笑いあり涙あり 学校よりはるかに強い絆が生まれた「しまなみ海道」自転車旅

新型コロナの第3波が広がりを見せるなか、人気サイエンス・ライターの竹内薫先生が、感染防止対策を徹底した上で、アウトドア学童クラブの「しまなみ海道」イベントに帯同。自転車で150kmを走破しました。獲得標高も2000mを超えました。

いざ、しまなみ海道へ

去年(2019年)の三連休もアウトドア学童クラブの子どもたちと一緒に、しまなみ海道に行きましたが、今年はガラリと雰囲気が変わっていました。新型コロナの第三波が到来しており、帯同する側も感染予防に神経を尖らせているからです。

行きの新幹線はガラガラでした。GoToキャンペーンは中止になっていませんでしたが、さすがに自粛ムードが広がったのでしょう。それでも、たまたま、私の隣の席の20代とおぼしき男性が、頻繁に咳をしていて、かなり辛そうで、おそらく発熱も伴っているように見受けられました。

私は新横浜から新幹線に乗ったのですが、激しく咳をしているこの男性を少し避けて、別の座席に座りました(巡回してきた車掌さんに事情を説明して了解を得ました)。うーん、この症状の場合、できれば、公共交通機関は使ってほしくないなと感じてしまいました。この男性が新型コロナであるという証拠はありませんが、そうでなくても、あの激しい咳き込みは、外出を控えるべきですね……。いやはや。

新幹線で福山まで行き、在来線で尾道に着いた途端、駅の改札で主催者による検温が始まりました。この時点で熱がある人は、大人も子どももイベントに参加できません。あたりまえです。感染防止第一です。

その後、クルマに分乗し、今治へと移動し、そのままビバーク。数時間の睡眠を取り、朝の7時には、しまなみ海道イベントの開始です。

しまなみ海道自転車旅、開始!

去年は、来島海峡大橋を渡った直後、いきなり標高307メートルの亀老山のヒルクライムが待ち受けていましたが、今年は、ちょっと雰囲気が違いました。どんどん平地を進み、一気に大三島までのライドです。天候にも恵まれ、少し暑さを感じるくらいでしたが、橋からの風景も島の風景も美しく、天国でした。

とはいえ、小学生18名の集団です。大人のインストラクターが3名、大人の帯同者が3名、そして、中学生のサポーターが1名いましたが、自転車の走行は、常に集団でまとまって走るわけではなく、リスク教育を掲げるクラブでもあり、一人一人が自分で考えて走るため、隊列は前後に長く伸びてしまいます。

適宜、先導する中学生に無線で指示が出て、隊列は休止します。主催者の山崎さん自らが、原付きバイクに乗って、隊列の前から後ろまでを巡回していました。また、あまりにも後尾が遅れてしまった場合は「リタイヤ」と言って、2台のワゴン車のうちの1台が、遅れた子どもと自転車を「回収」します。自転車での大人の帯同者3名は、隊列の先頭集団の後ろと第二集団の後ろと最後尾を走ります。

しかし、天国は長くは続きませんでした。大三島で、去年と同じように、標高436mの鷲ヶ頭山のヒルクライムとあいなりました。覚悟はしていましたが、(整備不良による)箱根落車のリハビリを兼ねて参加している私は、左膝が保つかどうか、ひやひやしていました。強がりを言っていたものの、靭帯を損傷し、全治2ヶ月だったのです。このしまなみ海道イベントは、復帰後、ほぼ初めての実走なのです(室内でローラーは回していました)。

いやぁ、でも、なんとか、がんばれました。いわゆる乙女ギアと呼ばれる軽いギアを用意してきたため、最後まで登り切ることができました。鷲ヶ頭山では子どもたちのリタイヤが5名ほど出ました。最後の砂利道は、私のロードバイクではパンクと転倒の恐れがあるので、押して歩きましたが。

昔なつかしのサイダー屋さん

その後の行程も順調でしたが、お好み焼き屋さんに入るときは、分散して、別々のお店に少人数ごとに入店したり、入店直後に全員が手洗いをし、やはり新型コロナ感染予防対策を強く意識しました。

2日目の夜にトラブル発生!

