「自信はない」首位リアライズ。賭けに出る陣営、そして「ARTAが最速」の分析も【GT300タイトル争い展望】

 第7戦ツインリンクもてぎではリアライズ 日産自動車大学校 GT-R(藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)が優勝を飾り、ノーポイントに終わったLEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/菅波冬悟)を逆転。GT300クラスのタイトル争いでは、最終戦を前にしたドライバーズランキングで、リアライズが5ポイント差の首位に立っている。

 2台からはやや点差があるものの、シーズンを通して比較的安定した速さを見せつけているチームも、タイトルの可能性を持ったまま富士に挑む。すなわち、ここ2戦はセーフティカー(SC)に泣いたGAINER TANAX GT-R(平中克幸/安田裕信)とSUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)、開幕戦富士で優勝を飾った埼玉トヨペットGB GR Supra GT(吉田広樹/川合孝汰)、高木真一の負傷により大湯都史樹が松下信治の助けを借りてタイトルを目指すARTA NSX GT3といったマシン群である。

 数字上はグッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也)にも可能性が残るが、PP獲得かつ優勝がマストなうえ、他のランキング上位陣の総崩れも必須という厳しい状況にある。

 最終富士決戦では、果たしてどのようなタイトル争いが見られだろうか? ここでは、第7戦もてぎ決勝後にいくつかのチームに対して行なった取材と、過去の戦績などからその展開を占ってみたい。

 車種とタイヤが多岐にわたるGT300クラスにおいてひとつのポイントとなりそうなのは、予想される低い路気温にどう合わせ込むか(あるいはもともとマシン・タイヤが合っているか)、という点が挙げられる。

 ここで寒い時期の富士における“指標”として注目したいのは、2019年の同時期に富士で開催された『SUPER GT × DTM特別交流戦』のサポートレース、『auto sport web sprint cup』だ。

 このレースでは、2レースともダンロップタイヤを履くSYNTIUM LMcorsa RC F GT3が優勝を飾っている。1レース目はPPから、リバースグリッドとなった2レース目は6番グリッドからの圧勝だった。

 もちろんレース距離も違えばGT500との混走でもなく、参加車両もGT300クラス車両だけではなかったため、これから迎える2020年最終戦と完全な相関があるとは言い切れない。

 ただ、2019年は最終戦のもてぎでもGAINER TANAX GT-Rが勝利を挙げているだけでなく、このレースで投入した新仕様のタイヤが2020年の躍進につながっていることなどからも、ダンロップ勢を最終戦富士での優勝候補筆頭として挙げてもいいだろう。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ GAINER TANAX GT-R(平中克幸/安田裕信)

 さらにGAINER TANAX GT-Rについては、『秘策』も用意されているようだ。前戦もてぎには新たなトライとなるタイヤを持ち込んでいた。結果的に予選・決勝ではそのタイヤを使わなかったというが、その理由は「決勝で使うには、クルマの側(のセットアップ)を合わせ込む必要があるため」(福田洋介エンジニア)だという。

 もてぎでは公式練習序盤にトップタイムをマークしたGAINER TANAX GT-Rだが、これは予選・決勝でも履くことになる『実績のあるタイヤ』。一方、公式練習終盤の占有走行時間帯にわずかにタイムアップを果たしたのは、新仕様のタイヤだったという。

「(新しいタイヤは)グリップアップにはつながっていましたが、マシンを合わせ込む時間がありませんでした。ただ、最終戦では一応チャレンジするつもりでいて、持ち込みのセットアップをそれに合わせた方向に振ってみる予定です」(福田エンジニア)

 走行時間の限られるレースウイークに新たなタイヤとセットアップを投入するのは、一種の賭けでもある。だが、13ポイント差でトップを追う立場としては、必然のトライとも言えそうだ。

 もちろん、ダンロップ勢でタイトルの可能性を残すSUBARU BRZ R&D SPORTも、ここ2戦の悔しさを晴らすべく、全力で最終戦に挑んでくるはずだ。ノーウエイトとなることから、最終戦ではタイヤ2輪交換をベースの戦略に据えてくるものと思われる。

