返品大国アメリカの実情

 11月第四木曜日はアメリカにおいて一年でも一番大きなホリデーの一つ、サンクスギビングデーである。この日は日本で言うお正月のような位置付けである。その翌日から、ブラックフライデー、サイバーマンデー、クリスマスとホリデーセールが続く。今年はコロナ禍において店舗での密を防ぐため店舗での大型セールを中止するところが多く、ほとんどがオンラインでの購入になりそうだ。

アメリカにおける返品の実情

  全米小売業協会(NRF)によると、2019年のアメリカの小売総額は3兆8100億ドル(約400兆円)で、そのうち「返品」された商品の総額は3090億ドル(約32兆円)であり、実に販売総額の8%に当たる。

 返品の規定はお店によって異なるが、基本的には30~90日以内といった返品対応期間が設けられていて、未使用のオリジナルの状態であれば返品できる。一方、あるグロッサリーストアでは、封を開けて食べてしまったものでも、お客側が満足しなければ返品に対応するそうだ。CostcoやWalmartのカスタマーセンターには連日返品のための長蛇の列ができている。返品の際には、特に理由を求められないことが多い。

 返品に関して規定は設けられているものの、モラルを問われるケースも少なくない。ハロウィンなどのイベントで一日中着用していたものを後日返品したり、高級なドレスをタグを付けたまま着用し用事が済んだら返品する人もいるそうだ。

 私自身も最初は返品をすること自体に違和感を覚えたものだが、今ではすっかり慣れてきており、店頭で購入するか迷った際にはとりあえず購入して、自宅で試着&吟味を行い気に入らなければ返品するようになった。

 ギフトの場合、商品には大体ギフトレシートが添付されているため、受け取った人が気に入らなければ簡単に返品することが可能である。日本人には馴染みはないこのギフトレシートには値段は記載されていないが、全額をそのまま返金してくれるところと、ストアクレジットと言ってその店舗でのみ使える金券に換えてくれるところがある。

 オンラインでのショッピングが主流になるにつれて返品数も増加しているのが実情であり、この状況に小売業者は非常に頭を悩ませている。

返品された商品の行方

  では、返品された商品はどのように処理されるのか。

 大抵の人は返品された商品はすべて店舗に戻されると思っているかもしれないが、実際には全体の半分ほどしか在庫に戻らない。残りの半分は、再度梱包して販売するとコストがかかるため、そのまま廃棄処分される可能性が高い。少なくとも、返品されたギフトのうち毎年500万ポンド(約2,270トン)がゴミと化している。

 そこで活躍するのがLiquidatorと呼ばれる回収業者である。回収業者はThe Home DepotやAmazonのような会社から商品の小売価格の5〜20パーセントの金額で返品された商品を買い取る。大半はオンラインでのオークションで再販されるが、オークションでも売れ残ったもので、リサイクル価値がないものはゴミ処理の埋め立て地へ送られてしまう。

 これらの返品にかかるコストは全て小売業者の経費となるため、近年では返品規定を厳格化する動きもあり、コロナ禍によるオンラインセールの増加につれてその傾向は加速するかもしれない。

 ホリデーシーズンは家族や友人へギフトを贈る習慣があり、遠く離れている家族や友人ともギフトを交換し合うため、多くの人からギフトが届くことになるが、なかなか自分が気に入る物をもらえるとは限らない。アメリカでは日本に比べると気軽に返品ができ、ホリデーシーズンはその数も増加すると言われている。返品大国と言われるアメリカの実情について、今後も見ていきたい。

© 株式会社メディアシーク