税金対策に役立つ耐震基準適合証明書とは。取得方法や費用、条件などを解説

住宅を購入するときに、現行の耐震基準を満たしていると税金対策に役立つことを知っていますか?住宅ローン控除の対象となった場合には、10年間で最大400万円も節税できるなど、多くのメリットがあります。耐震基準を満たしていることを証明するために必要とされる書類が、耐震基準適合証明書です。耐震基準適合証明書を取得すると、どのような減税措置を受けられるのか、取得する方法や注意点を含めて解説します。

耐震基準適合証明書とは

「耐震基準適合証明書」とは、住宅が現行の耐震基準を満たしていることを証明する書類です。耐震基準は、国土交通省が建築基準法において定めています。現行の基準は「新耐震基準」と呼ばれ、1981年に導入されました。

1995年に発生した阪神淡路大震災で、住宅や建築物が多く倒壊し、甚大な被害が発生したことを憶えている方は多いと思います。当時被災した建物の多くが、新耐震基準が導入された1981年以前に建築されたものだったことが、大きく問題になりました。そのため国土交通省は、住宅の耐震化率を2020年までに95%に、そして2025年までに耐震性が不十分な住宅をほぼなくすことを目標に、耐震化を推進しています。

この動きを受け、現在政府は耐震基準を満たした住宅に対し、減税などさまざまな恩恵が受けられるようにしていますが、その際に必要な書類のひとつが「耐震基準適合証明書」です。耐震基準適合証明書を取得することでどのようなメリットがあるのかを、次章にて詳しく紹介していきます。

耐震基準適合証明書を取得するメリット

耐震基準適合証明書を取得することで得られるメリットを、順番に紹介します。

さまざまな控除、特例を受けることができる

耐震基準適合証明書を取得することで得られる大きなメリットは、以下で挙げるようなさまざまな控除、特例を受けられることです。
・住宅ローン控除
・住宅取得等資金贈与の特例制度
・マイホーム取得資金の相続時精算課税の特例
・中古マイホームの登録免許税軽減の特例
・中古マイホームの不動産取得税軽減の特例

上記の特例を受けられるのは、基本的にはマンションなどの耐火建築物の場合で築25年以内、木造など耐火建築物以外のもので築20年以内の建築物のものとされています。しかし耐震基準適合証明書を取得すると、この基準が撤廃され、これ以上の築年数が経過した建物でも控除を受けられるようになるのです。それぞれの特例がどのような内容なのか、詳しくみてみましょう。

住宅ローン控除

住宅ローン減税は、10年間で最大400万円の住宅ローン控除を受けられる制度です。正式には「所得税の住宅借入金等特別控除」と呼ばれ、住宅を取得したときの納税者の負担を軽減するため、金融機関などから借り入れた借入金の一部を所得税から控除します。

耐震基準適合証明書を取得すると、築年数の制限が撤廃されます。しかし、控除を受けられる住宅は床面積が50㎡以上であること、控除の適用を受ける年の合計所得金額が3000万円以下であることなど、その他の条件が緩和されるわけではないことには注意が必要です。住宅ローンの控除額は年末のローン残高の1%(最大40万円)で、条件により控除年数は10年(2019年10月1日〜2020年12月31日までに入居した場合は特例措置として13年)に延長されています。

詳しくはこちら。
✓住宅ローン控除の還付金はいつ受け取れる?思ったより少ない場合のチェックポイント

住宅取得等資金贈与の特例制度

住宅取得等資金贈与の特例制度は、父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受けて、マイホームを新築、取得または増改築したときに、贈与税を非課税にできる制度です。こちらも耐震基準適合証明書を取得することで、築年数の制限が撤廃されます。非課税限度額は、以下のとおりです。

<消費税率が10%の場合>

<非課税など消費税率が10%以外の場合>

省エネ住宅に該当するには、以下のいずれかの基準を満たす必要があります。
1.断熱等性能等級4
2.一次エネルギー消費量等級4以上
3.耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上
4.免震建築物であること
5.高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上

住宅取得等資金贈与の特例を受けるためには、ほかにも受贈者や建物について細かな要件があるため国税庁のHPで確認するようにしてください。

マイホーム取得資金の相続時精算課税の特例

マイホーム取得資金の相続時精算課税の特例は、2021年12月31日までに父母や祖父母から贈与を受けて、20歳以上の子や孫がマイホームを新築、取得または増改築したときに、2500万円までは贈与税を非課税にして、相続が発生した時点で贈与した財産と相続した財産を合算して相続税を課税する制度です。

