北朝鮮でロックダウン相次ぐ…4万人に外出禁止令

北朝鮮では、新型コロナウイルスに感染した疑いのある患者の発生で、中国との国境に面した地域を中心に、封鎖令(ロックダウン)が下される地域が続出している。

現地のデイリーNK内部情報筋によれば、中央党(朝鮮労働党中央委員会)と中央非常防疫委員会が今月16日、慈江道(チャガンド)渭原(ウィウォン)郡を1ヶ月間封鎖するとの指示を朝鮮労働党慈江道、渭原郡委員会、慈江道非常防疫委員会に下した。新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を見せ、死亡する人が相次いだからだ。

北隣の満浦(マンポ)市も、先月26日から今月14日まで封鎖令が発せられていた。また、咸鏡北道の会寧(フェリョン)、鐘城(チョンソン)、穏城(オンソン)でも封鎖令が発せられ、外出禁止で食糧を得られず餓死する人も出ている。

渭原郡の住民の生活への影響は今のところ伝えられていないが、他の地域との交通が遮断され、住民は一切の外出が禁じられていることから、困窮する人の続出は必至だろう。

今回の封鎖令のきっかけは、密輸だ。

地域を流れる鴨緑江には、北朝鮮と中国が協同で出資し、1988年に完成した渭源ダムがある。ダムの擁壁の上には道路があり、合法的な出入国に使われているが、このルートを使い、民間人はもちろんのこと、国家機関に至るまで、密輸を行うことで人口4万人の町は潤ってきた。

ところがある国家機関で密輸を担当するイルクン(幹部)が今月初め、発熱の症状を示して自宅に隔離され、9日に死亡した。

また、これとは別に国境警備のために派遣されている朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の暴風軍団の兵士3人も、新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を示した。いずれも結核や喘息の持病があり、当初は咽頭炎の診断を受けたが、発熱、呼吸困難をきたし、数日後に死亡した。

さらには、国境警備隊の隊員2人も死亡した。栄養失調にかかり高熱を出したが、部隊の衛生指導員は、単なる風邪だと見て、解熱剤を処方した。しかし、何日経っても熱が下がらず、軍医所に搬送する途中で亡くなったとのことだ。それからしばらくして、近隣住民の間でも同様の症状を示す者が現れた。

衛生状態のよくない北朝鮮では、コロナ以外の様々な感染症で命を落とす人が少なくない。また、当局は、新型コロナウイルスの感染者が発生したとは認めておらず、まともな検査も行われていないようだ。しかし、地元では「伝染病(コロナ)で死んだのではないか」という噂が広がっている。

例えば、当局は、亡くなった人の遺体を火葬し、袋詰めにして遺族に手渡したが、事故や病気で亡くなれば、駐屯地の裏山に葬るという通常の手続きと異なることから、コロナ疑惑が広がってしまった。

当局は、コロナの疑いで死亡した人の遺体を火葬するように指示を出している。北朝鮮で、火葬は忌み嫌われていることも相まって、火に油を注ぐ形となっているようだ。

一連の事案は慈江道非常防疫委員会、中央非常防疫委員会、中央党を通じて、金正恩党委員長に報告され、封鎖令が下されたという流れだ。

現在、中央非常防疫委員会のイルクン5〜7人が、現場指導小組として現地に派遣され、状況をリアルタイムで中央に報告している。また、軍医局、中央軍事委員会のイルクンも派遣され、現地の保健機関と協力して活動を行っている。

死者を出した暴風軍団の部隊と、国境警備隊の兵士全員が隔離された。国境警備の兵士が基地ごと隔離されるのは、今回が初めてとのことだ。その穴を埋めるために、平安南道(ピョンアンナムド)徳川(トクチョン)にある暴風軍団の指揮部から、1000人の別の兵士らが急遽派遣され、国境警備に当たっている。

一方で、国境警備隊の人員は一人もおらず、国境警備は完全に暴風軍団の手によって行われている状態だ。

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