旅行がメンタルヘルスにもたらす効果とは? 

GoToトラベルは一部見直しとなりましたが、今年は春先からコロナ禍により旅行に行くことができなかったため、旅行好きの方はもちろん、そうでない方も「とにかく息抜きをしたい」という方も多いのではないでしょうか。
今回は旅行とメンタルヘルスについてお伝えします。

旅先での経験

皆さんは、旅先でどのような経験をすることが多いでしょうか。
ある研究(※1)では、大学1年の女子学生に「これまでの国内観光旅行の経験で一番良かったこと」を挙げてもらい、これを分類したところ、以下4種類にまとめられました。

a. 気楽さ:休養、逃避、退屈緩和など、緊張を解消し「解放感」を経験すること
b. 面白さ:愉快、爽快、悦楽など、感覚的快感や感情的快楽である「娯楽感」を経験すること
c. 新しさ:驚き、意外、変化、珍奇など、日常性を離れた「異質感」を経験すること
d. 危うさ:スリル、冒険、危機など、めったにない「緊張感」を経験すること

上記の各a~dはバラエティに富んでいますが、いずれも日常の生活場面から離れた場所だからこそより良く経験できる内容が多いようです。
では、旅行が私たちのメンタルヘルスにどのような影響を与えているのかを見ていきましょう。

旅行とメンタルヘルス

以前から、旅行は健康を増進し人生の質を向上させる要因だと考えられてきました(※2)。
旅行とメンタルヘルスの関係を調べた研究はいくつかあります。
ある研究では、健康度や幸福感が旅行の前後でどのように変化したのかを、類似した研究7つをまとめたメタ分析という方法で調べました。
その結果、旅行後にこれらはプラスの方向にわずかに変化したことがわかりました。
しかし、その効果は長くは続かないことが示唆されました(※3)。
また、ツアー旅行の参加者から唾液を採取して、その中に含まれるストレス物質の量を測定する研究(※4)なども行われています。
この研究によると、旅行初日よりも2日目の方がストレスは低下したものの、最終日になると再び一部のストレス指標は悪化しました。
これは、間もなく日常生活に戻るストレスが影響したようです。
いずれにしても、旅行とメンタルヘルスとの関係は、科学的にはこれから解明が待たれる分野であるといえるでしょう。
しかし、私たちは、旅行から帰ってくると気分が軽くなっていることもよく経験することです。
このような経験と関連すると思われるのが「リカバリー経験」という考えです。

リカバリー経験

リカバリー経験とは「就業中のストレスフルな体験によって生起した急性ストレス反応や、それらの体験によって消費された心理社会的資源を、元の水準に回復させるための活動」(※5)を言います。
要は気持ちをリフレッシュするための活動といってもよいでしょう。
このリカバリー経験は以下の4種類があります(※6)。

① 心理的距離:仕事から物理的にも精神的にも離れている状態であり、仕事の事柄や問題を考えない状態。仕事関連の電話を取らない、仕事のことを考えないなど
② リラックス:心身の活動量を意図的に低減させている状態。美しい自然の中でちょっと散歩したり、音楽を聴いたり、瞑想したりなどを含む
③ 熟達:余暇時間での自己啓発。語学講座を受講したり、登山をしたり、新しい趣味を習ったりするなど
④ コントロール:余暇の時間にどのような活動を、いつ、どのように行うかを自分で決められる

すべての旅行に当てはまるとは言えませんが、この4つの種類を経験するような旅行では、リカバリー経験をしていると言えるかも知れません。
また、旅行というイメージからは外れてしまうかも知れませんが、「お遍路さん」にセラピー効果があると指摘する研究者もおり(※7)、興味深いです。
最後に、新型コロナウイルスによる感染状況はしばらく続きそうですので、旅行に出掛ける際は、ぜひ感染防止対策をしっかりと行ったうえで、楽しみたいものですね。

<参考>
※1 佐々木土師二『観光旅行の心理学』(北大路書房、2007年)
※2 J. Hobson, U. Dietrich「Tourism, Health and Quality of Life」(「Journal of Travel & Tourism Marketing」1995年3号)
※3 de Bloom, J., Kompier, M., Geurts, S., de Weerth, C., Taris, T., & Sonnentag,S.「Do we recover from vacation? Meta-analysis of vacation effects on health and well-being」(「Journal of Occupational Health」2009年1月)
※4 牧野博明、戸田雅裕、小林英俊、森本兼曩「旅行のストレス低減効果に関する精神神経内分泌学的研究」(「観光研究」2008年3月)
※5 島津明人『ワーク・エンゲイジメント ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会、2014年)
※6 窪田和巳、島津明人、川上憲人「日本人労働者におけるワーカホリズムおよびワーク・エンゲイジメントとリカバリー経験との関連」(「行動医学研究」2014年20巻)
※7 黒木賢一「四国遍路における臨床心理学的研究(1)-遍路セラピー事始め-」(「大阪経大論集」2009年3月)

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