■「ARTA NSX GT3がダントツ」というライバルの分析も

 対してブリヂストン(BS)タイヤ勢は、お家芸ともなっている無交換・2輪交換作戦によるピット時間短縮も視野に入れながら、戦ってくるものと思われる。

 もてぎでは予選から苦戦し、決勝ではSC前のピットインにもかかわらずラップダウンとなり上位進出を逃したLEON PYRAMID AMGの黒澤治樹監督は「自力優勝するしかない。今度は追う立場になったので、勝つべく戦いますよ」と語る。

「寒いコンディションはうちにとってあまりいい方向ではない」と黒澤監督は天候を気にするが、「持っているもののなかでベストを尽くさなきゃいけないし、BSさんもいいタイヤを用意してくれるはず。それでみんな一丸となって戦うしかないですね」と表情を引き締める。

 もてぎでも「コース上で抜けない」という特性が露わになったLEON PYRAMID AMG陣営としては、予選からの上位進出、またはピット戦略を絡めての上位浮上が、タイトルへの条件と言えそうだ。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/菅波冬悟)

 ノーウエイトの開幕戦で勝利を挙げて以来、表彰台から遠ざかっている埼玉トヨペットGB GR Supra GTの近藤收功エンジニアは、その開幕戦をこう分析している。

「開幕戦はLEONさんがタイヤ交換をミスしていなければ、抜かれていました。また、ARTAさんがQ1でタイヤチョイスをミスっていなければ、彼らが優勝していたはずです。決勝のラップタイムをシミュレーションすると、ダントツで速いんですよ」

 ポテンシャルを比較しやすい同じBS陣営のライバル勢について、近藤エンジニアは警戒感を強める。

「最終戦は56号車(リアライズ 日産自動車大学校 GT-R)も速いはずですし……涼しいと吸気温が下がるからターボエンジンが速いというのもあるかもしれません。なかなか厳しいですが、少ない可能性を最後まで追いかけて頑張ります」

 同じノーウエイトとという条件ながら開幕戦の再来……とは簡単には行かなさそうな雰囲気だが、GT500と同じくGRスープラGTの『デビューイヤー・タイトル』を諦めてはいない。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

■「夏だったらいいけど……」とリアライズ 日産自動車大学校 GT-R

 ランキングトップに立つリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは、寒い時期の富士にそれほど好印象はないようだ。

「夏だったらいいんですけどね」と語るのは米林慎一エンジニア。10月の第5戦富士では優勝しているが、時期が異なることへの不安が大きい模様だ。

「第5戦のときは、テスト(6月末)のときと同じコンディションだったので、だいたいこのくらいのペースで走れる、というのは分かっていました」。最終戦に向け自信はありますか、と問うと米林エンジニアは「ないです」と首を振る。

 レースの実績があまりない寒い時期の富士におけるタイヤ選びについて、「これだというものはなく、手探りの状態」だという。

 第7戦もてぎでは4輪交換で勝利を飾ったが、「うちはドライバーがふたりとも速いので、飛ばして、気持ちよく走ってもらわないとうるさいので……(笑)」と、ランキング上位に残った唯一のヨコハマ勢は、富士でも無交換などに出てくる可能性は低そうだ。マシン重量が重いことも要因にあるだろう。

 各陣営のレースプランとしては、SCリスクを避けミニマムに近い周回数でのピットインを目指す戦いが繰り広げられることが予想されるが、燃費や後半に履くタイヤのライフからの制約を考慮する必要もあり、ドライバーミニマムが過ぎたら即ピットインかというと、そううまくはいかないはずだ。このあたりは決勝でのひとつの注目ポイントとなるだろう。

 加えて、今季はシンティアム・アップル・ロータス、ADVICS muta MC86、マッハ5G GTNET MC86 マッハ車検など、マザーシャシー(MC)/JAF-GT勢も富士では速さを見せており、タイトル圏外のマシンが大量ポイントをさらっていくことも充分に考えられる。

 それを考慮すると、とくにランキング2位以下の“追う立場”のチームにとっては、優勝が至上命題であるとも言えるだろう。

2020年スーパーGT第7戦もてぎ ARTA NSX GT3(大湯都史樹/松下信治)

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