建設中の岩城橋

かと思ったら、2日目の夜にトラブルが起きました。

岩城島の積善山のヒルクライムが予定されていたのですが、なんと、フェリーに18台の自転車が積めないことが判明したのです。主催者の事前の綿密な視察でも大丈夫だと思われていたのに、です。フェリーの種類が変わったのか、あるいは、連休中日でいつもよりたくさんの自動車が積載されていたのか、理由は今ひとつ定かでありませんが、とにかく、岩城島に渡れないのです。

主催者は、常に複数のバックアッププランを用意しているので、急遽、生名島のキャンプ場へと向かい、早めの食事タイムとなりました。このヒルクライムは鷲ヶ頭山より大変だと聞いていたので、内心、ほっとしました。うーん、心が弱い!

アウトドア学童クラブの子どもたちは、表面的なアウトドア疑似体験ではなく、本物のアウトドア体験をします。ですから、緊急避難用のツェルトを張る練習も欠かしません。たとえば、登山の最中、急な悪天候などの際、命を守る必要があるわけです。体温の低下を防ぎ、天候の回復を待って、無事に下山できるスキル。それが、このアウトドア学童クラブが掲げるリスク教育です。

私はアウトドア初心者であり、子どもたちとスキルを張り合うレベルではありません。自転車一人旅用の小さな簡易テントを用意し、軽量寝袋を持参し、子どもたちの足を引っ張らないよう、出発時間に遅れないよう、気をつけました。ちなみに、これが私が愛用している簡易テントと寝袋です(簡易テントは旧版で今はバーゲン価格で買えます。寝袋はヤフオクで新同品を安く購入)。

ヘリテイジ クロスオーバードーム2Gシリーズ完成!

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いよいよ最終日

そんなこんなで、いよいよ最終日が来ました。前日、積善山のヒルクライムが中止になったので、子どもたちは、消化不良のようです(ホントか?)。そこで、午前中は、村上水軍ゆかりの因島水軍スカイラインの激坂に挑戦。絶景なのですが、アップダウンが激しく、激坂が二箇所ほどあります。ふたたび乙女ギアの出番だ!

弓削島から佐島へ渡り、有名なUターンコースへ(しまなみ海道は島一周のブルーラインが車道の左側にあるのですが、ここだけは、行き止まりなのです…...)。すかさず、因島から向島へ渡り、はっさく大福を食べてから、恒例の高見山ヒルクライムへ!

去年も最終日の午後に設定されていた高見山ヒルクライム。標高は283mで平均勾配も8%程度と、御しやすい坂のはずが、実際はまったく違います。まず、山の入り口までが激坂であり、出発点に到達したときに、半分、心が折れます。そして、山道に入ってからしばらくすると、なんと、下りが待ち受けているのです。つまり、平均勾配が8%と言っても、このマイナスの勾配を含めての計算なので、実際は、坂の勾配はきついのです。

そして、頂上が近づくと、20%を超える勾配がサイクリストの心をポキポキと折ります。私も諦めて自転車から降りて、アミノバイタルとチョコレートを補給し、心拍数が140台に戻るまで休み、雄叫びを発しながらラストスパートをかけ、ヘロヘロの状態で頂上に辿り着きました。恐るべし、高見山。

恒例の「中年男性ハラスメント」

全体的にほとんどトラブルがない楽しい自転車旅となりましたが、恒例の「中年男性ハラスメント」に手を焼きました。箱根クライムのときも、クルマを停めて、子どもたちの交通マナーが「なってない」と説教を垂れる中年男性がいました。私が対応し謝罪をくりかえした結果、溜飲が下がったのか、助手席の奥様に促され、走り去ってくれました。

今回、島の名前はあげませんし、クルマのナンバーも書きませんので、特定の人物を非難しないよう気をつけますが、私は数年ぶりに相手にキレて怒鳴ってしまいました。

小さな橋を渡りきってからのカーブでのこと。低学年の子どもが縁石に触れて倒れそうになったらしく、隊列が途中で止まりました。ごく自然な危険回避行動です。私も自転車を停めて状況を見守っていると、突然、後ろから来たクルマがパパーンとクラクションを鳴らして走り去ったのです。中年の男性ドライバーと目が合いました。おまえら迷惑なんだよ、とでも言うような表情で怒っているように見えました。

