天の川銀河の奥深くに埋没した銀河の「化石」が発見された!

天の川銀河の中心付近に埋もれた銀河の化石「ヘラクレス」に由来する星々の分布。黄色の点は太陽(Sun)の配置(Credit: Danny Horta-Darrington (Liverpool John Moores University), NASA/JPL-Caltech, and the SDSS)

イギリスのリバプール・ジョン・ムーア大学の大学院生Danny Horta氏が率いる研究グループは、天の川銀河の奥深くに埋没した銀河の「化石」を発見しました。天の川銀河がまだ誕生したばかりの約100億年前にこの銀河と衝突した可能性があるといいます。不死力を授けられたギリシャ神話の英雄の名にちなんで、研究グループはこの銀河を「ヘラクレス」と命名しました。

研究グループは「スローン・デジタル・スカイサーベイ」(SDSS)にデータを提供するアメリカのアパッチポイント天文台を利用した「アパッチポイント天文台銀河進化観測実験(APOGEE)」の中で「ヘラクレス」を見出しました。

APOGEEは、分光データから天体の元素組成と運動を調べることで、天の川銀河が形成されたプロセスの解明を目指すプロジェクトです。しかし、塵を含む星間物質の「雲」は可視光線を遮ってしまうため、その向こうに隠された天の川銀河の中心部にある星の情報を調べるのは困難です。

そこでAPOGEEでは、塵の向こうを観測できる近赤外線の分光データを集めることで、天の川銀河中心部の様子を観測しました。10年にわたるAPOGEEの観測では50万個以上の星の分光データが取得されたといいます。研究グループによる分析の結果、天の川銀河中心部にある数万個の星のうち数百個は、元素組成や運動が顕著に違っていることが明らかになりました。研究グループは、この特殊な星々がヘラクレスに由来すると予想しています。

天の川銀河の概念図。多数の星が集まる中心部の「バルジ」、それを取り巻く「円盤」、バルジと円盤を囲む「ハロー」から構成される。(Credit: 東北大学)

天の川銀河は多数の星が集まった中心部分の「バルジ(銀河バルジ)」、それを取り巻く星々が渦を巻くように形作る「円盤(銀河円盤)」、バルジと円盤を球形に取り囲む希薄な「ハロー(銀河ハロー)」から構成されています。太陽系は天の川銀河の中心から約2万6000光年離れた円盤の部分に位置しています。

発表によると、このような天の川銀河をはじめとした銀河は小さな銀河が合体しつつ形成されたと考えられており、古い銀河の残骸はハローで頻繁に発見されるものの、天の川銀河は内側から外側へと形成されたため、黎明期の衝突を物語る証拠はバルジや円盤の奥深くに埋もれているといいます。

研究グループは、今回「ヘラクレス」に由来する星の総質量が銀河ハローの約3分の1だったことが明らかになったことで、ヘラクレスとの衝突が銀河系の歴史において重要な出来事だったことを意味すると結論づけるとともに、天の川銀河は穏やかな初期の時代を過ごした大半の巨大な渦巻銀河とは異なるめずらしい存在かもしれないとしています。

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Image Credit: Danny Horta-Darrington (Liverpool John Moores University), NASA/JPL-Caltech, and the SDSS、東北大学
Source: Phys.org
文/Misato Kadono

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