小室哲哉とTM NETWORK、ピリリと尖った声の魅力と美しいコーラスワーク 1988年 3月5日 TM NETWORKのシングル「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」がリリースされた日

“てっちゃん” こと小室哲哉、作曲家別総売上は筒美京平に次ぐ2位!

小室哲哉といえば、数々の名曲を生み出した偉大な作曲家であり名プロデューサー? いやいや80年代を生きた私としては、“先生” なんて呼ばれるよりも、TM NETWORKのキーボードの要塞に囲まれていた “てっちゃん” がしっくりくる。

とはいえ作曲家としての売上枚数は、先日亡くなった筒美京平さんに次ぐ2位というのだから、どれだけ彼が時代を作ってきたか計り知れない。

小室哲哉が作り出す楽曲の特徴として、転調の多様さがよく話題に上げられるが、今回は彼の別の魅力について書いていきたいと思う。

TM NETWORKの魅力、忘れてないけないコーラスワークの美しさ

TM NETWORK… といえば、未来や宇宙といった世界観をもった、時代の最先端を行くユニットとして知られるところだ。が、こう見えて、彼らの楽曲にはフォークの要素がそこかしこにちりばめられていたりするのだ。実のところギターの木根尚登はもともと大のフォーク好き。ボーカルの宇都宮隆も最近は定期的に『それゆけ歌酔曲!!』と題したツアーを行い、歌謡曲の名曲たちをカバーしている。

フォークや歌謡曲の美しいコーラスのハモリに影響を受けた彼らだからこそ、TM NETWORKでもコーラスワークをとても大切にしている。その美しさはTMサウンドの大きな魅力であり、特長といっても過言ではない。例えば、「Come on Let's Dance」「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」「RESISTANCE」が流れてくると、ボーカルのメロディーはそっちのけで、ついコーラスのメロディーラインを口ずさんでしまうほど、美コーラスな曲が多い。

そういえば、以前、小室が木根のエアギター疑惑に触れながら、「木根さんはほとんどの部分をボーカルと同じようにコーラスとして歌っているからこれでいいんです」と話していた。このように、TM NETWORKのほとんどの曲で木根のコーラスが宇都宮の声に寄り添い、重なり合って見事なハーモニーを響かせている。

これは、先日まで開催され、残すところ追加公演を待つばかりとなった『tribute live SPIN OFF T-Mue-needs』ツアーでも健在で、宇都宮と木根の2人の美しいハーモニーに「あぁ、やっぱりウツの声には木根さんの声がぴったりだな」とグッときた。… けれど、それと同時に足りないピース… 小室哲哉へと思いが募った。

小室哲哉のモスキートボイス、TMワールドに欠かせない重要な鍵

さて、小室哲哉の声がとても特徴的なことは周知のことだろう。一度聴いたら忘れられない個性的な声質で、いつごろからか “モスキートボイス” と呼ばれるようになった。これは、蚊が飛ぶときのなんともいえない小さくて高周波な “モスキート音” から作られた言葉だ。

そんな個性的な小室の声だが、曲にもたらす効果は絶大だったりする。小室の声が、宇都宮の甘くて少年のような純粋さを含んだ歌声に重なると、ピリリと尖ったスパイスになる。

例えばアルバム『EXPO』の収録曲に、FANKSたちから根強い人気の「あの夏を忘れない」という曲がある。歌謡曲テイストのポップなメロディーと、せつない歌詞が綴られた曲で、終盤に向かって「♪ Dadadada Daladan」とリズムを刻むように木根と小室のコーラスが繰り返されていく(ちなみにFANKSたちはこの部分をもじってこの曲を「だらすたん」と呼ぶ)。木根の温かくてぬくもりのある声に、小室のエッジの効いた声が混ざると、たちまち曲に奥行きが生まれ、スケールの大きな曲へと変化するのだから不思議。

他にも、2012年に発表された「I am」では珍しく宇都宮が、キーボードを弾く小室に近づき掛け合いのように見事なコーラスワークを披露。TM NETWORKのコーラスの進化を感じさせる。小室の声はTMワールドを作りあげるために欠かすことのできない重要な鍵になっているのだ。

きっと必ず3人が揃って… 小室哲哉がTM NETWORKに帰還する日

先日、小室哲哉の姿は香川県の父母ケ浜にあった。生配信された『TK/MusicDesign/父母ヶ浜』だ。どこまでも続く海と、沈みゆく夕日をバックに、ピアノやキーボード、DJ機材に向き合う幻想的な空間。そこで「My Revolution」「SWEET 19 BLUES」「DEPARTURES」など次々に名曲を披露。

「この名曲たちは、すべて小室哲哉が生んだ子どもたちなんだ…」と、なんだかとても誇らしく思えて涙が止まらなかった。お馴染みの「Get Wild」のフレーズを弾く頃には、美しいグラデーションが空を彩り、温かな太陽が小室を優しく包み、その姿が神々しく見えた。

振り返ってみれば、小室哲哉の引退会見に接した時、僭越ながらも「音楽業界は辞められても、音楽は絶対にやめられない。音楽はやめるものではないから…」と思った。それは、TM NETWORKでデビューしたときの、誰よりも音楽を愛し情熱を傾けてきた小室哲哉を見てきたからだ。そう簡単に音楽から離れられるはずがないし、やめていいわけがない… と。

1994年に突然のTMN終了宣言から1999年のTM NETWORKの復活。その後もさまざまな問題を抱えながらも、必ず私たちの元へ戻ってきてくれた彼らだ。きっと必ず3人が揃って、あの美しいハーモニーを聴かせてくれる日が来ると信じている。そのときに改めて「てっちゃん、おかえりなさい」と客席から叫びたい。その日まで、私たちは彼の帰る場所… 母艦であるTM NETWORKのFANKSとして、いつまでも帰還を待ち続ける。

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カタリベ: 村上あやの

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