【大阪都構想住民投票】畠山理仁の現地ルポ! 有権者は選挙の度に試される(2)

2020年11月1日、投票結果判明後の会見で

住民投票から1週間も経たない11月5日。松井一郎大阪市長はさっそく記者会見でこう発言した。

「大阪府と大阪市の対立や二重行政をなくすルール作りをやっていきたい」

翌6日には、吉村洋文大阪市長が自身のツイッターを更新。松井氏の発言を紹介する産経新聞の記事を引用する形で次のようなツイートを投稿した。

「都構想は否決されて大阪市の存続は決まった。市民の最終判断なので、受け入れる。ただ、賛成と反対の差は1ポイント。約半数は大阪市を廃止、都構想移行に賛成。反対派議員は、賛成派の声も無視せず、尊重して欲しい。」

引用元となった産経新聞には、松井市長と吉村知事が「広域行政を府に一元化する条例を策定する考え」と書かれていた。大阪市は残したまま、市の財源と権限を府に渡すための条例案を作るのだという。

これは投票結果の曲解ではないのか?

そこで、今回の住民投票の結果をわかりやすく言い換える。大阪市民が選んだのは「政令市である大阪市を存続させる」という明快なものだ。それ以上でもそれ以下でもない。

政令市は、中核市や一般市にはない権限と財源を持つことが地方自治法に定められている。それを住民投票の結果が出た後も「府に一元化する」と言い続けるのは無理筋だ。大阪市が持つ権限と財源を府に移行したいのだろうが、これは実質的に「3度目の都構想」だといえる。しかも、「条例」となれば住民投票は必要ない。「勝つまでジャンケン」と揶揄される理由がここにある。

そしてもう一つ、大きな疑問がある。仮に今回の住民投票で「大阪都構想賛成」が一票でも上回っていた場合、吉村氏は「反対意見も同程度ある」と配慮するつもりがあったのだろうか。

おそらく、ないだろう。我田引水、牽強付会という言葉が脳裏に浮かぶ。

大阪維新の会が「都構想」「住民投票」「府に一元化」などと言っている間に、大阪府の新型コロナウイルス感染者は連日200人を超えた。11月10日には226人、11月11日には256人。11月12日は231人、11月13日は263人、11月14日は285人、11月15日には266人を記録した。

大阪維新の会を応援するのは自由だ。熱狂的な支持者がいることも知っている。支持者一人ひとりの活動量も舌を巻くほどすごい。他の政党を支援する人たちも見習ったほうがいいと思うほど、熱のこもった支援をしている。

しかし、残念なことがある。大阪維新の会へのツッコミが甘すぎる。

政治家を甘やかしてはいけない。無条件に崇拝してはいけない。政治家とは、あくまでも私たちの代わりに働いてくれる人たちだ。有権者が鍛え、育てなければ堕落する。大阪のみなさんは今一度そのことを強く認識したほうがいいのではないか。

2020年10月31日・天王寺まちかど説明会

今回、筆者が大阪入りして最初に訪れたのは、大阪維新の会が天王寺公園で行なった「まちかど説明会」だ(10月31日午後)。

駅の出口では、反対派も賛成派もビラを配っていた。大阪維新の会の演説場所には200人近い聴衆が集まり、黄緑色のジャンパーを来たスタッフたちがロープを張って通路を確保していた。ガラス張りの宣伝カーの上には、大阪維新の会の代表代行を務める吉村洋文大阪府知事が立っている。吉村氏は大きなパネルを紙芝居のように入れ替えながら、「二重行政の弊害」を訴えていた。

この日は土曜日。しかも大きな公園ということもあり、聴衆には若い家族連れも多かった。一部に熱狂的な吉村ファンがいるようで、吉村氏の言葉に反応して激しく拍手をしていた。その一方で、通りがかりに「民主党みたいになるぞ!」と大声を上げて野次を飛ばす男性もいた。

大阪維新の会が行う集会の特徴は「質疑応答の時間」が設けられていることだ。この日も聴衆から勢いよく手が挙がった。最初に指名されたのは子育て世代と思われる女性だ。

「妊婦健診14回無料と、医療助成と、3日前に振り込まれた子どもへの特別給付金ありがとうございました!」

マイクを持った女性はいきなりお礼から入った。話が具体的で、とても通りがかりの人とは思えない。「この人はサクラなのか?」と疑ってしまうほど、いろんなことに詳しい。

いやいや、待て。大阪の人はみんな政治に詳しいのかもしれない。大阪維新の会が多くの人に政治への興味をもたせ、大阪の民主主義を底上げした可能性も捨てきれない……などと考えていると、その女性は話を続けた。

「(都構想)反対派で、『カジノがあるから反対や』という人がいると思うんですけど、そういう人って、カジノのことあまりわかっていなくて反対していると思うんですね。だったら自分たちで財源作る努力とか考えてみろよと思うんですけれども。(略)カジノのエリアって本当に3%ぐらいで、あとは劇場とかショッピングモールだと思うんですよ」

断っておくが、これはカジノの説明をしている吉村氏の言葉ではない。手を挙げて質問した人の言葉である。マイクを持った女性はさらに話を続けた。

「カジノは私、行ったことあるんですけど、身分証明書がないと入れないし、掛け金もだいたい5千円ぐらいで、サンダルとスリッパでそこらへんでパチンコ打ってる人みたいに簡単に入れる場所じゃないので逆に治安もよくなると思っています。それも皆さんに言っていただきたい」

質疑応答タイムのはずなのに、いつのまにか質問者が「都構想賛成」の立場で演説をしていた。これが「市民参加」のすごさである。

本記事は複数部構成です。第1部はこちら>>「【大阪都構想住民投票】畠山理仁の現地ルポ! 有権者は選挙の度に試される(1)」

本記事の第3部(続き)はこちら>>「【大阪都構想住民投票】畠山理仁の現地ルポ! 有権者は選挙の度に試される(3)」

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