仏の別荘に長期滞在。ウイルス収束の気配が見えないのと、年齢が60代であるため、無理をしてパリには戻らず、今ではそこが本宅のようになっています。一方で、息子2人は学校に通うため、パリの部屋に住み続けています。

ただし、別荘を求めること自体はコロナ禍により新しくもたらされた現象ではないそうです。INSEEによると、2005年から2019年にかけて、すでに増加傾向にありました。その傾向が、コロナ禍によりさらに加速する可能性はあります。

私の賃貸部屋探しも、コロナ禍特有の利点を得られるのか、それとも内見ができないことなどが原因で、イメージの物件と巡り合えないのか。今のところ、まだ次の引っ越し先は見つかっていません。

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