耐震基準適合証明書を取得することで、築年数の制限がなくなりますが、延べ床面積が50㎡以上であることなどの要件は満たす必要があります。一般的に、多額の財産を贈与する必要があるのは、住宅を所得するときと考えられるため、必要なときに多額の贈与が受けられることがこの制度のメリットです。ただし、贈与税が免除されるわけではなく、相続時に後延ばしにされるだけで、実際相続するときに贈与された額が加算されて相続税が計算される点には注意しましょう。

中古マイホームの登録免許税軽減の特例

登録免許税というのは、不動産の所有権を登記する、抵当権を登記する場合に納付する税金で、耐震基準適合証明書を取得することで軽減を受けられるのは、以下の3つです。(適用期限:令和4年3月31日)

・所有権の保存登記:本則0.4%→特例0.15%
・所有権の移転登記:本則2.0%→特例0.3%
・抵当権の設定登記:本則0.4%→特例0.1%

中古マイホームの不動産取得税軽減の特例

不動産取得税については、1982年1月1日以降に建築された住宅であれば、耐震基準適合証明書は不要で軽減措置を受けられます。それ以前に建築された住宅については、耐震基準適合証明書を取得することで以下のとおり減税されます。

耐震基準適合証明書の発行に必要なもの

耐震基準適合証明書を発行してもらうために必要な書類は、以下のとおりです。
・検査済証の写し(または台帳記載事項証明書)
・販売図面、または間取り図
・建物登記事項証明書の写し
・物件状況等報告書

検査済証は、家を建てたときには必ず発行されている書類です。ただ、発行が義務となったのは2000年に入ってからであるため、それ以前に建築された中古住宅の場合は検査済証がないことも考えられます。その場合には、耐震診断などを受けて、新耐震基準と同等の耐震性があることを証明できる書類を用意する必要があります。

耐震基準適合証明書の取得に必要な期間

耐震基準適合証明書の発行は、申請してから新耐震基準に適合しているかの現地調査があります。依頼後に現地調査を実施するまでに1週間、耐震診断に1カ月程度は必要です。耐震診断で新耐震基準を満たさないとわかった場合には、補強工事を行わなければなりません。その場合2〜3カ月かかることも想定されるため、耐震基準適合証明書の発行を希望する場合には、発行希望時期から逆算して、早めに耐震調査を申し込むようにしてください。

耐震基準適合証明書の発行に必要な費用

耐震基準適合証明書を発行するのに必要な費用は、依頼先によって異なります。証明書の取得費用は1通につき約3万〜5万円が相場ですが、別途耐震性能を調べる住宅診断費用が10万〜15万円程度必要です。

耐震基準適合証明書の発行の流れ

耐震基準適合証明書は、国土交通省が指定した一般財団法人などの指定性能評価機関や建築士などのみに発行が許可されています。耐震基準適合証明書の発行は、以下のような流れで行われます。

1.指定性能評価機関や建築士に事前相談
2.耐震診断の申し込み
3.耐震診断の実施
4.耐震診断結果報告
5.耐震基準適合証明書の発行依頼(適合の場合)
6.費用の支払い
7.耐震基準適合証明書発行

耐震基準適合証明書は、すでに居住している人は取得できません。そのため物件の引き渡しを受ける前に取得する必要があります。耐震診断結果で補強工事が必要とされた場合には、2〜3カ月、長ければ半年以上かかることを想定して、早めに依頼するようにしましょう。

耐震基準適合証明書を発行、使用する際の注意点

耐震診断自体が木造の物件を想定したもので、木造の戸建て以外での発行は難しい

耐震基準適合証明書を取得すれば、どんな場合でも住宅ローン控除や減税が受けられるかというと、そんなことはありません。耐震性がないと評価され、補強工事までしたのに節税効果が得られない可能性も考えられます。そんな事態を避けるために、耐震基準適合証明書を発行、使用する際の注意点をあらかじめ確認しておくようにしましょう。

木造の戸建て以外での発行は難しい

耐震基準適合証明書は、木造の戸建て以外での発行はかなり厳しいのが現実です。それは耐震性がないと判断された場合には耐震補強工事が必要となるためで、マンションであれば個人の都合で全体の耐震補強を行うというのは、どう考えても現実的ではありません。

耐震診断自体が木造の物件を想定したものである場合が多く、RC構造などは対象外とされるケースが多いことも理由のひとつです。機関によっては、「木造の2階建て以下の戸建て」などと限定しているところもあるようです。購入予定の物件が木造戸建てでない場合には、耐震基準適合証明書の発行は最初から考えないほうがいいかもしれません。

