「サッカーコラム」中村憲剛に贈る3度目のV

J1川崎、初めて観客とも喜び分かち合う

©株式会社全国新聞ネット

G大阪に大勝し優勝を決め、サポーターと写真に納まる川崎・小林(左)と中村=等々力

 25日の川崎市の等々力陸上競技場で「皇帝」の退位を祝うパーティーが行われた。

 ドイツサッカー史に名を残すフランツ・ベッケンバウアー。そう「皇帝」だ。センターバックでありながら、特定のマークをもたずに自在に攻め上がり、「自由の人」の意味のリベロという役割を確立したサッカー界の生ける伝説だ。

 ミュンヘン近郊に生まれ育ったベッケンバウアーのクラブといえば、誰もが知るバイエルン・ミュンヘンだ。しかし、彼が下部組織に加入した時代、同じ町で強豪と呼ばれていたのは1860ミュンヘンだった。

 事実、1963年に発足したブンデスリーガの創立メンバーに名を連ねたのは1860ミュンヘン。バイエルン・ミュンヘンは選ばれなかったのだ。バイエルン・ミュンヘンは、その後世界的強豪に伸し上がっていくのだが、その足跡はベッケンバウアーの活躍と一致している。

 同じことは川崎と中村憲剛の関係にもいえる。後に川崎の象徴となる細身のMFが入団した2003年当時、川崎はJ2のクラブだった。当時のJ2はメディアの注目を浴びることもなく、熱心な地元の人々にほそぼそと支えられる程度だった。

 ところが、今シーズンの川崎はJリーグの歴史に名を残す偉大なチームとして間違いなく日本全国の人々に記憶される存在となった。その精神面、技術面の中心にいたのは「14番」だ。まさに川崎のカイザー(皇帝)と呼ぶにふさわしい。

 3度目のリーグ優勝が懸かったJ1第28節。11月21日の大分戦でアウェーに乗り込んだ川崎は0―1で敗れた。翌日の浦和戦で2位のG大阪が引き分け以下であれば川崎の優勝が決まった。しかし、G大阪は、2―1の逆転勝利。主役がいないという、間の抜けた優勝決定を回避してくれた。

 そして、25日。首位・川崎と2位G大阪が等々力で直接対決した。負けなければ、優勝―。そんな条件下で行われた一戦は、18年のJ1最優秀選手(MVP)である家長昭博がハットトリックを決める活躍を見せるなどして5―0で大勝した。

 2年ぶり3度目のリーグ優勝を決めるとともに、3試合を残して優勝した10年の名古屋を上回る4試合を残してのスピード戴冠という栄誉も手にした。

 17年と18年。過去2回のリーグ優勝はどこか物足りなさを感じさせるものだった。タイムアップの笛と同時に川崎の選手やサポーターは感情を爆発させることはできなかったからだ。

 2位で最終節を迎えた17年は、前節まで首位だった鹿島が敗れたことでタイトルが転がり込んできた。ホーム等々力でセレモニーを行えたことはよかったが、優勝シャーレは鹿島の本拠・鹿島スタジアムにあった。おかげでシャーレの模様が刻印された風呂おけが全国的に有名となるという副作用があったのは笑い話だ。

 一方、18年の優勝決定はアウェーの大阪で決まった。しかも川崎はC大阪に敗れたが、2位の広島も敗戦。ちょっと残念な結末に終わった。

 だが、今季は違った。ホーム・等々力をチームカラーの青で染めたサポーターの前で優勝報告できたのだ。

 そして、中村憲剛というクラブ・レジェンドに贈るこれ以上ない優勝セレモニーとなった。

 選手や関係者というのは、一刻でも早く優勝の実を手にしたいものだが、今季の川崎ほど独走すれば、不安な気持ちはなかっただろう。

 圧倒的な強さを誇る、そんな川崎でも勝てないことがある。このことを21日戦った大分が教えてくれた。

 スコアは0―1の最少得点差だった。しかし、内容を見ればもっと大差がついていてもおかしくなかった。23戦して2敗しかしていないチームを11位の大分が一方的に押し込んだのだ。

 特に前半は大分の10本のシュートに対し川崎は2本。ゴール枠内に飛んだのは6本対0本だったスコアの上では接戦になったのは、川崎GKチョン・ソンリョンの度重なるファインセーブがあったからだ。

 どんなにすごいメンバーを並べていても、コンディションが良くなければまともな勝負ができない。川崎は先発を4人代えたとはいえ、横浜Mとの激戦から中2日。対する大分は、コロナで延期になった柏戦の関係で中17日も空いての試合だ。平等を期した上でのコンペティションというものからは、かけ離れた試合だった。

 勝負を分けた得点に関わるシーンも、川崎のキャプテン谷口彰悟の判断ミスからだった。前半34分、大分はセンターサークル右から町田也真人がペナルティーエリア左の野村直輝にDFが触れられるか触れられないかというぎりぎりのセンスを感じるロブを送る。ヘディングを被った谷口は、野村を手で引き倒しPKを与えた上での一発退場だ。

 DFにありがちなミスをした直後の反射的なファウル。おそらく1秒の間を置けば谷口はこのような判断をしなかっただろう。なぜなら谷口がカードをもらったのは、今シーズンここまで1枚だけ。クリーンなプレーで有名な名手の判断ミスは、少なからず過密日程が関係する気がする。体に疲労が蓄積すると、判断力も鈍ってしまう傾向が強い。

 新型コロナウイルスの影響で今シーズンは変則的な日程を強いられている。それゆえ、ある程度は受け入れなければならないことは理解できる。だが、対戦チームでコンディションが大きく変わるようなことは避けるべきだ。そのことを大分戦があらわにした。