島原市のこれから 古川市政3期目へ<下>「人口減少」 雇用の場 確保が課題

元気に遊ぶ三会小長貫分校の児童。ここ10年余り児童数は同水準で推移する=島原市長貫町

 ニンジン畑などが周辺に広がる長崎県島原市三会地区の市立三会小長貫分校。近くに住む1、2年生が通い、学年が上がると本校に移る。同分校ではここ10年余り、子どもたちの元気な声が変わることなく響いている。市内9小学校の全児童数が2020年度、約2280人(10年度比約16%減)と落ち込む中、同分校の児童数は12人と例年並み。毎年ほぼ同水準で推移する数少ない学校だ。
 三会地区の同分校周辺では、農業基盤整備が順次進んでいる。これが、同分校の児童数減少に歯止めをかけるきっかけになったとみる向きもある。市によると、整備が完了した範囲では作付面積が1.3倍ほどに拡大。耕地利用率も200%程度に上昇した。
 その結果、農業所得が4~7割ほど増え、就農者の増加につながっているという。市長として3期目に臨む古川隆三郎氏(64)は「農家にお嫁さんが来て、第3子、第4子の誕生も増えている」と基盤整備による波及効果を示唆する。
 「とことん子育てにやさしい街づくり」。古川氏が今回の選挙向けに作った政策リーフレットには、こう書かれていた。12年の就任後、第2子以降の保育料無料化や中学生までの医療費助成など、2期8年にわたり子育て支援策を次々に打ち出した自負がにじむ。
 実際これを反映するかのように、女性1人が生涯に産む推定人数を示す合計特殊出生率は上昇。12年の1.86から18年は1.95となり、全国平均1.43、県平均1.70を大きく上回った。古川氏は「『もう一人、あと一人』という子育てマインドを維持してきた成果」と胸を張る。
 ところが市全体の人口減少には歯止めがかかっていない。1980年の約5万9千人をピークに減り続け、10月末時点では4万4467人。古川氏就任前の2012年と比べても、約3700人少なくなった。
 島原市を含む島原半島3市では、死亡数が出生数を上回る「自然減」が続く。人口流出数が流入数を上回る「社会減」も常態化している。高校卒業とともに地元を離れる傾向が強いことが要因だ。島原公共職業安定所によると、今春の管内(島原、南島原両市)にある高校9校の新卒者で就職を希望する計235人のうち、管内への就職希望者数は52人(3月末現在)。率にすると約22%で、近年は20%台の低い水準で推移しているという。
 古川氏は、大企業の誘致には難しさを感じつつも「5人10人の会社でいい。受け皿をつくらないと気候や湧水の魅力だけでは雇用につながらない」と企業づくりの重要性を強調する。新型コロナ禍でのリモートワーク(遠隔勤務)の流れをくみ、休暇先で働く「ワーケーション」対応の滞在型施設整備やベンチャー企業の誘致を進める考えだ。
 生まれる子どもを増やしつつ、いかに人材を引き留め、さらに呼び込んで定着させるか。市が直面する難題に対し、4歳と4カ月の2人の娘を育てる自営業、松田悠助さん(31)=同市萩原2丁目=は「娘には一度広い世界を見てもらい、また戻ってほしい。ただ、仕事が少ない現状のままでそれは望めない。行政には、頑張る地場企業の支援にも力を入れてほしい」と要望する。


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