しかし……なんとこの男、「ながらスマホ運転」をしていたのです! おそらく、通話しながら漫然と走ってきて、道路の左側で止まっている自転車の隊列に気づくのが遅れ、「ひやり」として、腹がたったのでしょう。私は瞬間的に危険を感じ、同時に、怒りの感情が湧いて来ました。

驚いたことに、わずか5分後、近くの港でトイレ休憩をしているとき、ふたたび、この「ながらスマホ運転」の男性がクルマを停めて窓を開け、子どもたちの自転車の停め方を咎めてきました。気がついたら、私は、男に対して怒鳴っていました。

たしかに、子どもたちは道端に雑然と自転車を乗り捨て、我先にトイレへと急いでいましたので、停め方が雑だったのは事実です。しかし、クルマの通行を妨げるような状況ではありませんでした。いずれにせよ、平気で危険運転をする人に、他人のマナーを注意する権利などありません。

男は、自分もこの島でサイクリングイベントを指導しており、私たちの団体のやり方がおかしいと非難し始めました。私は、「それなら警察を呼びますか」と問いかけました。無論、ながらスマホ運転をしていたことをやんわりと指摘しようとしたのです。しかし、男は、「じゃあ呼びましょうか」とニヤニヤ笑いながらスマホをこちらに向けています。

愕然としました。ながらスマホ運転を何とも思わないような人間が、この島の子どもたちに自転車教育をしているとは……。

口論が長引き、イベント予定に影響が出始めました。私は、この男と対峙しても何も変わらないと結論づけ、男に立ち去るよう促しましたが、男は執拗に我々を攻め続け、立ち去る気配がありません。

最終的に、「この場所の自転車の停め方については、あなたのおっしゃるとおりです。また、私があなたに対して怒鳴ってしまったことは謝ります。ですから、これ以上邪魔をしないで、あなたも立ち去ってください」と、この場面を収めました。主催者の山崎さんが介入してくれ、ようやく私も冷静になれたのです。

実を言えば、アウトドア学童クラブに限らず、YES international Schoolでの遠足などでも、子どもたちのマナーを注意してくる中年男性が必ずいます。実際に子どもたちが危険な行動を取っているのであれば、それは、ありがたい注意ですが、大半は、残念ながら、腹いせ、八つ当たりの類です。そして、彼らは、引率の大人が頭を下げるまで、延々と文句を言い続けます。

同じようなことは、電車や飛行機の中での赤ちゃんの泣き声や、公園で遊んでいる子どもたちにも起きています。

なぜ、中年男性によるハラスメントが多いのかはわかりませんが、経験的にそう感じます。彼らも、生まれたときは赤ちゃんで泣いてばかりいたはずですし、子どものときは、いろいろと周囲に小さな迷惑をかけながら、大人になったはずなのに、寛容の精神が完全に欠如しているのです。そして、自分勝手な正義を振り回し、相手に謝罪を求めます。もちろん、中年男性のほんの一握りなわけですが、戦後日本の残念な教育の象徴だと思います。

学校よりはるかに強い絆

すみません、気分が悪くなってしまいましたね。

でも、しまなみ海道の沿道の人々の声援は忘れることができません。ふだん、都会を自転車で走っていて、「頑張って〜」といった声援を受けることなど皆無ですから。ほとんどの人がサイクリストを歓迎してくれているのは事実です。

99.9%楽しかった、アウトドア学童クラブのしまなみ海道イベントでも、とりわけ印象に残ったのが、6年生のH君の涙でした。高見山の山頂で写真撮影をしているとき、突然、H君が号泣し始めたのです。近くにいた観光客が「自転車がきつすぎて、あの子、キテるよ」と囁いていましたが、全然ちがいます。

H君は、苦しくも楽しかった、アウトドア学童クラブの7年の思い出が、一気に蘇り、感動のあまり涙が止まらなくなったのでした。そう、もうすぐ、彼らは卒業なのです。

学校との結びつきより、はるかに強い絆で結ばれた、アウトドア学童クラブ。帯同させていただき、すばらしい三泊四日の体験となりました。

最後の最後、新幹線に乗るのがギリギリとなってしまいました。件のながらスマホ運転の男に足止めを食らったせいです。子どもたちは、お土産を買う時間を失いました。半分は、キレで怒鳴ってしまった私の責任です。深く反省しました。

来年は、100%、苦しく楽しい、完璧なしまなみ海道イベントにしたいものです!

YES International School

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】は

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