建物の建築後の発行も難しい

近年建設された建物は、新耐震基準を満たしていると考えられますが、1981年以前に建てられた物件はほとんどが基準を満たしていません。対象の住宅で耐震基準適合証明書を発行してもらおうと考えた場合には、ほとんどのケースで耐震補強工事が必要になります。耐震補強工事を行うには、状況によりますがかなりの費用が発生すると予測されるため、節税効果と比較して、コスト面であきらめる人も少なくありません。工事をすると決断しても、長い期間がかかってしまい、減税の申請に間に合わないことも多いのです。

住宅ローン減税が適用されないケースもある

耐震基準適合証明書を発行してもらっても、耐震基準以外で住宅ローン控除の要件が満たせなかった場合には、控除は適用されない可能性があります。耐震基準適合証明書は、マンションなどの耐火建築物の場合で築25年以内、木造など耐火建築物以外のもので築20年以内の建築物という、築後年数要件を緩和するためのものであり、そのほかの条件を緩和させるものではないためです。

住宅ローン控除を受けるには、住宅の床面積が50㎡以上であること、控除の適用を受ける年の合計所得金額が3000万円以下であることなど、さまざまな要件があります。ほかの要件をすべて満たすかを確認したうえで、耐震基準適合証明書の発行を申請しないと、耐震診断にかける費用がムダになる可能性があるため注意してください。

住民票の移転時期に注意

2014年から、引き渡し後に改修工事を行って耐震基準適合証明書を発行してもらった場合でも、減税を受けられるようになりました。ただしこの場合、住民票の移転時期に注意する必要があります。減税を受けるためには、耐震工事完了の証明書を受け取った日「以降」から6カ月以内に入居することが要件とされていますが、この入居日は、住民票を移転した日を基準としているためです。一般的に、住宅ローンを組む場合、銀行は融資を実行する前に住民票の移転を依頼します。このとおりに進めてしまったら、耐震改修工事を行う「前」に入居したことになり、減税の要件を満たさないため注意しましょう。

フラット35に必要な適合証明書との違い

中古物件で住宅ローン控除を受けるために耐震性を証明する書類には、耐震基準適合証明書以外にもフラット35適合証明書があります。この2種はよく混同されてしまうのですが、以下のように目的が異なります。

フラット35は、民間の銀行と住宅金融支援機構が提携して提供している長期固定金利の住宅ローンです。フラット35で融資を受けるには、住宅に対して厳しい基準が設けられていますが、そのうちのひとつに「建築確認日が昭和56年6月1日以後であること」というものがあります。つまり新耐震基準後に立てられた住宅でなければならず、これ以前に立てられた住宅は、新耐震基準に適合していなければなりません。つまりフラット35の適合証明書を発行された住宅は、新耐震基準を満たしていることがわかるのです。

すまい給付金に必要な「既存住宅性能評価書」との違い

耐震基準適合証明書と同様に、住宅の耐震性能を証明するための書類のひとつに既存住宅性能評価書があります。既存住宅性能評価書は、すまい給付金を受けるために利用される書類のうちのひとつです。すまい給付金は、消費税率が引き上げられたことを受け、住宅取得者の負担を緩和するために創設された制度です。住宅ローン減税は、所得税から控除されるため、もともと控除される所得税が少ない層にはメリットが小さいため、負担軽減効果が薄い収入層に配慮して創設されました。そのため給付額は住宅取得者の収入や持ち分割合によって決まることが特徴です。

中古住宅の購入ですまい給付金を受けるためには、売買時に現行の耐震基準を満たしていることと、一定の品質が確認される必要があるとされています。既存住宅性能評価は、国土交通大臣の登録を受けた第三者機関である「登録住宅性能評価機関」が行い、評価1〜5等級で表示されます。すまい給付金を受けるには、耐震等級が1以上でなくてはなりません。

耐震診断が難しい住宅の場合は住宅売買瑕疵保険で代用できる

耐震診断が難しい場合には、既存住宅売買瑕疵保険の保険付保証明書を活用する方法があります。既存住宅売買瑕疵保険の保険付保証明書とは、既存売買瑕疵保険が締結されていることを証明する書類です。耐震基準適合証明書と同様に、新耐震基準を満たしていることを証明するために利用できます。住宅ローン減税はもちろん、登録免許税、不動産取得税、贈与税の非課税措置等、長期譲渡所得の課税の特例などさまざまな特例が対象になります。耐震診断が難しい場合には、既存住宅売買瑕疵保険への加入を検討してみましょう。

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