「過疎を取るか 核を取るか」イギリスの小さな島で見た現実

「過疎を取るか 核を取るか」イギリスの小さな島で見た現実

「東京の人たちが使う電気は、隣の福島で作っているんだよ」
山形で生まれ育った私。中学校の授業で恩師が話したこの言葉が、今も記憶に残っています。東京では莫大な電気が必要だけども、原子力発電所は何かあったら危ないから、都会じゃなくて田舎に作られるんだ。そんな話を聞いて、理不尽だなあと子供ながらに感じたものです。約15年後、その福島第一原発で世界最悪レベルの事故が起きました。私の故郷の街では、今も原発周辺から避難した住民が暮らしています。

撮影:東京電力

日本各地を見渡しても、原子力関連施設は泊原発しかり、下北半島や若狭湾など、やはり人口が希薄で財政基盤の弱い「過疎のマチ」に作られている。そうした地方のマチに、巨額な交付金で誘致を促してきた日本の原子力行政・・・歴史は繰り返され、いつしかそれが当たり前のことになってしまいました。

「核のごみ」に揺れる北海道の2つのマチ

原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」。その最終処分場選定の第1段階となる文献調査に、北海道の寿都町と神恵内村が名乗りをあげました。2つのマチは、急速な人口減少と産業の衰退という共通の課題を抱えています。文献調査が始まれば、国から2年間で最大20億円もの交付金が渡されます。

文献調査応募を表明した寿都町の片岡春雄町長

美しい海岸線が続く神恵内村

イギリスで見た「原発依存の島」

過疎のマチに「核」が押し付けられる。そんな構図は日本だけではありません。ANNロンドン特派員の任期中、私はイギリス・ウェールズ北西部のアングルシー島を取材しました。産業革命から長年栄えた銅鉱山が閉山し、新たな産業として持ち上がったのが原発。かつて炭鉱があった泊や福島と同じような歴史です。1971年に稼働を始めた原発は老朽化で運転を停止し、今は廃炉作業が進んでいます。美しい海岸線にそびえる無機質で巨大な原発の建屋は、異様な光景でした。

この原発の隣接地に、日本の日立製作所が最新鋭の原発の建設を計画していました。苦戦が続いていた日本の原発輸出政策の「最後の砦」でしたが、安全対策などの莫大な費用が調達できず、2019年1月に建設計画は凍結されたのです。

「子どもたちに未来はあるのか」

アングルシー島の原発運営会社は、地元住民向けに暖房器具の無償提供やパブ、郵便局の運営資金の助成をしていました。いわゆる「原発マネー」です。急速な少子高齢化が進む島では、9000人の雇用が見込まれる新たな原発建設に、住民の7割近くが賛成していました。「原発がなくなったら、子供たちに未来はあるのか」。建設凍結を知った地元住民の落胆の表情が忘れられません。

住民に突きつけられる「過疎か 核か」の選択

イギリスの小さな島で見た景色と現実は、今回の「核のごみ」をめぐる北海道の2つのマチにも重なるところがあります。ふるさとの衰退を前に「過疎か、核か」を迫られる住民たち。最終処分場の文献調査受け入れという急展開の裏に何があったのか?HTBの取材班が、住民たちの「本音」に迫ったドキュメンタリーを制作しました。

テレメンタリー2020
過疎を取るか 核を取るか ~「核のごみ」最終処分場に揺れるマチ~
HTBでは11月29日(日)午前10時30分放送
テレビ朝日系列で全国放送 東京(テレビ朝日)は29日(日)朝4時30分から

番組のナレーションは、人気ドラマ「半沢直樹」(TBS)など数々の番組を担当されている山根基世さん(元NHKアナウンス室長)です。

東京・大阪・札幌など、電力を使う大都市から遠く離れた過疎のマチが直面する現実。皆さんに考えて頂くきっかけとなれば幸いです。ぜひ番組をご覧ください。

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